※金魂
※微々裏













まるで自分の体は砂漠のようだと思った。ざらざらとした無数の欲求達が、彼女によって齎される潤いを必死に吸い続けようとする。雨雲がいつまで渇いた大地の上にいてくれるのかは見当もつかないが、逃すつもりもない。どんな手を使っても止めさせてやる。たとえ相手が雲だろうが知ったことではない。






「あら、こんな時間に珍しいわね。仕事は?」

「一日だけ休み貰いやした。棚から牡丹餅って奴でさァ」

「何でもいいけど。他に行くべき処があるんじゃないの。私は貴方の客でも何でもないのよ」

「俺が金の亡者とでも言いたんですかィ」

「まぁそんなところかしら」

「冷たいお人でィ」



ただの水分不足じゃない。毎日少しずつ蓄積されていく疲労によって生み出された「痛み」は確実に喉へと勢力を広げていた。いくら寝ようとも完全に取り除かれることはない疲れを癒して欲しいなど今更思わないが、気休めになるくらいの玩具は欲しかった。そう思い続けながら天職とは程遠い「ホスト」という職をこなしていたが、かろうじて維持していた健康体というものから、ついに切り離されてしまった。



店に訪れる女性達に心にも思っていない甘い言葉を囁くことが仕事だというのに、喉を痛め声が掠れてしまっては話にならない。上司はそう小言を言いながら、自分を仕事場へは入れさせまいと鼻の先で扉をぴしゃりと閉めた。肩に入っていた力が一気に抜ける。思いもよらない休暇を一日だけだが貰えたことが素直に嬉しかった。自然と頬が緩む。



「それだけだと私のところに来た理由になってないわ」

「貴女に会いに行くのに理由なんか必要でしたっけ」

「貴方…何か猫みたい」



彼女のねっとりとした言い方に、そういえば自分達のいるこの部屋が妙に湿気を帯びていることに気がつく。窓の手前にある棚の下から血で真紅に染まった布が姿を現さないことを願う。思考を切り替えるために、赤いスリットから激しい自己主張をしている組まれた彼女の白い太腿に視線を移した。


そこに掌をのせ、そっと円を描きながら撫でると蒼い瞳がすっと細くなった。自分と同じ色のはずなのに、こんなにも違う。面積の増えた瞼の部分に唇を合わせ、音を立てる。できれば噛みつきたかったが、それはもう少し下の部分にしてやることにした。



「気まぐれって意味?もしかしてもっと構って欲しいとか」

「そんなわけないでしょ。チヤホヤしてくれる男なんて腐る程いるんだから」

「そこは行間読んでくだせェ。『貴方が一番』とか言うところでしょ」


自分の腕二本を彼女の首に巻き付け、膝の上に彼女を跨がせた。自分の股の間に赤いドレスが零れていく。後は自分の首に彼女の腕が巻き付くのを待つだけだったが、中々その感触は得られなかった。代わりに首の中心に冷たい指の爪が僅かに食い込む。


「…やっぱり風邪ひいてるのね。声がいつもと全然違う」

「こっちの方がいい?」

「そうね。掠れてるのも男っぽくていいけど」


痺れを切らした沖田は、地面の方向へ宙でぶらりと下げられていた神楽の二本の腕を強引に自分の首へと持っていった。そして改めて、自分の右腕を神楽の細い腰、左腕を彼女の首へとまわす。胸板の辺りに柔らかくて心地よいものを感じ、またも頬が緩んでしまいそうになった。


「喉って乾いてるとよくないらしいんでさァ」

「だから?」

「ずっと濡らしててくだせェ」



舌をねじ込んだ。すると今度は彼女の赤い舌の先が自分の唇を割ってくる。口紅特有の苦みが口内に広がるが、きっとすぐに彼女の唾液で薄まってくれるだろう。そしてきっと彼女の唾液は喉の痛みさえも消してくれる。そしてその指先で皮膚越しでも構わないから己の喉をそっと撫でて欲しい。





ルージュの融点はその指の先





ツンデレ相互効果カップル








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