イフの世界 孫さも
 2012.01.16 Mon 01:16
「もし、僕がどっかの城に捕まったとする」

孫兵はたとえ話が好きで、いつも僕に不明確な未来像や孫兵を想う澄み切った気持ちについて聞いてくるのだけれど今日のは少し意向が違っていた。

「そして、僕が死ぬ寸前まで痛めつけられて」

そして、孫兵がたとえ話をするのは、大体が不安や何かに押しつぶされそうな時で、僕は直ぐにでも孫兵を抱きしたいのだけれど孫兵は僕がこういう話を中断させるとちょっと不機嫌になるから黙って頷いてみる。

「僕を傷つけたやつが僕を助けに来た左門を殺そうとした時、」

そういえばこの間のたとえ話は、孫兵が敵に捕まったらどうするか、だった気がする。あの話の続きだろうか。

「左門はどうする?」

ようやく孫兵の涼やかな声が途切れたので僕は用意していた、もしも、の自分指示を出す。

「孫兵を抱きしめる」

「…………なんで、」

「孫兵が傷ついているから。僕が孫兵を抱きしめれば、少しは孫兵の痛みや寂しさが消えるかもしれないだろう?」

「でも、左門は殺されそうなんだよ?」

「大丈夫だ、僕は強いから」

「……それだと、僕は左門にやられる弱いやつに傷つけられたことになるね」

そう言って孫兵は僕に手を伸ばしたので僕はその手をとって、孫兵を抱きしめる。こうして、僕は、もしも、の世界に存在する孫兵をどうにかして生き延びさせようとする。

僕たちは、「もしも」が、もしも、じゃない世界に住んでいることをもうとっくに気がついていたから。

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