※近藤さん
※うっっすら沖神
「どんな仕事にもさ、向き不向きってあるよね」
少女と呼ぶには年を経過ぎた女はけらけらと笑う。
「そりゃああるだろう。そんで、君にはこういうことは向いてないんじゃないか?」
「あたしもそう思う。男が好きなのも、お金が欲しいことも、すぐに顔に出ちゃうもん。不器用なんだよねー。そうだ、オジサン、試してみない?サービスしとくからさぁ」
苦笑する。近頃の若い者は、とつい言いたくなってしまうのは、自分が年を重ねたせいだろうか。売春の取り調べを社会見学程度にしか捉えていない彼女を見たら、トシあたりは青筋を立てて固まってしまうに違いない。
バックからコンパクトを取り出しながら、女は思い出したように言った。
「さっきの子さぁ、オジサンの知り合い?」
「さっき?」
「ほら、いたじゃん。チャイナ服着た色白の子。彼氏とちょー揉めてた」
屯所に彼女を連れてくる道中、激しい殴り合いの真っ只中だったチャイナさんと総悟を死ぬ思いで諌めてきたのを思い出す。
彼氏。あの二人でも、端から見ると、恋人同士に見えたりするのだろうか。
「ああ、まぁちょっとした顔見知りだよ」
「いいよねぇ。私、ああいう子がうらやましいよ。かわいかったし、イケメンの彼氏もいてさ。それに、まだ若いし」
「ああいうのは子供って言うんだよ。それに、君だって若いじゃないか」
女はぷっと吹き出す。そのわりには悲しげな瞳をしていた。カールした睫毛に触れ、くらりと語調を変える。
「それ、モロにオジサンのセリフじゃん。私、もう二十歳だよ?オバンだし、これからどんどん老けてくだけだし、どうしていいか分かんなくなる」
二十歳になったばかりの人間が本気で老いを嘆く。そんな無残な国や時代になったのかと思わず考えた。そして、深すぎないスリットの入ったチャイナ服を纏い、迷う気配もなく総悟と自分に手を振って去っていった少女を思った。
今はまだあけすけに笑う少女も、いつかは大人になるだろう。顎に幼い線を残しながらも、涼しい目元で男を魅了するようになるのだろう。その時、同じことを、言うのだろうか彼女も。
いや。
「そんなことないさ」
怪訝そうな顔をする女の肩に手を置く。生きて、目の前にいることの証しとして、小さな脈動が伝わる。
そう。生きている限り誰にだって、時は平等に流れている。若さも、老いも、平等に与えられた宝物だ。大切なのは、顎を上げ、真っ直ぐに歩いていくこと。逆境に抗い挑む意思を持つことだ。その二つを若い容貌に刻んでいる少女なら、きっと、いつまでも少女のままのあけすけな笑顔を絶やさずに毎日を過ごせるのだろう。
そして、できれば。去っていく少女の背中をじっと見つめていた総悟にだけは、特別な笑顔を見せてくれる。そんな女性になってくれたらと、思わずにはいられない。
「…でもさ、」
「ん、なに?」
「いや、さっき俺のことオジサンって言ったよね、あれは取り消してねお願い」
「えー、それは無理。だって加齢臭するもん、オヤジだよ」
「えええええ、本当に!?俺臭う!?」
「うん、かなーり。オジサンかなりやばいよー」
いたずらっぽく笑う女の顔が、最近なにかとオヤジくせェですぜ近藤さんと悪態をついてくる総悟と重なった。
ああ、やっぱり、近頃の若い者は。そう言いながらため息をつくと、女は初めて穏やかな顔をした。それは、体を売る女達が揃って纏っている崩れた美しさではなく、年相応の、素直なかわいらしい表情だった。
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