「はひっ!びっくりしました…っ」
「がはははっ!ハルだっせー!おれっちはぁ、もちろんびびってないもんね!」
「だったらアホ女にひっついてんのはなんなんだよ」
「なにが?よく見たら?ランボさん抱っこされてあげてるだけだし!獄寺みたくシッコちびったりしないもんね!」
「だれがちびるか!」
「ちょ…やめなよ2人共。獄寺くんもランボに構わないで」
「す、すいません十代目…」
「しょげんなって獄寺!それより、どしたんだ雲雀?」
腕組みしながら、こちらを傍観していた雲雀に山本が問う。
「別に、散歩の帰り。それより君達は何群れてんの?咬み殺すよ」
「やめやめ恭弥!俺達これから肝試しするんだ。あ、恭弥もどうだ?」
「…くだらないね」
ディーノが誘うも、そう返され、苦笑いをする。
その後ろで了平が何を!と突っかかったのだが、雲雀は無視した。そしてふいっと背を翻して館へ戻っていこうとした…ところで山本がニコニコとその後ろ姿に呼び掛ける。
「どこ散歩してきたんだ?」
そんな事で呼び止めたのかと、雲雀が不機嫌そうに振り返るものだから、綱吉は表情を強張らせて、不安そうに山本を見やった。
「…周辺一回りしただけ」
「なんかおもしーもんあったか?」
止めた足を再び動かそうとしたところで、また山本が害の無い笑顔で問いかける。
別に、と小声で返して歩き出そうとした雲雀が、今度は自主的に足を止めた。
そして少し間を置いて、「そういえば」と意地悪そうに笑いながら振り返った。
「君達が使えそうな建物はあったよ」
建物?と顔を見合わせる中、骸はすぐに何を指したか分かった。
自分が先程足を踏み入れた古びた旧館の内部が脳裏に浮かぶ。
「使えそうなって事は、肝試しに…だよな?」
「面白そうではないか!どこにあるのだ、それは?」
ディーノがハテと首を傾げる横で了平が興味を惹かれた様で、拳を握りしめて言った。
「この裏」
後ろ手で館を指差す。
「へえ、この裏に建物あったんだね。全然気付かなかった」
京子がやけに嬉しそうに笑う。
だなー、と山本が能天気に同意した。
「あっ、ならそこでやりません?湖は虫が多くて敵いませんし」
途端にハルが両手を合わせて言う。確かにこの湖の周辺は虫が多い。既に刺された者も何人かいる。虫除けスプレーを吹き掛けたのにも関わらず、だ。
「建物内だったら外より安全…」
クロームも異論は無いようで、ハルに合わせるように意見をする。山本も、俺も構わないぜ、と賛同すれば、仕方ねえなと獄寺も言う。だとすれば綱吉だって嫌なのは変わらぬも、反対などしない。
「ならばさっそくそこに行こうではないか」
了平がいうが、そこでディーノが「でもなあ」と呟く。
「俺が渡された鍵はこの屋敷のだけで、裏のはねえぜ?もし閉まってたら…」
「ああ、そういえば」
鍵の話で骸は思い出した。
「開けっ放しにしてきちゃいました」
裏から入って、中から鍵を開けたが、締める事なく帰ってきてしまっていた。
「え、骸行ったの?裏」
と、綱吉が驚く。
「ええ、昼間。表は閉まっていましたけど裏が開いていたので。中から開けたんです」
それを忘れていたのですが、と言葉は続くのだが、テンションの上がった二人の声にかき消された。
「ならノープロブレムです!早く行きましょうっ」
「楽しみだね、お兄ちゃん!」
「極限そうだな!六道、雲雀、案内してくれ」
さも当然の様に了平は言う。
肝試しに参加を表していた手前、骸は案内せねばならない立場だ。
だが、雲雀は違う。
その様な事をする義理はない。
期待を裏切らないというか、予想通りというか、雲雀「嫌だね」と即答した。
「骸がいるなら充分でしょ。それに、僕は君達に構っている程暇じゃないからね」
もう何度目だろうか。
くるりと背を向け、館へと戻っていく。
それに眉をヒクつかせど、了平はしようがないと言うように腕を組み、見送る。
骸がいるならと、今度は誰も雲雀を引き止めるものはいなかった。
が、骸はその雲雀を追い掛けて、肩を掴んだ。
雲雀はうんざりした様に眉間にシワを寄せて、ちらりと視線だけ、骸に向けた。
「ほら、案内しますよ」
「…君、話聞いてた?」
「勿論です。…あなたこんなとこに来てまで単独行動はないでしょう。…それにその屋敷、ちょっと面白そうでしたし」
「……」
雲雀は最後の言葉を聞いて、微かに反応を示した。そして目線をそらす事なく数秒間思案した後、ふうん、と笑う。
「…いいよ、案内賃はその“面白そう”なもので我慢してあげる」
でも肝試しには付き合わないよ、と付け足すので、骸は「怖がりさんですね」と言ったが、雲雀は「黙りなよ」とそっぽを向いただけにとどまった。
戦闘が始まるんじゃないかとびくびくしていた綱吉と、ディーノは、二人の雰囲気が険悪で無いことに安堵した。
「じゃあさっさと行くよ」
先人を切って、雲雀が歩き出す。それに続いて骸が、そして全員が後を追った。
湖と館の間は、雑草が背高く茂り、足を踏み入れれば、ジャングルを思わせた。
道といえぬ所を無理矢理通る雲雀に、控え目ながらも静かな非難が浴びせられるが、無論、当の本人は無視だ。
骸は雲雀の後を上手く進み、なんとなしにいたのだが、その後ろからはブツブツと愚痴が聞こえてきていた。
突然、雲雀が歩みのテンポを遅め、骸の隣に並んだ。
そして骸だけに聞こえる声の大きさで、話しかける。
「面白いものかどうかは別として、この館の周辺で色々見かけたよ」
「…なんです」
「瓦礫」
「瓦礫?」
意味の見出だせない言葉に、ただ聞き返す。月の明かりだけが頼りの中、仄かに輪郭と表情が読み取れるのみだ。
「家が倒壊したような、不自然な木片とかがここらに散乱してる。後は祠、…と、墓」
「廃村ですか」
「さあね。ここら辺の土地にあった村は聞いた事無いな。でも、あったんじゃないの」
村、という単語に骸は何か引っ掛かりを覚えた。
最近“村”という単語を見た気がする。
喉元で突っかかっている感じがして何とも気持ち悪かった。
会話を終えた雲雀はさっさと、先程と同じ様に骸の数歩前を草を大雑把に掻き分けながら歩いていた。
あのディーノの部下は何故館の周りも綺麗にしなかったのかと理不尽に不満に思っていると、汗ばんだ手から本が滑り落ちそうになり、くいと持ち直す。
そこではたと思い出した。
手の中にあったのは、ここに住んでいたであろう子供の日記。
それと、聞いた事の無い村の記録簿。
その表紙を見ようとしたが、草木が月光を遮って手元は暗い。
薄ぼんやりと浮かび上がって見えたのは“奥白村”の文字だ。
そうだった、そんな名前だったと、すっきりした。
骸は先を行く雲雀に早足で追い付くと、奥白村の記録簿で軽く肩を叩いた。
「これ、あの旧館で見つけたんですけど、もしかしてここの村ですかね」
「うわ、何。持って来たの」
バカじゃないのと言いながらもそれを受け取る。
パラパラと硬い黄ばんだ古紙を捲っていくと、あるページで指を止めた。
骸からは良く見えないが、雲雀は歩きながらもじっとそこを見ていた。
そして、ふいっとそのページを開けたままに返された。
「村図」
「止まらないと見えません。廃村の名前は分かりました?」
「周辺の村の名前から見ても、その奥白村っていうのは恐らくここだろうね」
「やっぱりそうでしたか。沢山村名書いてあるのはあったんですが、これだけ知らなかったのでつい持ってきたんですが……役に立ちましたね」
目を凝らすが、歩きながらだとぶれて、それに暗さも合わさり、やはり見えない。
「…ねえ、もう片方何?」
雲雀は記録簿を持つ逆の手に握られていた青い表紙の小さな本に興味を逸らした。
「ああ、これ。この屋敷にいた子供の日記らしき物です」
日記、と聞いた瞬間に雲雀が明らかに眉を寄せて、じとりと睨み付けた。
「悪趣味も大概にしなよ」
「趣味で持ってきた訳じゃないですよ。雲雀くん、ボンゴレに“アゼル”と言う名前の人物って過去か現在にいます?」
「なんなの突然」
骸はぱらりと、旧館で見たページを捲り、差し出す。
「ボンゴレの所有物件だと聞いていましたけど、どうやらここには家族が住んでいた様です。アゼルと言う子供と兄の兄弟、ご存知ありません?」
そのノートを片手に、雲雀が黙り込んだ。そして「知らないね」と返された。
その時、狭い雑草の道を抜け、少し広い場所に出た。雑草は相変わらず鬱陶しく茂っている。
目の前にはあの旧館。
昼間や夕方とはまた違い、月のぼんやりとした光で、不気味さに拍車がかかっていた。
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