「本当に暗いね。もっと懐中電灯もってくればよかった」

携帯の明かりをかざしながら京子が不安げに言う。
相変わらずランボは明るく笑っていたが、それはぎこちなく、明らかに緊張しているものだったし、イーピンはハルの手をぎゅうと握り締めて黙り込んでしまっていた。
一体自分がどこにいて、隣に誰がいるのか。電灯の当たらない陰りは、それすら気にかける暗さだ。

獄寺が周りに明かりを向けると、壁と同化するようにくすんだ、生成り色のドアを見つけた。

それには錆びたドアノブがあり、それに手をかけた。


《ガタ、バタン!!!》


「!?」
「きゃあああ!」

突然に大きめの物音が鳴り、静かな空間に慣れきっていた全員が不意をつかれて驚き、飛び上がったり悲鳴を上げたりした。
骸は音のした方を直ぐ様見た。
携帯の明かりではぼんやりとして、何があったのかはっきりと分からない。

だが、確かにそこから聞こえた。
骸や全員が登ってきた、あの小さな入口のある方から。

「なんだなんだ!?びっくりさせやがって!」

ディーノが焦ったように言えば、獄寺も続いた。

「悪戯か!?アホ牛てめえか!」
「ち、ちがうもんね!ランボさんイイ子にしてたもんね!」

直ぐにランボの必死の否定が入る。
いつもなら獄寺をおちょくる様に返すランボが、この時ばかりはそんな余裕も無いようだった。
そして、そう。ランボが何かしたはずが無い。
ランボはクロームとハルとイーピン、京子の間に挟まるようにしていた。
その場所は2階への出入り口付近にいた骸や雲雀よりも前で、ランボが何かしたなら二人とも分かる。
骸は誰かが何かした様子など分からなかった。
つまり、後ろの物音はランボや、その他の者の仕業には思えなかった。

「やめてください!ランボちゃんはずっと私達と一緒でした!」
「そうだよ、怒らないで」
「では今のは一体なんなのだ?」

ランボの擁護に回る京子とハルの隣で、了平が骸たちのいる後ろを振り返った。

「そっちから鳴ったと思ったが、何かしたのか」
「何かって、何したっていうんだい」

了平がそういったことで全員の目がそちらに向かった。
疑われている事に不快感を露にしながら雲雀が答えにならない返答をする。

その間に骸は音のした場所を携帯の明かりで照らして見ていた。
そこでふと、先ほどと違う事に気づいた。
暗いことで気づかなかったが、登ってきた出入り口の戸が閉まっていた。

最後に来た雲雀は閉めた様な素振りなど見せずに、骸の隣に並んだはずだった


だとすれば、先ほどの音はこれが原因なのだと恐らくではあるが骸は検討をつけた。
検討をつけたが…。それには不可思議な、そして不可解な点があった。
それを考える事に、骸は眉間にしわを寄せた。

「む、骸?何してんだ?」
「何かあったんですか?」

綱吉がしゃがみこんで携帯で照らしている骸に気づいて声をかけ、千種が骸の様子に、心配したように言った。

「いえ。多分、これが原因かと思いまして」

そう言って立ち上がり、出入り口を指差した。

「勝手に閉まったみたいで」
「え、いや。勝手にって」
「だってそれ」

すぐに反応を示したのは、綱吉と山本だった。
その出入り口は四角に切抜きされたようになっていて、蓋は番で留められていた。
そして、それは二階側に開くようになっているのだ。
誰かが二階から上へ押すか、三階側から手を伸ばして引っ張り上げるかしなければ閉まらない。
自然に閉まる仕様では無い。
自然に閉まるにしても、ここは窓も開けていないのだから、風だって吹くはずも無い。
閉まる条件は何も揃ってはいないのだ。

そして誰もが口を噤んでしまった。いや、まさか。そうは皆思っているのだ。
そんな可笑しなこと、考えたくは無い。

「そ、それより。ちゃちゃっと探索して戻りませんか?早くしないと寝る時間もなくなっちゃいます!明日もめいっぱい遊ぶんですから、寝不足は勘弁ですよ!」
「そうだよ!早いトコ終わらせようよ。俺はもう戻ってもいいけど…」

ハルがそう言って、強張った笑顔を取り繕う。
そこに待ってましたと賛同した綱吉だったが、最後の方の言葉は萎んでいった。

「もうランボさん眠いもんね…。帰って寝るー!ツナー!」

本当に眠いのか怪しいところだが、ランボが突然にぐずりだした。
それを見てクロームはランボを抱き上げた。

「うーん…じゃあ、探索はこの辺でいいか。ここにくる時間は明日でも明後日でもあるしな。今日はもう遅いし、帰るか」

ほとんどの者が肝試しに迷いのある雰囲気を察してか、ディーノが明るく提案する。

獄寺が入り口へ向かうディーノに電灯を渡す。それを向けて、入口へと手を伸ばした。

骸は先ほど獄寺が開けようとしていたドアへと目を向けた。
あの先が少し気になった。

それを横目で見ていた雲雀が、つかつかとドアへと寄っていって、軋んで脆いそれを躊躇無く押し開けた。

「雲雀くん、あなたね…」

そういう雰囲気じゃないでしょうと込めてそれだけ呟きながら雲雀の方へ向かう。
ドアの先を見ていた雲雀が「ここ、面白いね」と密かに笑った。

「何がですか」

真っ暗なドアの先を覗き見ながら、少し楽しげな雲雀の隣に立った。

「外から見た通りに窓がない」

ああ。骸は小さく相槌を打った。そこが骸も気になっていたところだった。
ただ、それに雲雀が大きく興味を引かれていたことが意外だった。

「入口もおかしいですしね」
「そういえばさっきのは君じゃないよね?」
「分かってるくせに」


「あれ?」

その時、入口を開けようとしていたディーノの素っ頓狂な声が上がった。


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