「小倉と、カスタードと、チョコどれがいい?」
「え、…と、大丈夫、」
「カスタードなっ。はい!」
「あ、の、…ありがと。」
「コロンは尻尾のとこだけだぞー。」
「わん!」
一体自分は、何をしているのだろうか。
当初の目的は、春から通うことになる中学校の下見をしにきた。
そうしたら迷子の迷子の子犬がいて、交番を探しているうちにぱったりと飼い主に遭遇。
無事に飼い主が見つかって良かった良かっためでたしめでたしと終焉に向かったかと思ったのに…。
(何故その飼い主と鯛焼きを食べてるんだべ?)
戸惑いを隠せない自分とは逆に、飼い主である男の子は両手に持った尻尾のない鯛焼きを頭からもふもふと交互に食している。
(尻尾千切った鯛焼き頭から食ったら中身出るべ?)
(つか両手で鯛焼き食うより片手でリード持っとかないとまた犬居なくなったらどうすんだ)
(…なんだこのバカ丸出し…)
初対面の相手に大変失礼な念を抱きながらも、警戒しなければならない相手でもないので自分も鯛焼きを一口頬張ってみた。
「美味しいべ。」
「だろ!?あそこの鯛焼きうまいんだっ。羽根つきだし!!」
「…うん。」
感想を述べた瞬間、ぱっと男の子は振り向いた。
(その瞬間、中身の小倉がぼたりと落ちた)
(それを犬がすかさず食べる。…いいのか?)
あたしの顔を真っ直ぐ見つめてくる屈託のない笑顔を直視出来なくて、視線を逸らして鯛焼きにかぶりついた。
(なんだろ、いつの間にか、距離が、近い、)
気を逸らさせるように鯛焼きをもしゃもしゃ食べて早くも尻尾までかぶりついているあたしに、もう2つ目の鯛焼きを口に放り込んだ男の子が話しかけてきた。
「なあなあ、名前なんていうの?」
「高嶋……玲汰。」
こんなとき、どっちかっていうと兄貴の名前のほうが女の子みたいで良かったなって思う。
玲汰なんて男の名前が少し恥ずかしくて口ごもった。
そんなあたしの名前を全く気にする風でもなく、男の子は再び口を開いた。
「玲汰は可愛いね。」
ぼた
最後の一口が、地面に落ちた。