※6つの独立小話
※全ておっかぐ
※全て絆創膏必要













独り身の男女同士でクリスマスに集まるという何とも不毛な会が開かれたのは2か月前のことである。その時のプレゼント交換で自分に回って来た可愛らしい水玉のラッピング袋の中身には嫌な予感しかしなかった。そして見事に的中した。リボンだけが解かれたプレゼントは埃をかぶりながらも本棚の一番の上に今も置いてある。このままだと化石になってしまいそうで怖い。かといって捨ててしまうのも勿体ない気がする。


「チャイナ」

「ふが?」


蜜柑を両頬に詰めて幸せそうな表情を浮かべている少女に声をかける。どうやら冬の間は炬燵が恋人らしい。もはや顔しか覗かせていなかった。浅い溜息を吐きながら言葉を続ける。彼女の視線は自分ではなくテレビの画面というのが少し虚しかったが気にしないようにした。


「一緒にお風呂入らねェ?」


八畳間の空間に一瞬だけ訪れた沈黙は思わず炬燵に身を預けてしまいたい程恐ろしく冷たかった。もしかしなくとも冗談のつもりに聞こえなかったのだろうか。いや、冗談ではないけど。彼女の出方次第で冗談か冗談じゃないかが決まるのだ。ぐるぐると久々に脳みそが使われている感覚がした。


「沸騰させるのはお前の頭じゃなくて風呂のお湯だけにしとけヨ」

「ですよね」


入浴剤の泡がどんな色でどれくらいの量で或いはふわふわしているしていないのか、それを知ることができるのはまだまだ先の話になりそうだ。がっくりと肩を落としながら、棚の上の贈り物が数年後に化石になって発見されないことを祈るばかりだった。




泡は甘かったから


















視力の悪さに悩まされたことはなかった。むしろ視力が良すぎるということで野蛮人という扱いをされそうになった時には、冷やかしてきた男の頭に拳骨を減り込ませた。呻きながら頭を抱える男の指と指の間から見えた栗色の髪がひどく美しく柔らかく見えて羨ましかったことを何故だか今でもよく覚えている。話が随分と逸れたが、そんな優秀な私の瞳が今日一日ずっとある悩みを抱えていた。


「ドライアイ?」

「おーよ」

「ドライアイスって食べれないの?とかそういうことじゃなくて?」

「意味不明アル」

「冗談だよ馬鹿」

「馬鹿はお前アル」

「お前の可哀想な頭よりはよっぽどマシだけどな」


何の生産性もないくだらない会話を続けながらも、瞼を閉じたり開いたりする。そうでもないと、瞳も角膜も痛がっている気がするのだ。なんて不憫な。そしてそれ以前に視界までもが狭まれてしまう。ああ、今だって何でだか沖田の顔が差し迫ってる。瞼をまた閉じる。唇に何かが触れた。言うまでもなくそれは奴の唇で少し温かくて柔らかくて湿っていた。


「調子にのるなヨ」

瞼をしっかり閉じながら呟いた言葉が、自分と沖田の唇の間に留まる。ぼそぼそとしか響かなかった。


「一石二鳥じゃねーか」

「目もとじられて俺とちゅーもできる」



どんな御目出度い思考回路がコイツの頭の中には出来上がってるんだろう。とりあえず私に残された解決策は、慣れないコンタクトをやめて明日からまた牛乳瓶底眼鏡を装着することしかないようだ。そうすれば奴も簡単にはちゅーが出来ないだろうし、私の瞳も乾くことなく潤いを保てる。一石二鳥じゃないか。





まぶたの浸透圧









 




(※表現注意)






チャイナの白くて滑らかな肌と自分のとを擦り付け合う行為が好きだった。石鹸や香水、毛布とも違う柔らかくて優しい彼女の香りが自分の鼻を掠める瞬間が堪らなく幸せで、こうして皺くちゃになったシーツの上で彼女と絡み合っていられるのなら他には何も必要ない気がした。酸素と水分、それに匹敵するくらい彼女は自分にとって必要不可欠な存在だった。



襖の隙間から差し込む細い朝日に照らされて、きらきらと光る彼女の頬に自分の頬を寄せる。言葉にしなくても、まるで触れ合った部分から愛しすぎるほどの幸せが滲みだしてくるようだった。



くすぐったそうに身をよじる仕草や、閉じられた瞼のふくらみや、長い睫毛一本まで愛している。傍にいてくれるだけでいい。彼女を引き寄せるため二本の腕を伸ばす。彼女と自分を隔てる唯一の素肌でさえも、今は煩わしく感じた。



薄い桃色すりよせる














手からするりと零れ落ちたのは白い細かな砂だった。掌に残された数粒をじっと見つめるために、手を目の高さまで持ち上げる。すぐ傍に大量の水があるというのに、この砂達はさらさらしていてとても心地よい。裸足はどこまでも砂の中へ沈んでいってしまいそうだった。



「あーあ。海に来たってのに可愛い恋人の水着姿も拝めないなんて理不尽すぎるぜィ」


「一生言ってろヨ変態野郎」



パラソルが作り出す神聖な場所、日の光が届かない黒い影の下での砂遊びにも少々飽きてきたのか、ぽつりぽつりと愚痴を言い始める沖田に神楽は顔を顰めた。



「せめて水の中入って服透けさせるオプションぐらいあってもいいんじゃねェ?」


「恋人が日射病になって倒れてもいいってのかコノヤロー」


「それは困るけど」


「だいたい水着ってそんなに新鮮アルか。下着と大して変わらないネ」


「それって誘ってんの?」


「何でそうなるネ」


「今から下着見てもいいって意味だろィ?」


「違ーヨ馬鹿」



日光の侵入が許されていない場所のはずなのに、神楽の方をちらりと見ると彼女の頬は僅かに赤みを帯びていた。ある意味で自分の方が彼女にとって太陽よりも危険な存在なのかもしれないという考えが思い浮かばなかったわけではない。しかし、頬を仄かな林檎色に染めた愛しい恋人を自分の方に引き寄せるために腕を伸ばした瞬間、そんなことは沖田の頭から吹っ飛んでしまった。



幸せならそれでいい



















ソイツは少し強引で、自己主張が強かった。私自身にはよく分からないが、私には特有の匂いがあり、その香りが好きらしい変態サディスティック野郎はそういう理由からソイツをとても嫌っていた。



「でも可愛いアル」

「そういう理由じゃないんでさァ。俺が嫌なもんは嫌」

「でも私だって女の子ネ。こういうの欲しいアル」

「なんか浮気されてる気分になるから却下」


緋色とは程遠い優しい橙色をした夕日に包まれた町のデパートの一階で、顔を顰めながらソイツを見つめる彼氏と瞳をきらきらさせざる得ない私との対照的な姿に、最初は眩しい笑顔を浮かべた店員も少しずつその表情に翳りを滲ませ始めた。



「ではこういったタイプはどうでしょう「チャイナ、もう帰ろ」


店員の表情がさらに険しくなったのかは分からない。なぜなら夕日の橙が彼女の顔に滲みすぎていたのと、私があっという間に沖田に強く手を引かれたからだった。



香水が滲むトワイライト













自分に不釣り合いだと分かっているから。敢えて求めない。欲しがらない。手に入れようとしない。しかしそんなふうに強がれば強がる程、未練はますます色濃く残るのだ。まるで幾ら雨に打たれても、色褪せることのない紫陽花のくっきりとした紫のようだ。


「本当は好きで好きでたまらないのに」

「俺のことですかィ?」

「違ーヨ。馬鹿」


頬を膨らませながら呟く。見当違いも甚だしい言葉を放った男とその男のさりげなく自分の肩を抱くという行為に小さな不満が募った。じっと一点を見つめる曇りなき碧眼の先には、可愛らしいリボンが正方形型の箱にかけられたプリザードフラワーがあった。





リボンをかけて花を付けて












上司のパチンコに使われる予定だったお金を幾らか強奪し、そのまま自動販売機へと投入した。チャリンと小銭が落ちる音とガタンと冷たい缶が出てくる音が殆ど同時に聞こえたのは自分のボタンの早押し技術が優れているからかもしれない。何はともあれ、水滴が滴るがひんやりとして心地よいアイテムに神楽はとても満足していた。これで暫くは暑さを凌ぐことができる。


「あついあついあついあっつーい!」

「うるせェよ何度も。暑いのはお前だけじゃねェんだよ」


暑さを凌げるはずだった。だが照りつける日差しには容赦するという単語がないようで、黒色を一つも身にまとっていないというのに、橙色の自分の髪を一本一本焼き付けるようにじりじりと降り注いでくる日光にもううんざりだった。ついでに自分の隣に座る黒色の隊服を着た男にも。


「私に偉そうな口利いていいと思ってんのかコラ。私を誰だと思ってるアルか」

「不法入国者」

「歌舞伎町の女王アル」

「自称だろ」

しかしながらさすがの沖田も真夏の暑さに打ち勝つことはできなかったようで、ちらりと盗み見た横顔は苦渋に満ちていた。決闘中も奴が汗を掻くことは滅多にないことだが、こめかみから頬まできらりと光る筋が見える。ふん。いい気味だと一蹴しようとしたところでふとあるモノの存在に気がついた。それはきらきらと光っていた。


「そっそれ何アルかあああああ!」

「ナニって?」

「卑猥な言い方すんな。さっさと答えろヨ」

「レモネード。山崎が屯所で作ってた」


恐らく魔法瓶と呼ばれる機能の水筒をこれ見よがしに奴は摘みあげた。銀色に太陽光が反射して時折目を逸らしたくなるほどの煌めきを放つ。ごくりと喉が鳴る。自分の手の中でとっくに温くなってしまった缶にもう用はない。でも言葉が喉から出ようとしない。

「……」

「んだよ急に黙って。欲しいなら素直に言え」

「……」

「欲しいなら敬語使ってお願いしてみろ」

「……」

「あっ、チャイナには無理だったか。ハイレベルすぎたよな。ごめんごめん日本語って難しいよ「ゴボアッ!」


自分の口の中に注ぎ込む前のほんの一瞬だけ視界に映った透明の液体は黄色を帯びてきらきらと光っていた。美味しい。

喉を潤し終わった少女は、泡を吹いている男を一人ベンチに残してスキップをしながら炎天下の公園を後にした。




ラメ入りレモネード






※タイトルは全て『約30の嘘』様から

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