沖神兄弟パロシリーズ。
読んだことないという方は是非、先に『よっ☆夏姫』と『よっ☆夏娘』を。
よっ☆祭娘
高校生としての夏も、残り日数を両手で数えられてしまう程となった。
空を見上げれば、入道雲ではなく空一面に斑点状の鰯雲が広がるようになる日も近いだろう。
仮にも受験生だが、そんな危機感を忘れたい日もあると愚痴ってみたら、意外にも理解のある反応を示してくれたのは不良教師。
「夏祭りでも行くか?」
教師と生徒が果たして外で二人きりで会ってよいのかという疑問を普通なら持つのだが、そんなことが全く頭を過ぎらないのが、この少女と男だった。
「うーん。考えとくネ。」
と、あまり気の進まない返事をした少女に不良教師も適当な相槌を打った。
***
「夏祭り」というのは、本来 病魔・罪穢を払い清福を祈請するために行われる祭りらしいが、少なくとも二人の目の前に広がる光景に、そんな意味が微塵も含まれていないだろう。
ヨーヨー釣り、金魚掬い、キャラクターお面、焼きソバ、射的、チョコバナナ、綿菓子、林檎飴、スーパーボール掬い と挙げたらキリがない程の夜店の数々。
砂埃が舞うから衛生問題がどうこうなんて堅苦しい論を持ち出す大人は用無しとでもいうように祭りは盛り上がっている。
珍しく八月の下旬に二日間行われる、高校付近で開催されている祭りに神楽と高杉はやって来ていた。
他の街や地域では、八月中旬に祭りが開催されるのが主流だがラッキーなことに神楽達の住む地域は遅れての催しだった。
「でも、いいのか?」
とりあえず、着くなり綿菓子を神楽に奢らされた高杉は綿菓子を美味しそうに頬張る神楽を横目で見てから言った。
「兄貴と来る予定だったんだろ?」
「・・・・・・・。」
ピンク色の綿菓子は、見かけこそフワフワしているものの、一度口に入れれば一瞬にして溶けてしまう。そんな儚さを持ち合わせた菓子だ。
大量に口の中で綿を溶かし切った後、神楽が返事をする。
「別にいいアル。時間になっても来なかった兄貴が悪いネ。」
「まァ、お前がいいなら何も言わねェが。」
高杉の言った通り、本当ならば神楽は高杉と祭りに来る予定ではなかった。
最初は自分の兄、総悟と行く約束をしていたのだ。それも、最初は乗り気ではなかった神楽に総悟がしつこく迫って(大方、可愛い妹の浴衣姿が見たいなどという理由)行くことに決まったのだ。
「神楽の可愛い姿が見たいんでさァ。(いつも可愛いけど。)」などと帰宅するなり何回も言われ続け、それが数日も続いた結果、神楽が折れた。
同じマンションの上の階に住む志村兄弟の姉、妙に浴衣の着付けを手伝って貰い、化粧も自分ではなく妙にして貰った。いつもより気合が入った仕上がり。
兄が自分の浴衣姿を見たいだろうからと、神楽は面倒くさいのを我慢してお洒落をし、部屋で仕事から帰宅する兄を待っていた。
だが約束の時間を過ぎても、兄は帰ってこない。遅れるという内容のメールや電話もくる気配は全くなかった。
1時間経過した時点で、完全に怒りが頂点に達した神楽は夏休み中に会った不良教師に「夏祭りでも行くか?」という言葉を思い出し、半分駄目もとでメールをしてみたら「じゃあ今からでも行くか。」と返事が返ってきた為、高校の門で待ち合わせをし、今に至るというわけである。
一応、リビングのテーブルに「馬鹿兄貴へ。別の人と祭り行きます。」と一言、用件のみの置き手紙を残してきた。
***
金魚掬いをしたかったのだが、掬えた場合に神楽も高杉もペットは飼えないということが判明したため却下。
代わりにヨーヨー釣りとスーパーボール掬いをし、ビニール袋を一杯にさせた二人は、袋を片手にぶら下げながら次にすることを考えていた。
破裂しそうなビニール袋を左手に持ち、右手でヨーヨーを操っていた神楽が指をさした店は「林檎飴」。
またもや奢らされた高杉は、今日の費用は全て自分持ちだなと潔く決心し、神楽に飴を買い与える。
最初は膨れ面をしていた神楽も、段々と機嫌が良くなってきたようで、笑顔を見せるようになってきた。
手がかかる御転婆娘ではあるが、そんな神楽の様子を見て、高杉も決して表情には表さないものの僅かに微笑ましく思う。
短時間にいろいろな所を見て歩き回った二人は、さすがに疲れたため祭りのメイン会場から少し離れた場所にある神社で休むことにした。
「足が痛いアル。」
「まァ普通の靴じゃないからなァ。」
古木に寄りかかりながら、神楽が顔を歪めながら自分の足を見る。
ほんのりと赤く腫れていた。
「あーあ。」と神楽が内心ぼやいていると、隣で同じ様に木に寄りかかっていた高杉が携帯の画面をじっと見つめていた。
数秒後に、ボタンを早打ちして相手に返信したようである高杉は横を向くと神楽に言った。
「銀八が近くにいるらしい。」
「マジでか!?銀ちゃんが!?」
「ああ。合流するか?」
「するアル!!」
メンバーが多い方が楽しい主義の神楽は、テンションを高めにして返事をする。
相手が高校教師だろうと銀八と高杉は、神楽にとって悪友達のような存在だった。
暫くすると聞きなれた声が、前の方から響いてきた。間違いなく、銀八の声。
高杉がその声に反応して、木から身を引き剥がすと歩き出した。
それに続いて神楽も歩き出そうとしたのだが、突然後ろを振り返った高杉に制止させる。
「テメェは此処にいろ。」
「へっ?」
「俺は銀八んとこ行くから。じゃあな。浴衣、意外に似合ってたぜ。」
一方的に告げると、早歩きでその場を去っていった高杉。遠ざかっていく高杉の後ろ姿を見つめつつも、状況が掴めずにいる神楽は、しばし呆然としながら その場に立ったままだ。
すると、自分の身体を包み込む腕と、いつもの彼の香。
振り向かなくとも、誰なのか分かるのは当たり前。
浴衣とスーツの重なる部分が熱を帯びているのを感じた。
僅かに聞こえる、衣の擦れる音。
「ごめん、神楽。」
「・・・・・・。」
「何で遅れたアルか。」
「急に仕事が入ったんでさァ。本当にごめん。」
後ろから抱きしめられている状態だったため相手の顔はもちろん、表情も見ることはできない。
必死すぎる兄の声に、神楽は怒る気力をなくしてしまった。
「まァ、いいけどナ。高杉に奢ってもらえたし。」
その瞬間、総悟はピクリと「高杉」という言葉に反応をみせた。確か、先日神楽をオートバイに乗せて送ってきた不良教師。
汗だくになりながら帰宅し、神楽の置き手紙を発見した総悟は、スーツのまま家を飛び出し、祭りの会場へと急いだ。
途中、神楽の担任であり、総悟自身も面識のある銀八と出会い、銀八が「神楽のいそうな所なら分かる。」と言ったため彼に着いて来たのだ。
まさか神楽の手紙にあった「別の人」があの男だったとは。
焦りと嫉妬の気持ちからなのか、神楽を抱きしめる腕に力が加わる。
「兄貴、痛いアル。」
「浴衣スゲェ可愛い。」
「・・・・・・。」
「可愛すぎてヤバい。」
「とりあえず離せヨ。」
「暫く、このままでいさせて。」
多分、向き合ったら最後。
彼女の持っている林檎飴によって、妖艶な紅色に染まった唇や、似合いすぎる浴衣や、いつもより大人びた神楽と正面から向き合ってしまったら、理性が保てるか自信が全く無い。
夜の闇に彼女の白く浮かび上がる、うなじを目の前にして、総悟は究極の選択を迫られている状態と言っても良かった。
とりあえず、彼女の首筋に自分の顔を埋めてみることにする。
夏の風物詩の出番も、残りあと僅か。
せっかくだから、そこに花火でも散らせてやろうか。
彼が彼女の身体に花火を散らせることができたのか別として、
その夜、街に打ち上げられた花火は大層美しかったそうだ。
<あとがき>
これ沖神?兄弟パロ…?
拍手やメールで続きをリクエストしてくださった方々、遅くなった上に駄文で申し訳ありませぬ。9月にUPという微妙に季節外した…汗
需要があれば、また続き書きたいです。ないとは思いますが。
その時は数年後の話でも…。