※3Zくさいパロ
※沖←神から沖→神な設定
ずっと喧嘩友達でいるはずだった女に「好きかもしれない」と呟かれたのは中学に入って漸く学ランという制服に慣れ始めた時だった。真っ白な面積の方が圧倒的に多い週番日誌を見つめながら「あっそ」と素っ気無く返したのは、その3秒後のこと。
自分の中で、ずっと喧嘩友達でいるはずだった女が好きな女という位置にまで上り詰めたのは高校に入って漸くブレザーという制服に慣れ始めた時だった。その彼女にさりげなさを装って「好き」と告白し、「お前のこと好きだったのは一種の過ちだったアル」と夕日が差し込む教室で冷たく言い放たれたのは、その1秒後のこと。
そしてそれから桜の木から桃色が一回散った。相変わらず俺は彼女に恋をしていて、目はいつも彼女の姿を追ってしまう。一方彼女はというと担任の男教師に恋をしていて、こちらが呆れるくらいソイツに懐いていた。
心地よい温かな空気に包まれた春をちらつかせておいて、身をひいたばかりの冬を再び舞台に主役として登場させるなんて性質が悪い。罪のなすりつけることもできず、とりあえず雲のせいにしてみた。仰いだ灰色の空は黙って冷たい水滴を落とし続けるだけで、そのうちの一粒が瞼の上に転がった。
「あーあ、傘持ってねぇのに」
相合傘しようぜェ。わざとらしく横にいる少女の方へ顔を向けてみる。それだけでは押しが足りないと思い、俯いているせいで頬にかかっている彼女の橙色の髪を二本の指で掬って下から覗きこむ。するとあからさまに嫌そうな表情を浮かべた彼女は髪を握ったままの自分の手を払い除けた。
「いってェ。何すんでィ」
「黙れヨ。歩くセクハラ男」
「テメェこそマウンテンゴリラ顔負けの怪力やめろ」
そう言った途端に自分を睨みつける蒼い面積が一気に増えた。しまった、と後頭部に手をやる一瞬の間に少女は姿を消していた。空から断続的に落ちる雨に打たれながら正門の方へと飛び出していったらしい。陸上部やバスケ部の男よりも足の速い彼女に追いつくのは簡単な話ではない。とは言っても、自分も陸上部員に勝るタイムの持ち主でもある。本気を出せば距離を縮めることはできるはずだ。
「なっ…んで追いかけてくるアルか」
「追いかけたいから」
「答えになってねーヨ!」
ついに神楽との距離は腕一本分となった。互いに息切れることもなく、ただ頭からずぶ濡れになりながら言い合いを続ける。髪の毛から滴る雨粒の量が半端ないものになってきた。顔に貼りつく前髪が視界を大幅に狭めるが、とりあえず標的を見失ってしまう前に神楽の袖から僅かに覗く手首を思いっきり掴んだ。
「痛いアル。警察呼ぶアル」
「呼べるもんなら呼んでみろ。何番に電話したらいいのかもしらないくせに」
「それくらい知ってるネ。119番ダロ!」
「ほらみろ」
自分の五本の指が巻き付いている彼女の細くて白い手首は今にも折れてしまいそうだ。しかし、想像を超える恐ろしい力技の数々がそこから生み出されるというのだから不思議なものである。その餌食に何時されてもおかしくない状況に特に焦ることはなかった。慣れとは本当に恐ろしい奴だ。
「本当に迷惑アル。私はもう銀ちゃんにゾッコンなんだヨ!残念だったナ」
「へェ」
沖田の形の良い眉がぴくりと僅かだが上に動く。神楽が先程から一向に自分の方へ顔を向けようとしないことも気に食わないが、彼女の視線の先に傘を差しながら原付に跨ろうとしている銀髪の男がいたことも大いに気に入らなかった。何とか振り向かせたいものの簡単にはいかない。それに水が浸み込んで灰色になったブラウスの向こうに見える薄い桃色から目が離せなかった。
「この万年発情期野郎」
「つれないねェ。俺のこと好きだったくせに」
「大昔の話ネ。それにもう私は銀ちゃんが好きっ…ん」
それ以上彼女の小さな唇が動かないようにするために力強く引き寄せた。視界の端に紫色の長い髪の女が投げられて遠くへ飛んでいく様子が一瞬映ったが、すぐに橙色の真ん中にある旋毛へと視線を戻す。有りっ丈の力を出して激しく抵抗しようとする神楽の動きを封じ込めるが、体力を消耗するばかりだった。どくどくと自分の鼓動は早まっているというのに、彼女の鼓動は腹立たしいくらい規則的だった。
「人のことフッといて今更何アルか。いい加減にしろヨ…」
「だって好きなもんはしょうがねェだろ」
「だからもう遅いって言ってんダロ。何回言わせる気アルか」
「じゃあもう言わなきゃいいだろィ」
肌に糊のように貼り付くブラウスは気色悪いだけかと思ったが、そうでもなかった。摩擦が少なくなったおかげで、彼女との隙間ができない。
相変わらず容赦なく降り続ける雨に心の中で感謝してから、濡れたせいで艶っぽくなった神楽の髪の毛をふたつの手のひらで包み込む。そして有無を言わさず唇を合わせ、やがて舌も送り込んでやった。
水溶性パルス
一方通行の時期がすれ違った二人。