「終わったぜ。まあ、一応平気だがな、出血が酷かったから病院移して輸血してもらった方が無難だな」

あちーあちー、と汗ばんだ顔に手で風を送りながらシャマルがそう言った。
シャマルの後ろに横たわる子供には包帯が幾重にも巻かれ、痛々しい。
クローム達が駆け寄り、心配するが、それをシャマルが宥める。

「怪我は心配ねーよ。後は目覚めんの待てばいい。おい触んな、傷開くから安静にさせとくんだよ」
「シャマル、ありがとう」

一安心して、胸を撫で下ろし、シャマルにお礼を言ったが、険しい顔で睨まれた。

「別に大したこっちゃねえよ。それより事情を聞かせてもらおうか?」


俺達は見たこと、やったことを話した。この2時間オーバーで、頭は冷静になっていて、3人お互いにフォローし合いながら、順を追って説明できた。
後そこに、改造前の5分という時間制限を大幅に過ぎているが戻らない事を付け足した。

そこでまた彼が熱くなる。

「骸しゃんにこれ以上何かあったら、おめーら全員ただじゃおかねーびょん!!」
「犬落ち着いて。それより骸様は戻れるの?」
「ジャンニーニに連絡して直して貰うつもりだよ。ちょっと時間はかかるだろうけど…」
「そう…」
「ごめん、俺らがこんな事したばっかりに」

謝らないで、とクロームが首を横に振る。

「話を聞く限り、傷を負わせたのはボス達じゃないから」
「バズーカを骸様に向けたのは腹が立つけど、救ってくれたのも君達だし、怒ってはない」

千種さんもクロームの意見に賛同した。その2人が城島さんに視線を送って言葉を促すが、顔を背けてしまう。

「でも、そう言って貰えると助かるのな」

疲れたように山本が笑った。
そこで、今まで黙っていたシャマルが腑に落ちないように言葉を発した。

「お前らの話だと、こいつが六道骸な訳か?」

はあ?と獄寺君がシャマルを睨んだ。

「なんだよ、分かってねーで治療してたのかよ」
「あの状況でわかるか!つーかお前、骸っつったら男じゃねーか!」

ああそうか。
俺はシャマルの言いたいことが分かった。だから、さも申し訳なさそうに声に出す。

「すいません!男は診ないって分かってはいたんですけど…頼れるのシャマルしかいなくて」

シャマルは眉を寄せて、俺の言葉を解釈した後、何かを考える様に目を宙へと反らし、途端、首を横に振った。

「いや、いやいやいや、そうじゃねえ」
「何がっすか?」

何がって、と、シャマルは親指で患者を指して予想もしない言葉を言ってきた。

「お前らが運んだのは女だぜ」

一瞬空気が固まるのを感じた。
シャマルの言葉を聞いて、解釈し、理解するまでの一瞬が、まるで何時間にも思えた。

「何を言い出すかと思えば」

はっ、と鼻で笑った獄寺君の声をかわ切りに、誰しもが渇いた笑いを洩らした。俺も例外に漏れない。だって到底信じられる話じゃないだろ。それは冗談だって思って当然だった。
だがシャマルはそれに気分を害した様で。

「こんな時につまんねえ冗談なんか言うか」

と至極真面目な顔で、苛立ちながらそう一言吐いた。

「冗談じゃなかったら一体どういう事っすか?」

全員の声を山本が投げ掛ける。
が、シャマルが知るはずもない。

「俺が知るかよ!でも事実だぜ、よく似た別人巻き込んだんじゃねーのか?」
「骸みてーな奴がそんなにいて
たまるか!髪型、顔は骸どう見たって奴だろ!」
「ちょっ、それは酷いよ…。でも別人巻き込んだとあったら余計ほっとけないよね」

何がどうなっているかは分からないが、シャマルは嘘を言ってはいない様だった。
だとすれば、あれは他人の空似で、巻き込んだ可能性しかなくなる。

混乱したが、その子をないがしろにしてもいられない。

「なら骸しゃんはどこなんら」

城島さんが言った言葉に、クロームが続ける。

「骸様、呼び掛けても応えてくれないの。まるで遠くにいっちゃったみたいに。意識に霧がかかっているみたいで、何も感じない」

この場の誰もが全く理解出来ない状況になっていた。

「どーなってんだよ、わけわかんねえ…」

漏れ出た様に小さな獄寺君の呟きに、俺は全力で同意した。
沈黙の中でそれぞれが、状況を整理しようと必死だった。しかしピースのたりないパズルの様に、デコボコと穴の空いた、不完全なものしか出来上がらない。
もしかしたら、本当にピースが足りないのかもしれない。

そんな時、うーうー唸っていた城島さんが、ぽつりと言った。

「やっぱあれは骸しゃんじゃないびょん。あれが骸しゃんだと何かおかしいびょん」

みんなが顔を向けた。
黙って次を待っていると、首を捻り、目を細めて、えーと、と言う。
記憶を手繰っている様だ。

そしてまたぽつりと話始める。
 ...
「あの日が来るまで、オレ達は骸しゃんの事をあんまり知らなかったびょん。でも考えてみても、骸しゃんがあんな傷を負った記憶がないんら」

ん?何、どういう事?
何か物凄い事実を述べていると思うんだけど、さっぱり分からなかった。
そしたら千種さんも、思い出した様に喋り出した。

「…確かに。目立たなかったといえど一人欠けたら分かる状況にいた。骸様はあの日の直前に手術をされたはずだ。…そうだ、その前まで奴等に虐待された所を見た事が無い」

どういう意味だ。
俺は‥いやクロームを除いた黒曜以外の俺達は幼少の実験を知ってはいれど、詳しいわけでもない。
実際に体験した彼等にしか分からない情景もある。
大雑把な情報の外にあるそれが今は何かのキーになるかもしれない。誰も理解できないこの状況のピースが今は欲しかった。

「あの日って?」

と、クローム。それに千種さんが「骸様が現状を壊した日だ」と返した。

「研究者達は手術前の子供に酷い真似はしなかった。貴重な人材を失わないためだ。叩く蹴るは有れど、出血するような怪我を与える真似などしなかった。骸様が手術されてから一日も経たなかっただろう頃に、あの方は全てを壊したんだ。それにあの時、怪我らしい怪我も見えなかった。
術後、あいつらは骸様に手を下していない。さっき言ったようにその前もしていない」
「そうなんら!俺らの記憶だと、こんな事態になった事なんかないびょん!」

それはつまり、あの子が骸で無いという裏付けだった。

「じゃあ…
ありゃあ何だってんだよ?」
「骸しゃんでないなら、余計俺達が分かるわけないびょん」
「骸様でなくて良かったけど…あの子は誰?」

クロームが子供に目を向ける。
つられて俺も同じ方向へ目線を送った。誰も答えられる筈がない。
あの子が目を覚ますまで、何も分からないんだ。

骸の行方も心配だが、骸に似たあの女の子も心配だ。
骸でないなら、それは他人で、関係ない人を巻き込んだ事になるわけで。
それにあの子が起きたとき、なんて説明すればいいんだろう。

「ま、覚めるのを待つしかねえ。じゃねーと何も進まねーからな」

そう言うと、シャマルは治療具を片付け始めた。ガーゼを巻きながら、俺らに目を向けると、「はっ」と鼻で笑う。

「ひでえ面しやがって、葬式みてーじゃねーか。そんなんじゃ患者に悪影響だろ」
「るせー」

疲れていても噛み付く獄寺君もさすがと言うか。

「仕事増やした罰だ、全員で保健室掃除しろ」

近くにあった用具入れのロッカーをガコン、と開ける。そこから雑巾、モップを放り投げられた。あわあわと俺はそれらをキャッチする。
まあ、当然というか。
シャマルに助けられたのは事実だから、掃除くらいは‥と思っていると、

「俺らトバッチリだびょん!」

と城島さんが喚いた。



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