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約三年振りに再会した恋人は実に素っ気なかった。
もう日が沈んできた頃に彼の家へ赴き、僕を迎え入れてくれた彼の姉は久しぶりに僕を見てとても驚いていたが、三年前と変わらず優しい笑みで「レッドくん、おかえりなさい」と僕をぎゅっと抱き締めてくれたと言うのに、いざ彼の部屋へ入ってみると開口一番に「なにしに来たの、お前」と冷たい言葉を吐き捨てられた。
これはいくらなんでも酷すぎる。あんまりだ。でも、僕はそれ以上にグリーンに酷いことをした。だからこれは当然と言えば当然の報いだろう。全部、僕が悪い。

「グリーン、…その、」

「今更どの面さげて俺の前に現れやがった」

「え、っと…」

「出ていけ」

グリーンの声は、今まで聞いたこともないくらい冷たく、全てを拒絶するような、そんな声だった。口下手な僕は上手くグリーンに謝ることが出来ず、口ごもる。とても怖い、けど出ていけと言われて素直に出ていくことなんて出来る筈なかった。無表情で、冷たい声で、全身全霊で僕を拒絶しようとしていても、肩が僅かに震えているのを僕は見逃してあげれる程優しくもない。僕が一歩踏み出せば、グリーンが一歩下がる。構わずまた一歩前進すれば、グリーンも一歩後進する。まるでいたちごっこだ。だが室内である以上必ず終わりがくる。グリーンの背中は部屋の壁に当たり、ハッと後ろを向き、だがすぐさま真っ正面から僕を睨み付けてきた。

「ふざけんな、近寄るな、てめぇなんか…」

「…僕なんか?」

「…っ、レッドなんか…もう、」

あっ、と思った時には目の前の翡翠の瞳からポロポロと大量の涙が溢れ出してきた。続いてひっくひっくと嗚咽が漏れ、僕は驚きまじまじとグリーンを見る。プライドが人一倍高いグリーンが泣くところなんて、今まで見たことなかったから。

「うっ、…ふえ…れ、れっど…てめぇなんか死にやがれ!」

「……嫌だよ、僕が死んだら今以上にグリーンが泣いちゃうでしょ」

「っふ、ぅ、自惚れんな!ばかぁっ!」

抱き締めようと伸ばし掛けた腕は思いのほか強い力で叩き落とされた。行き場を失った腕は情けなく宙をさ迷った後、グリーンの目元へと伸ばし、溢れ出した涙を掬う。今度は叩き落とされることはなかった。

「っ、触んな!!もうお前と俺はなんでもない」

「…えっ?」

「恋人とかじゃないっ!親友でもないっ!ただの幼馴染だっ!」

「ちょっ、と…それは」

僕は流石に焦った。はじめてポケモンを貰って二人で旅立つ前から秘めていた想いを、あのチャンピオンの間で燃え上がるようなバトルを繰り広げたその日に伝え、直ぐにとはいかなかったけれど努力の甲斐あってどうにか恋人同士にまでなれたのだ。それなのに恋人でなければ親友ですらなくなってしまうなんて冗談ではない。こんなに、好きなのに。

「それは嫌だ」

「うるせぇ!てめぇに拒否権なんてねぇっ!」

真っ赤に腫れてしまっても尚泣き続けるグリーンに対してどうすることも出来ない僕は、三年前何も言わず旅立ったことを本当に本気で後悔した。母さんに怒られた時よりも何倍も後悔した。こんなにも後悔したのは生まれてはじめてだ。

「ねえ…僕のこと、もう嫌いになっちゃった…?」

「………」

「…たとえグリーンが嫌いになっても、僕はグリーンのことが好きだから」

「っ、」

「今も、これからだってずっと大好きだから」

「…レッ、」

「グリーンのこと愛してるから」

グリーンの綺麗な瞳が揺らいだ。今まで鋭く睨み付けていた視線は和らいで、そのままゆっくりと閉じられる。息を吸う、そして吐く。そんなグリーンの様子を見て僕は逆に息を止めた。何を言われるのだろうか。僕の想いを告げても尚、別れると言われてしまえば僕は、

「…嫌いな訳ないだろ」

「…へっ?」

「嫌いな奴になら、こんな真剣に怒らない…だろ」

続いて「心配、してたんだ…」と小さく呟かれた言葉に驚いてグリーンの顔を見ようとするも、俯いてしまって伺うことが出来ない。それが少しもどかしい。

「っ、グリーン」

「…なんだよ」

「ごめんね」

「………。うん」

僕の言葉にやっと顔を上げたグリーンの瞳は相変わらず赤く腫れて痛々しかった。けれど頬がそれ以上に赤く染まっているのを見て、僕はとても安堵したと同時にその愛しい彼の身体を力いっぱい抱き締めた。
叩き落とされなかった代わりにグリーンの腕がゆっくり背中にまわる。僕はもう一度「愛してる」と囁いた。


愛は泣いていた


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嘘でも嫌いって言えないグリーンに萌え

title by Aコース

2011.8.8

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