沖千
2010.10.30 Sat 22:53
軽く合わせるだけの啄むようなキスに嬉しそうに頬を染めながら応える彼女。
なのに舌を入れようとすると途端、彼女の唇は鉄壁が如く固く閉じる。
「…………」
「…………」
唇を合わせたまま暫く無言の睨み合い。
それでも結局折れるのは僕で仕方なく一度唇を離す。
「何で?」
明らかに不機嫌そうな声を出せばビクリと彼女の肩が跳ねる。
まるで兎の耳が垂れてるように見えて良心が軽く痛んだけど、今までディープなチューなんて幾らでもやってきたのにいきなり拒絶された僕もそれなりに傷付いたんだから仕方ない。
「…………です」
「ん?」
「口内炎が出来てるんです!」
「…………は?」
まるで叫ぶように言う彼女と馬鹿みたいに間抜けな声を出した僕。
「口内炎……」
「そ、そうです。だからその、別に先輩とキスするのが嫌なんじゃなくてですね………」
またしゅんと項垂れる千鶴ちゃんだったが、原因が分かって大復活した僕を見た途端頬をひきつらせた。失礼だなぁ。そんな意地悪な顔してたのかな。
「千鶴ちゃん」
「はい」
「要するに、僕の舌が君の口内炎に当たると痛いわけだね」
「そうですけど」
「なら解決法は簡単だよ」
「え?」
「君から僕にキスすればいいだけじゃないか」
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