気持ちの良い昼下がりだった。

特に宛があるわけでもなく、ただただ暇を持て余し廊下を歩いていると、庭先でパパの姿を見つけた。

「………」

周りに人はいない。
ついでに、小さいわたしもいない。

今なら、いいかな―――。

「ん?」

わたしはなにも言わず、パパの隣に座った。

「どうしたの?」

別に。
どうもしないよ。

と、声には出さずに心の中で呟く。

心地よい風が、肩をすり抜け髪を撫でた。
一緒に揺れるパパの髪が肌にあたり、少しくすぐったい。

わたしが喋らないからか、パパも何も言わなくなった。

穏やか。

とても、穏やかな時間。

わたしが、ずっと欲しかった時間――。

「――」

パパの肩にそっと頭を預ける。

嫌がるような素振りひとつ見せず、わたしを受け入れてくれる。
少し前のパパだったら、考えられなかったことだ。

またこんな時間が、過ごせるなんて。
また、こんな風に、甘えられるなんて――。

無造作に膝の上に置いていた手に、パパの大きな掌が重ねられる。

指先から伝わる体温が、ひどく心地好い。

愛しい温度。

感じて思い出す。
パパのことは覚えているつもりだったのに、長い別離で、想像以上に色々なものが零れてしまっていたようだ。

「泣かないで」

目元を拭うように、パパの指先が添えられる。
わたし、泣いてたの?

でも、悲しくて泣いてるんじゃないから。
どうしようもなく嬉しくて、それをどう表現していいかわからなくて。
泣いてしまうの。子供みたいに。

「いい子だから、泣かないで。君に泣かれたら、どうしていいかわからなくなるんだ」

わたしを宥めるパパの声が、耳のすぐ横で聴こえた。

気付けば、パパの腕の中にいる。
伝わる体温が気持ちよくて、触れた部分から麻痺していくような感覚だった。







(致死量に満たない毒に侵されている、ような)



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