肌を撫でていく風が冷たさと鋭さを日に日に増していく。その上、頭上を照りつける太陽の光も強さを増していく。挟み撃ち攻撃を受けながらも少女は必死に生きていた。









「何でィ、その大袈裟な表現は。」

「人のモノローグにケチつけるなヨ。」


四人掛け用のベンチを二人で占領し、丁度半分にあたる辺りには木の枝が置かれていた。その右側に神楽、左側に沖田が座っている。それは10回程のアイコを連発してから漸く決められたものだった。お気に入りのマフラーを首に巻きつつ、トリプルアイスを頬張る神楽を横目に見ながら沖田は溜息を吐く。


何処ぞのピンク色の丸いキャラクターじゃあるまいし、食物を次々に吸い込んでも技なんて何も習得できない、と言ってやりたいのを堪えていた。自分の隣に座る女のせいで、最近財布が軽い。



「だったら節約すればいいアル。」

「お前エスパー?」



いつの間に読心術を身につけたのか。やはり膨大な食物を吸い込んでいく内にレベルアップでもしたのか。


「全部声に出てるアル。」

「まじでか。」


最後のコーン部分をバリバリと豪快な音を立てて噛み砕く神楽は、完全に女を捨てているように見えるが実はそうでもないことを最近知った。たまに垣間見ることのできる乙女思考が可愛いと思ってしまうのは末期症状だと自分でも自覚している。



「節約って言えばさ、この前ニュースでやってたんだけど『カップルで一緒にお風呂=最高の水の節約になる』らしいぜィ。」


「お前ニュースなんか見るアルか。ごっさ意外ネ。」

「そこかよ。もっと反応すべき点があるだろィ。」



結局最後まで用無しだったピンク色のスプーンを右手でくるくると弄ぶ神楽が言ったことに対して沖田は少なからず肩を落としながら呟いた。そしてスプーンを神楽から奪い取ると、清清しい音を立てて折った。


「それなら銀ちゃんと私の方が節約してるネ。」


沖田によって二つに折られたスプーンを奪い取り、さらに二つに折りながら神楽が胸を張って答えた。その発言に、地面に落ちていた小枝によって作られた境界線を破って沖田は神楽に迫った。互いの顔は数センチしか離れていない。


「それどういう意味でさァ。」


顔が近い、なんていうことでは照れる気持ちにならない神楽は、ベンチから数十メートルは離れた緑色のゴミ箱に向かって4つに分裂した桃色の物体を次々と投げ入れ、全てが見事に納まったのを見届けてから平然と答えた。


「お風呂は一緒のお湯使ってるし、コップとか食器は極力洗わないから間接チュー余裕だし、下着だって『銀ちゃんと別々に洗って』とか新八に言わないし、電気節約でなるべく同じ部屋にいるようにしてるし、夏は扇風機の前でなるべく隣にいるアル。」



神楽が一気に説明し終わり、ゆっくりと深呼吸をしていると突然沖田が無言で立ち上がった。その拍子に境界線の役割を果たしていた小枝がベンチの下に落ちるが、神楽も沖田も気にも留めない。疑問符を頭の上に浮かべている神楽を一人残したまま、沖田は立ち去った。



そして数分も立たない内に一枚のメモ用紙とボールペンを持って戻ってきた。再び座ったかと思うと、一言も発さずに黙々と白い紙の上にペンを走らせる男を神楽は面白そうな表情をして見ていた。が、文字が意外に小さかったため何が書かれているのかまでは判別することができない。




太陽が地平線の下に沈むまでは時間がありそうだったが、ひゅるりと冷たい木枯らしが二人の間を通り抜け、思わず筋肉が萎縮するのが分かった。

隣で小さくなった神楽を見て思わず口元を上げる。丈の短いチャイナ服から覗く白い太腿から視線を外さないようにして神楽に向かって言った。


「俺があっためてやろうか。」

「そんな陳腐なセリフはお断りネ。」


沖田の変な視線に気が付いたのか、横に移動して距離をとった神楽は体を反対方向へ向けたまま答える。


「ケチケチすんな。ヤれば一発で熱くなれるぜィ。何なら野外プレ「はーい。神楽ちゃん、帰る時間ですよー。」


パンパンと手を叩く音と共にベンチの後ろから発せられた聞きなれた声に、二人は首をゆっくりと回した。

視界に入ったのは妙な笑顔を顔に貼り付けている銀髪の男。手にはスーパーのビニール袋を下げていた。これ見よがしに深くて長い溜息を吐いてみせた沖田は、さらに相手に聞こえるように舌打ちをする。


「露骨すぎだからね、これでも銀さんデリケートなんだよ。」

「旦那ァ、そんなんじゃ現代社会で生きていけやせんぜ。女子校の裏なんて、こんなもんじゃありやせん。舌打ちなんてリボン着けたテディベア並の可愛さでさァ。」

「せめて寺子屋って言おうよ。時代設定とか壊すの良くないからね。」


そう言いながら銀時は神楽のマフラーを引っ張り、ずるずると引き摺って行く。神楽の首が絞まるかもしないなどという心配が不要なため、思いっきり力を入れて即急にその場から立ち去ろうとした。地面に落ちた落ち葉をスケート代わりに神楽は楽しそうにされるがままである。



「じゃーな、チャイナ。今度一緒に風呂入ろうぜィ。地球のために。」

「意味分かんねーから。ホラ神楽も何か言い返せ。」

「オウ!地球のために。」

「ノリノリじゃねーか。」



拳を夕焼けが広がる空に向かって突き出しながら答える神楽に銀時は半ば呆れ、あっさりと貞操を捨てようとする娘に保護者として半ば泣きたい気持ちになって呟いた。
















***

窓の外がすっかり暗闇に包まれているが、時計は6時を指していた。本日の夕飯係である新八は台所に、銀時は自分の机に足を乗っけながら先程買ってきたジャンプを読んでいた。一方、ソファーで眠りこけていた神楽は頬に落ちてきた定春の涎によって目が覚ました。餌の時間だということに気が付き、慌てて立ち上がった際何かがポケットから落ちた。


それは白い紙だった。




「銀ちゃーん。」

「あ?」

「今日からお風呂のお湯沸かし直しても良いアルか。後、押入れにストーブも設置して欲しいアル。」

「え。」


動作を停止させジャンプのページが勝手にパラパラと戻っていくのにも気が付かない様子の銀時を他所に、今度は台所にいるであろう新八に向かって大声で叫んだ。


「新八ー!今日から私と銀ちゃんの服とか下着とか全部別々に洗濯して欲しいアル。」

「いいけど、どうしたの急に。」

「何か紙に書いてあるネ。これに従えって。」


いつの間に後ろへ回っていたのか、銀時が神楽の手に握られているメモ用紙を凝視していた。新八も作業を中断し、手を濡らしたまま二人の元へと近付いていく。三人で小さな紙を覗き込むこと数分間。沈黙を破ったのは腕を組んで仁王立ちした銀時だった。


「神楽ァ、今日もお前の後に俺が風呂入るから。それでいいだろ。」









無添加、
無着色、
防腐剤フリー



(そんな君もいつかは…)
















<あとがき>
さなみ様よりキリリク小説なんですが、何十回目かのタイタニックです。
沖神甘で銀さん親馬鹿…?ウェアイズそんな要素?もうソフトウェア的な。
カラスの餌にして下さっても結構ですので!リクエスト有難うございました。

BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
第4回BLove小説漫画コンテスト開催中
リゼ