よ☆夏姫のシリーズ
↑を先にお読みになるのが良いと思います。
最近ずっと晴れた日が続いていたせいか、久しぶりに降っている今日の雨は、いつになく激しかった。
今日の朝から降り続けている雨は、夕方になってもやみそうにはないと朝方のニュースでキャスターが言っていた気がする。
規則正しい音が、少しのリズムの狂いもなく刻まれていく。
「すごい雨ー。」
「そうアルなー。」
長方形の窓枠から見える外の風景は、まるで一枚の絵のようで。半袖のセーラー服を着た少女達は、その絵を眺めながら会話する。
「ねーねー。神楽ちゃんって一人っ子?」
噂好きで有名な、クラスに一人はいる女の子。なんでか知らないが、突然こんな質問をしてきた。
「兄貴が一人。」
遠くの木々に雨粒が降りかかっているのを見つめながら神楽は答えた。
最近、欝陶しさ三割増しのバカ兄貴が頭に浮かぶ。
そーいえば昨日の夜、「俺のこと好き?」とか意味不明で気味悪い以外の何ものでもない質問をしてきたのが記憶に新しい。(ちょっと言いすぎカ・・?)
「神楽ちゃんのお兄さんって、めちゃくちゃカッコイイんだよ!」
もう一人の友達が黄色い声を上げて話題に食いついてきた。兄貴の姿を何処で見たことがあるのかという疑問が湧く。
しかし、神楽はすぐに思い出した。
一年前の授業参観。
「絶対に来なくて良い」と家を出る直前まで念を押したのにもかかわらず、あのバカは新調したばかりのスーツを着て3限の教室の後ろに立っていた。
自分の兄の容姿がかなり良いことは神楽も認めていた。
そして当然、そんな兄は学校に来ていた奥様方、女子生徒達を虜にさせて(本人は無意識)神楽は後日、あらゆる人から尋問めいたものを受ける羽目になったという苦々しい思い出があった。
「ただウザいだけアル。」
神楽がそう呟くと「またまた〜」と女の子達が軽くちゃかす。
きっと何を言っても謙遜としか受け取って貰えないだろうと思った神楽は、女子達が繰り広げる兄に対する賞賛話を黙って聞くことにした。
傍に置いてあった携帯が音を立てて振動する。折り畳まれた桃色の携帯のランプが水色に光っていた。
水色はメール。
どうせメルマガだろうと思いつつ、一応メールを確認することにした。
メールは話題の張本人、兄からだった。
◇◆◇◆◇
「「よく食べるな。相変わらず。」」
学校近くの某ファミレスで目の前に座り、ハンバーグステーキセットを平らげた後、リゾットを完食し終えた少女を見つめ、呆れたように二人の男が呟いた。
「当たり前アル。夏バテ対策ネ。」
「年中その食欲だろ。」
「高杉は食べなさすぎネ。銀ちゃんは糖分取りすぎアル。」
「テメーが明らかに食い過ぎなんだよ。」
「そーカ?」
時刻は午後9時。神楽は店内のストライプ柄の壁に掛けてある丸い大きな時計を見てぎょっとした。
門限をとっくに過ぎていたからだ。
本来の門限は午後7時。19時だ。
大抵、兄は夜中に帰ってくるので門限を過ぎてもバレないことが多いのだが、たまーに早く帰ってくることがある。
過去に一度、自分よりも兄の方が早く帰宅していて門限を5分すぎて帰っただけで問い詰められた。その時は、思いつきの嘘で誤魔化したが二度目は通じるか分からない。
恐る恐る鞄の中に閉まってある携帯を取り出す。どうか、先に兄貴が家に帰っていませんように・・・。と願いつつ。
マナーモードにしているため、全く気がつかなかった。
着信 15件。
メール 8件。
全て兄からのものだった。
ヤバー・・・・・。
神楽は目の前に座る大の男二人を見つめる。こめかみ辺りには薄っすらと冷や汗。
兄は仕事が忙しいらしく、いつも「ご飯は食べてて」というメールが夕方前までに届く。
そして今日も届いた。
一人で晩御飯を食べるのも何だか寂しいので、神楽は学校の担任である銀八の家で食べたり(押しかけて)、同じく先生である高杉も加わえてファミレスで食べることが多かった。
突然黙り込む神楽を銀八が不審そうに覗き込む。
「どした?」
「門限が・・・。過ぎたアル。」
「あららー、じゃあもう会計済ませるか。」
そう言いながらも、金を払う気など毛頭ない銀八は、自然すぎる流れで領収書を高杉に渡す。
文句を言わず、三人分の会計をレジで済ませる高杉を見て、銀八も神楽も心の中で盛大に感謝した。
「じゃあ神楽、お前は高杉に送ってもらえ。」
「えっ?」
「俺の原付じゃスピード出せねぇし。高杉のオートバイなら早く家に着けるだろ。」
銀八にしては珍しく効率的な思考だ。神楽も納得し、高杉のオートバイに乗せて貰うことになった。銀八は自分の原付を駐車している場所に向かって行った。
兄にメールで「今から帰る。」と送ってから、渡されたヘルメットを被り、オートバイに跨ぐ。
自分が今セーラー服でスカートというのを少し躊躇したが、高杉の腰に手を回しながら神楽は言った。
「ごめんアル。」
「別に構わねェ。」
威勢の良いエンジンの音をたてて、一台のオートバイが発進した。
◇◆◇◆◇
いつもいつも神楽に「ご飯食べてて」というメールを送る自分が嫌だった。一人でご飯なんて寂しいに決まっている。
俺が仕事に就く前は、当たり前のように毎日二人でテーブルを挟んで晩御飯を食べていたのだから。
まぁ数年年前辺りからは、一緒に食べていても無言で会話は無かった気がするが・・・。神楽はテレビに釘付けだったし。
そして今日も同じメールを送った。
が、想定外のことが一つ起きた。
仕事が思っていたよりも早く終わってしまったのだ。
別の現場に行くはずだったのだが、別の人が派遣されることになったため直帰して良いという許可が出た。
良かった・・・。久しぶりに早く神楽のいる家に帰れる・・・。
激しく雨が降った後の水溜りだらけの道を軽い足取りで歩きながら俺は家に帰った。
「ただいま」を言うが返事がない。どうせ昨日と同じ展開だろうと思った総悟は、リビングに入って驚く。
電気が消えていて、家中が暗闇に満ちていた。急いで玄関に戻って神楽の革靴がないか確認する。
なかった。
ということはまだ帰宅していないらしい。
もう夜の9時前だ。
どうしようもないくらいの不安が総悟を襲う。
慌てて神楽の携帯に電話をかけるが、出ない。メールも送るが、返信はない。
何回もその行為を繰り返した後、総悟はリビングにあるソファーに座り込む。
不安。
あんなに可愛い容姿をしている妹なのだ。道端で変質者や痴漢に襲われる可能性だって十分にある。それか繁華街でナンパされてしまっているのかもしれない。
そうでなくとも、昔から男にモテている気配のある妹。
中学と高校は共に共学。
総悟としては女子校に神楽を入学させたかったというのが本音だったが、神楽が近い学校が良いと言い張ったため、諦めた。
もちろん、その度に ありとあらゆる方法で害虫駆除は徹底してやってきた。
しかし、仕事を始めてから多忙になり、そんなことをしている余裕はなくなってしまったのが事実。
気が気でない。
とその時、自分の携帯のメール着信音が鳴る。目にも止まらぬ速さで開いて見ると、「今から帰る。」と神楽からのメールだった。
ほっと安堵する総悟だったが、急いで部屋を後にすると エレベーターを使わず、階段で一階まで下り、マンションのエントランス前へと急いだ。
不安と焦りの感情によって生み出された汗が額を伝って下に滴り落ちていった。
<あとがき>
えー予想に反して長くなりましたので、
ココで切ります。(おい
すみません・・中途半端で><