昼過ぎということもあり、今更ながらテラスはとても暖かかったことが思い知らされる。

玄関まで戻ってきたところで、肌寒さを感じた。

周りは森に湖に、夏は快適な避暑地だな、と思う。
だからさっきの千種の言った、別荘の話に改めて納得出来た。


(だったらなんの為に玄関に暖炉があるのだろう)


褐色のレンガで出来た暖炉は埃を被っていて、くすんでいる。


(夏だけの為に造られた訳ではないんだろうか)


だが、少し疑問に思っただけで直ぐに骸は暖炉から視線を外し目的とするドアに手を掛け、開けた。

廊下の奥を目指して歩く。

大客間を過ぎ、廊下の終点へ来ると、左手に何も書かれていないドアがあった。

そこを開くとまた廊下。

だがまたすぐ壁に辿り着き、直角に右へ曲がり、また右へ…と、かなり面倒な造りだ。

そんな廊下を進んでいくと、進行方向に明るい光の漏れる質素な扉が見える。
それは人工的なものでなく、窓から入る自然な柔らかさがあり、つまりそれは外へと続くものだと教えてくれていた。

扉は簡単に施錠されており、苦労無しに開ける事が出来た。


(これは...)


確かに扉の向こうは外だった。

鬱蒼と茂る木々、腰丈まである雑草。それらに阻まれる太陽の日が木漏れ日になり揺らいでいる。


そして少し進んだ先にはまた扉があった。

扉は、この館の入口の様に、立派なものであったが、酷く荒み汚れていた。

その扉のついた建物を見上げる。
今までいた所と同じように白壁なのだが、だいぶ古めかしい。


(真正面からは見えませんでしたが、別館があったんですね)


扉を出て、後ろを振り返る。
確かに真後ろに位置しているようで、なるほど見えないわけだと呟く。

ふと出てきた扉に目をやると、そのすぐ隣の壁に「新館」と書いたものが提げられいた。

この二つの建物の外見の新古の差はそういう事だったらしい。
だから、見つけた別館と思ったものは別館ではなく、旧館なのだ。


見つけた以上、中を見てみたい。
そう簡単な興味で、骸は草を掻き分けて、古い扉に向かった。


案の定というべきか、鍵がかかっている。


(予想はしてましたけど)


骸はおもむろに周囲を見渡す。玄関脇の窓に手を伸ばすと、グッと力を入れた。

当たり前に開かない。


(裏口を探してみますか)


そこまでして入る必要の無さは分かっはいたが、何分自分は暇なのだ、と、つならない考えを止めて、裏口探しにとりかかった。

壁を右に沿って、裏へと周る。

途中途中に窓はあり、確かめてはみたが、やはり開かない。
その上、カーテンが閉められ、中を見ることすら出来い。



建物の窪みにひっそりと古い木でできた裏口があった。
一応施錠されてはいるが、錠は錠でも、かんぬき錠だった。

扉の開く部分と、その横の壁に輪錠の金具が取り付けられており、錆びた金属製の棒が横向きに通してある。

安全性に関してはかなり低い。

つっかえ棒のちょっとした強化版、みたいなもので、棒さえ外せば直ぐ扉は開く。

軋む音を聞きながら開けると、中は真っ暗だった。


足に伝わる感触は木でない。くすんだ赤、灰色に近い赤。
恐らく絨毯だろうという物の上を4歩進んだだけで壁に行き着く。

その壁の右には短い廊下。
その先にちょっとしたスペースがあり、左手に階段が見える。

まだ二階へ行くのは早いだろうと一階の探索を決め、一旦裏口まで戻った。


早足で歩き一階を見て周った。
新館と変わらない部屋数。
リビング、ダイニング、客間。

ずっと進むと広い玄関ホールにでて、さっき開かなかったドアがあり、内側から開けると、新館の裏口が見えた。
それを確認し、そしてそのまま鍵をあけた状態にして階段まで引き返した。



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