自販機で買った紙コップのコーヒーを一つ手渡す。
無言で受け取る彼女の手はおれのなんかよりも一回りも二回りも白く、小さくて、こんなにも華奢だったかと改めて思う。
「…先輩、コーヒー苦くない?」
「大丈夫」
嘘つき、甘党のくせに。今日のはブラックだし砂糖もそんなに入っていない。案の定苦さに顔をしかめている。ポケットから小さいカプセルを取り出して目の前で振ると薄茶の目玉がこちらにくるりとまわった。
「なあに」
「なんでしょう」
「薬」
「ううん」
固形ハチミツ。一つ割って黒い液体に傾けると、とろりと流れ落ちていく。なんでそんなの持ってるのと聞かれて、貧血持ちだからと答えると、意外と貧弱なのねと笑われた。普段あまり見えない先輩の笑顔が珍しくてじっとそのまま見ているとそらされてしまった。
「先輩?」
どうしたのと言うより早く彼女が振り返って、真っ赤な顔で恥ずかしいと呟くそれを、おれは聞き逃さなかった。
ハチミツ
(あんまり可愛いことしないで)