憎まれっ子世にはばかる 卒業後食満死ねた
 2012.01.23 Mon 00:16
泥のように眠れることができたらなとそんなことばかり考えてて足を前へ前へひたすらに動かしていた。左腕は血で真っ赤に染まっていたけれどどうやら死にそうにもなく、手に入れた情報が正しければ久々に薄っぺらな、けれど地べたや木の枝よりはまともな布団で寝れるはずだ。どうせ、半日後にはたたき起こされるのだとしても。

学園で共に学んだ同朋とは卒業してから出会うことはなかった。文を出すこともできない。お互いどこに就職したか教えている訳もなく、どうにかして知り得たとしても文のやり取りをすればスパイだなんだと疑われ殺されるだろう。そして、風の噂はこんなところにめったに入ってこなかった。

あいつらはどうしているのだろうか。生きているのか死んでいるのか。そうだ、あの不運な伊作は。同室者の顔を思い浮かべた途端、何かに足首を握られた感覚に捉えられ動けなくなった。それが、穴に落ちた伊作が助けを求めるものによく似ていたからかもしれない。

気がついたら、深すぎる穴に落っこちていた。慌てて苦無を取り出すも、その土が水分を含み過ぎていて泥のように苦無を取り込むことは目に見えていたので俺は苦無を懐にしまった。その穴がとれほど深いかと言うと、まだ底にたどり着かないくらいだった。どこかの穴掘り小僧が掘ったのだとしたら、地上に登ることなく最下層で死んでいるだろう。

穴掘り小僧じゃなくても、もしかしたら伊作が穴の中にいるのではないかと考えてみた。まだ底に落ち着かないのだ。もう、地上の光は消え上下左右が分からなくなっていた。伊作が同じように足を滑らし死んだとしたら。なんて不運な死に方だろう。今から、同じ死に方をするに違いない俺が言えるわけでもなかったが。

とかく、伊作がいるとしたら。いや、伊作はいるに違いない。なぜって、あの足の引っ張り方は間違いなく伊作だった。俺も今すぐそちらにいくだろう。安心しろ、お前は一人じゃ死なない。不運じゃない。お前が俺を殺したとしても俺は許してやる。そうさ、ちょうど目が覚めないくらい深く、眠りたかったところだ。

そうして俺は目を閉、


(ぐしゃ)


―――――
伊作は死んでません。食満の完全なる独りよがりな勘違いってことで。伊作は不運にも天寿を全うしそうですよね。

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