「あ、そうだ、クローム達に知らせないと!心配してるだろうし」
俺はそういえば、と思い出した。彼女達にあいつは欠かせない存在だ。過去であろうと命の危機だ。俺は呼ばなければ、と義務感を感じた。
「ああ、確かにそうだな。でも、こんな姿見たら余計心配しそうだよなぁ……ん?あれ?」
「なんだよ」
山本が不思議そうに少し考え込んだ。獄寺君が次を促す。
「いや、随分経ったのに、元に戻ってないなーって」
「え?…うわ、ほんとだ!」
時計を見ればあれから2時間近く経っている事が分かって、ギョッとする。
「やっぱ不良品だったんだな」
「ホント面倒ばっかかけさせ
やがって…!!絶対あいつシめときますね!」
「暴力はダメだって獄寺君!」
「でもジャンニーニに言った方がいいよな?直せるのあいつしかいないぜ」
「不安だけど…そうするしかないね」
しかし今はクローム達に連絡が先だろう。俺はズボンのポケットに入れてあった携帯を取り出し、以前教えてもらった番号を押した。呼び出し音を聞きながら、鍵を開け、廊下へと出た。
ここにいてもマズイ。
生徒が通る危険性を考え、近くのトイレの個室へと駆け込んだ。
直ぐに連絡はついた。
事情は後、とにかく来てほしい。
骸が危ない事と、その言葉を付け足して報せたら、クロームの泣きそうに焦った声が「分かった」と告げた。
胸が締め付けられる思いだった。骸に謝って終わり。そう思っていたのに。
こんな大きな事態へと発展してしまった。
いやだ、逃げたい。
なんか潰されそうだよ。
溜め息一つを吐いて、俺は保健室へと向かった。
数分後、部屋の外から、だだだだだ、と足音がした。こんなに急いでいるのは、あの3人だろうと思いながら戸を見つめた。
しかし。
ガチャ!と大きな音がしたが戸は開かなかった。次に、「骸しゃん!!」と大声がして、戸がガタガタと揺れた。
何やってんだ、と思った次に山本が「あ、鍵」と言って戸まで走る。
あ、そうか、閉めてたんだ。
うっかりしてた。
ちょっと待ってなー、と山本が言いながら鍵を開ける。解錠された途端、戸は勢いよく開き、3人が息を切らしながら入ってきた。
「骸様は…!」
「…!そこらな!」
城島犬が閉まったカーテンを見つけて近寄っていく。
「おい、まだ今は」
獄寺君の言葉も聞かないまま、カーテンを乱暴に掴んだ。
しかし次の瞬間に、彼は俺らのいる窓まで吹っ飛ばされてきた。
「わあああっ」
「十代目!」
「うわっ」
山本は横に飛び退き、目を瞑って動けないでいた俺を、獄寺君が引っ張った。
そして飛んできた人は俺がいた場所に鈍い音をたててぶつかった。
「うるっせえ、ガキ共!治療中だ、邪魔すんな!!」
少し開けられたカーテンからシャマルの足が伸びていた。蹴りを入れられたらしい。そしてシャッと閉められる。
「犬」
クロームが心配そうに城島犬に手を貸そうとしたけど、その手は跳ね除けられた。
「だから言ったろーが!」
「しょうがないよ、獄寺君」
彼らには特別なんだ。
取り乱す程に。
「犬、待ってるしか無いみたいだよ」
柿本千種がカーテンを眺めてそう言う。表情はいつもと変わらず無表情だけど、きっと凄く案じているんだろうな。
クロームは手を擦りながら、不安そうにペタンと座ってしまっていた。
「おい、骸しゃんは大丈夫なんらな!?」
イヌの威嚇の様に怖い顔で問われる。大丈夫だと思いたいが、まだなんとも言えない。
俺だって分からないんだ。
うーん、と唸りながら曖昧な態度でいると、「これだからマフィアはダメだびょん!」と吐き捨てられた。
関係ないじゃん!とは思ったが、こっちに非があるような負い目もあったし、何よりこれ以上何か言ってややこしくしたくは無い。
「あんだと!?」
刺激しないようにと言葉を考えていたら、獄寺君が噛み付いた。
流石だよ獄寺君、君は紛う事なき嵐だよ。
もう喋んないで!
そしてそれが気に障った城島さんが獄寺君を更に挑発する。
「マフィアは問題ばっか起こすびょん!しかもそれに対して責任持たねーびょん!」
「ボンゴレはちげーよ!そんじょそこらと一緒にすんな!」
「やめろ、獄寺!」
「犬、うるさくすると怒るよ」
山本達が止めて、お互い顔を背けるが、小言は止まらない。
それを冷や冷やしながら見ていると、いつの間にかクロームが隣に来ていて、袖を引っ張られた。
「ボス、何があったの。その服どうしたの」
乾いて固まった血の付いたシャツに指をさされる。
「ああ、この血は俺のじゃなくてあいつのだよ。何がどうなってんのか俺もちょっと分かんなくて。…始まりは」
そこまで言った時、カーテンが開いてそっちに目線も気も取られた。
それは全員一緒だった。
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