二月六日
新しい土地は静かで豊か。
使用人一同、とても喜んでおります。
そして今日、二人、新しく使用人が入りました。
私と同い年の可愛らしい女性と、にこにこと愛想の良い男性です。
これから一緒に頑張って参りましょう。
二月八日
新しい入られた男性、森さんがアゼル様の兄弟関係について聞いてこられました。
アゼル様は一人っ子ですよ、と何度言っても食い下がってきます。
最後には苦い顔をされて行ってしまいました。
取り敢えず旦那様に報告をしておきました。
二月二十一日
今日、旦那様はアゼル様とイギリスへ発たれました。
奥様は自室に森さんを呼び、世話をさせている様です。
先日、とても奇妙な体験をなされたので、一人では怖いのだと思います。
しかしそれは女性である私達の仕事だと思っていましたが…。
森さんをとても気に入っていらっしゃる様です。
しかし、この二人の親密さを良く思わない旦那様に知られるのはまずい気がします。
報告するなと奥様には言われましたが…私はどうするべきでしょう?
三月五日
帰国されてからというもの、旦那様の様子がおかしい。四六時中気が立っておられる。
森さんと関係がある事は、旦那様の森さんを見る目付きで明白。
アゼル様の為にも、どうか早く解決されますよう…。
三月七日
奥様が仰っていた事が、ようやっと理解出来ました。
食事の用意をしている時、椅子が壁まで走って行くように滑り、激突して止まったり、皿が飛んで割れたり。
使用人達も怖がっています。
何が起こっているの?
物の化の仕業でしょうか。
三月八日
旦那様に報告致しましたが、やはり怪訝そうな顔をなされた。
この館であれを体験なされていないのは今や旦那様だけです。
家に居られる時間が少ないので、それも分かるのですが。
信じて頂くには、実際に見ていただくのが一番です。
三月十二日
あの現象は酷く怖く不思議です。時構わず何かが起こる。
アゼル様も奥様同様怯えていらっしゃる。何とかならないのでしょうか。
三月十七日
壁に掛けてあった絵が宙を舞い、お茶の最中のアゼル様の頭に当たってしまった。
出血は殆ど無かったが、念のため医者を呼びました。
幸いにも軽い打撲と切傷だけでした。不幸中の幸いですね。
お帰りになられた旦那様のお顔。とても心配されていらっしゃいました。
おいたわしや…。どうしてこんな事が…。
四月四日
旦那様が…あのお優しい旦那様が私を打たれた。
リネンの回収を誤ったのですが、体罰を与えられたのは初めてです。
四月十三日
旦那様も物の化によるものを見たと仰った。燭台を飛ばされたらしいです。
明日、霊媒師を呼ぶのですが、これでこの奇怪な事が収まるよう願います。
四月十六日
旦那様のお機嫌がとても悪い。
奥様は落胆顔です。
昨夜、又旦那様の燭台が飛ばされたらしく、何も解決されていない事がわかってしまいました。
皿が何枚も割れるので、段々と足りなくなってきました。
どう対策して良いかも分かりません。
四月二十二日
新しいお屋敷を建てると、朝食時に伝えられました。
この館は呪われているのでしょう。きっと新しいお屋敷では、平和になると、私はこれから毎晩祈ります。
五月二日
ああ…なんという事でしょう。
旦那様が森さんを殺してしまわれた!
奥様に知られずに死体の処理をするように仰せつかり、使用人達と夜、死体を庭へ埋め、掃除を致しました。皆終始無言でした。
しかし、奥様が気付かれるのも時間の問題ではないでしょうか。
私達はいつまでも演技をし通す自信は無い…。
五月二十八日
あれから旦那様は変わられてしまわれた。体罰は最早日常茶飯事になり、すぐに怒鳴り付け、貶されます。
末のメイドはノイローゼになりかけてしまいました。
私達はどうなるのでしょう?
現象は一向に収まりません。
誰もが滅入っています。
六月七日
一人、使用人が逃げ出してしまった。私も辛いけれど、旦那様に長く仕えさせて頂いている恩があります。
私はきっと、やめる事など、出来ない。
六月二十五日
アゼル様のお誕生会を致しました。久々の平和な空間。旦那様にもいつぶりかの笑顔が見えました。とても幸せな気持ちです。ずっと、そして再び、この風景が続けばいいのに…。
七月十日
館が半分出来上がりました。
職人総出なのでとても早いです。私も早く新しい館へ行きたい。早く、あの平和な日常へ戻って欲しい。
七月二十日
又一人使用人がやめてしまいました。旦那様を悪くは言えませんが、彼には同情します。
一番酷い仕打ちを受けていましたから。彼の後釜を、誰が受けることになるのでしょう…。
八月一日
隣の町で夏祭りがあるとの事で、奥様、旦那様、アゼル様は出掛けられました。今頃楽しんでいらっしゃる事でしょう。
私も行きたいものです。夜ならここからでも花火が見られるでしょうか。
八月三日
又怪我人が出てしまいました。
物が動くだけだと思っていたのですが、この事態となれば恐怖を感じます。
私の目の前で、使用人の林さんが階段から転げ落ちました。
彼女の落ち方はとても不自然でした。足を踏み外した素振りは無く、上半身から前のめりになって落ちました。彼女は背中を押されたと言いましたが、勿論、私は隣で大量のリネンを抱えながらいたので押せるはずがありません。幸い、足を痛めただけで済んだのですが…、もしも私が押されていたかと思うとゾッとします。
八月十四日
旦那様の怒りの矛先が、末のメイドに向いてしまった。
あの子は私達への仕打ちに、以前からノイローゼ気味になっていたので、更にそれが酷くなるのではと心配です。
使用人、メイド全員でケアに当たっています。
九月九日
館はほぼ完成の状態です。
少し早いですが、何分ここは物が多いので引越しの準備をし始めました。
とても立派な白い家です。
九月十六日
あまり私には余裕がない。
手元も暗いうえに震えているのでうまく字が書けない。
末のメイドが旦那様の銃を持ち出して、皆を殺してしまった!
私は命辛々逃げ出し、今は倉庫に隠れている。だが、私もいずれ見つかってしまうだろう。
ここは地獄と化した。もう終わりです。怖い。死にたくない。助けて。誰か、お願い。