「アレ?神楽?」
先程先生に連行された少女が、気がついたら後ろで息を切らしていて驚くのは当たり前。
門の柱部分に、3人で背を預け「どうしようか」と相談している所だった。
「どうした?」
「用事、早く終わったからカラオケ行けるアル!!」
中々落ち着かない動悸を、何とか鎮めようとして胸に手を当てながら神楽は言った。
目の前の三人は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに嬉しそうな表情をする。
さすがに男三人はムサいだろうという結論を出したばかりだった。
「マジか!?じゃあ行こうぜ。」
4人の高校生の影が、正門の方へと伸びた。
段々と遠ざかっていく影に、一人の教師は追いつきそうにもない。
「安さか、綺麗さ、どっちがいい?」
「うーん。どっちでもいいアル。でも高すぎは嫌ヨ。」
「じゃあ、唄ヒロで。」
学校の最寄り駅から某繁華街は徒歩圏内。
学校に入学する希望者の中には、これが理由という人もいるくらいだ。
夕方となると、自然と人も多くなる。溢れる人ごみに揉まれながら、神楽達はカラオケを目指して歩いていた。
あちこちにゴミが捨てられ、繁華街特有の匂いもするし、ビルや建物も綺麗とは言い難い。
が、そんなことを高校生は気にしない。
究極の安さを求めて、漸く辿り着いたカラオケ店の前に四人は立ち止まる。
入店する前に、クーポン券を携帯で呼び出し準備完了。
意外にも空いていたため、並ぶことなく個室に入ることができた。
沖田と喧嘩してしまったことは、確かに後味は悪い。
けれど、こうなったらヤケクソだと神楽は思った。
思い切り、とことん楽しもう。
あんな束縛する男なんて・・・と心の中で沖田を罵ってみるが、何となく意味を成さない気がした。
ぼんやりと見つめたタイルの床が、僅かに霞んで見えるのは涙腺が緩んだせいじゃないと信じたい。
ドリンクバーで一人二杯程度を確保し、部屋に運んで早速曲を予約し始める。
「神楽ちゃんってさァ。」
神楽の隣に座った他のクラスの男子が、友人達が歌い始めて暫くしてからリモコンを弄っていた神楽に話しかけた。
軽い自己紹介をお互いにした後、その会話は神楽の携帯のバイブによって中断された。
メールではなく、着信だった。
「ごめん、ちょっと外出てくるネ。」
大音量が流れる部屋で、携帯で通話などできない。
急に音のない静かな空間に出ると、耳が麻痺するような感覚に陥る。
他の部屋から音が漏れて聞こえてくるが、気にならない程度だ。
「もしもし?」
「神楽?」
相手を確認しないで出てしまったことに神楽は後悔するが、もう無駄だった。
唇をぎゅっと噛み、敢えて返事をしないでいると相手が続けた。
「今何処?」
「・・・・、カラオケ屋さん。」
神楽の一言の後、盛大な溜息をついた沖田は困ったように言った。
「あいつ等と結局遊びに行ったってワケ?」
「・・・・・・。」
やはり怒っているのか、と思っていたら聞こえてきたのは意外な言葉。
「怒ってないから、店出て駅に向かって歩いてきてくんねェ?」
「えっ?」
「待ってるから。」
それだけ告げた相手は、電話を一方的に切ってしまった。
相変わらず自分勝手な男と思うと同時に、すぐに行かなきゃと思った神楽は急いで部屋に戻る。
途中、数人の男女のグループ客とすれ違う。いつもなら鼻につく甘ったるい香水の匂いも、腹の立つくらいルーズな着こなしをするギャル男も今なら許せた。
大音量のせいで痛くなったと思いたかった頭が、急に楽になった気がした。
料金は先払いだったため問題はなかった。「ごめん。」という言葉を繰り返して、急いで店から出て、駅の方へと走り出す。
人ごみを避けて裏道を通ることにする。鞄が邪魔だったが、舗装させていても凸凹した道をひたすら走っていたら、急に腕を掴まれて方向転換させられた。
驚いて目を見開くと、立ってたのはこれから会いに行こうとしていた人物。
「・・・先生。」
「ったくお前は。」
神楽を捕まえることができて安心したのか、気の抜けた表情を見せる沖田は腕に入れる力を緩める。
すぐに、二人が立っている場所の横に駐車していた自分の愛車の助手席に神楽をそのまま放り込んだ。
沖田は反対側に回りこんで、運転席に座る。
まだ数回しか乗ったことのない彼の車と、慣れないシートの匂いに神楽が戸惑っていると急に抱きしめられた。
狭い空間に流れる沈黙。
それを破ったのは沖田だった。
「ごめん。さっきキツく言って。」
その間にも抱きしめられる力は強くなっていって、痛みすら感じた。
自分の腕が肋骨に当っている気がした。
「俺、神楽が他の奴に獲られると思って不安になるんでさァ。教師で、お前と違って高校生じゃないし。」
その声が、必死で、余裕がないのが分かった神楽はどうしようもなく自分を抱きしめている男を愛しく可愛いと感じてしまう。
こんな声を出させるまで、私はこの人に愛されている・・・自惚れかもしれないという思いもあったが、この腕の力でそれは確信に近いものがあった。
「私は・・・先生だけヨ?」
それが殺し文句だとも自覚せず、神楽は呟いた。
とんでもない爆弾を沖田に投下してしまったことを知るわけもない。
身体を引き剥がされたと思ったら、荒々しく口付けられた。
車内と言えどもここは路上で、誰かに見られているかもしれないという恥じらいの気持ちも、今は捨てられると神楽は思った。
息はできず、瞼はしっかりと閉じたままで、口内に侵入してくる自分とは別の熱。
角度を変えられるのは何度目だろうと、ぼんやりと思っていたら漸く唇と唇が離れる。
未だに慣れない自分にとっては背伸びの行為の後は、いつも意識が定まらずにいる。
そんな状態に今も例外なく陥っていたら彼が言った。
「このまま俺の家かホテル行かねェ?」
「馬鹿・・・。」
笑い合った二人を車の窓ガラスから低く入射する夕日が包み込む。
フロントガラスに、はらりと舞った葉は何処から付いてきたのか、あの桜の木のモノだった。
Deeper,Sweeter,
Love me more
(んで?どっち?)
(どっちも遠慮しておくネ)
(まじでか)
<あとがき>
れい様より、沖神甘で教師と生徒の弐万打リクでした・・・がすみません!!またもや出来上がったのは駄文という・・・オチ。
長い上に場面展開多すぎんだよっ!と突っ込まれても反論できません。ごめんなさい・・・。文才がない故に(泣
れい様のみ煮るなり焼くなりして下さい。勿論(有り得ないと思いますが)お持ち帰りもしてくださって結構です。リクエスト有難うございましたww