「じゃあ退院祝いに、俺が非番の日にでも行くか」
「ほんとアルカ!? 楽しみにしてるアルッ!!」
「……おう。だから、早くケガ直しなせぇよ」


〜恋の1,2,3☆ Side.S〜


初デートの約束をした時のキラキラとした神楽の笑顔。一瞬、こちらがたじろいでしまったぐらい可愛くて……
それを曇らせたくなくて、絶対その約束を果たしてやると決めたのだった。

約束の日に仕事が入ることがないように、総悟は珍しく真面目に働いていた。理由を知らない土方や隊士には気味悪がれたが、いっさい気にしなかった。(バズーカをしっかりお見舞いしたから)

(確か昨日、退院だったねィ……)
ふと手を止めて想う。
何故か退院する日は来ないでと、神楽から強く言われてしまい行くことが叶わなかったのだ。
「総悟!」
「はい?……って、うわっ!」
名を呼ばれたと思った次には久しぶりに感じる慣れた感覚に襲われる。
「いやぁ、お前も水臭いヤツだなぁ。話してくれればいいのに」
「いきなりなんですかィ? 近藤さん」
クシャクシャと頭を撫でる近藤を見上げると、なぜか笑顔だった。
「お前、とうとうチャイナさんと付き合うようになったんだって?」
「は?」
実は、神楽と付き合い始めたことは隠してもないが公表してもない。
なぜ近藤がそのことを知っているんだ?
「お妙さんがな、話してくれたんだよ。あの子が嬉しそうに言っていたって」
(ああ、それでか……)
神楽は妙を姉のように慕っている。
大方、神楽が彼女に報告したところ、話が近藤に伝わったんだろう。退院日に来るなと言ったのも、照れ隠しだったのだと考えられる。
「今度デートなんだろう?」
「ええ、まぁ……」
「お妙さんには内緒にしてと言われたんだがな……なんでも、お前のためにおしゃれして来るらしいぞ」
近藤の言葉に総悟は固まった。

俺のために……おしゃれ?

頭の中で反芻すると、一気に顔へ熱が集まるのが分かった。
「しっかりエスコートしておいで」
「……へい」
赤く染まった顔を隠して、総悟は頷くのだった。





そして迎えたデート当日。
(あれ……か?)
待ち合わせ場所で見つけた桜色。何故かその後ろ姿に既視感を覚えた。
まぁ、見慣れない格好をしているせいだろうと考え、近付いていった。
「お一人ですか? お嬢さん」
どこのナンパ男だとツッコみたくなる台詞とともに、ポンと軽く肩を叩く。
振り向いた神楽の驚いた顔に、ちょっとしたイタズラが成功したのだと分かった。だが喜んではいられなかった。
(ヤベェ……可愛いすぎる)
「よォ、待ったかィ?」
「あ…ううん、大丈夫アル」
内心、余裕なんてなかったが怪我が治ったばかりの神楽を気遣うことでそれをごまかした。
「足、辛れぇとかねーよな? 遊園地って、けっこう立ち歩くぞ」
「平気ヨッ! 総悟こそ遅れるなヨ」
「誰がでィ」
(あー、もう誰にも見せたくねぇ。でも、出掛けないと意味ねーし……あっ! そうだ)
「んじゃ、行くか」
総悟は神楽の手を取って歩き出した。もちろん、指と指とを組み合わせた繋ぎ方だ。
「わっ!」
神楽が驚きの声をあげる。
「わ、あああ! な、なに、手繋いでいるアルカ!?」
「何って……
俺の為に可愛い格好してくれた彼女をエスコートするんでィ」
「…………サド」

……ボソッと漏れた照れ隠しの言葉に危うく理性が揺らぎそうになった。



遊園地に着くと、全制覇を目指す神楽に引っ張り回されることになり、総悟は少し困っていた。別に引っ張り回されていることが苦になっている訳じゃない。(クルクル変わる表情はずっと見ていたいくらいだ)
ただ、懐にしまった退院祝いの贈り物の簪をいつ渡そうかと悩んでいた。


「あーーー、面白かった」
「……そうかィ」
情けないが、ジェットコースターに乗ると気分が悪くなった。松平の娘の一件以来、あのスピード感はどうも好きになれないものだった。
「総悟? どうしたネ?」
「いや、ちょっとトラウマが……」
心配して覗きこんできた神楽に見つめられた時、総悟の中でひらめいたものがあった。
「って、プッ。お前、髪グシャグシャだぜィ」
「えッ!」
本当は乱れているといっても、せいぜい前髪ぐらいだ。きちんと結い纏められている髪に乱れなどない。
「ほら、じっとしてなせェ」
「は?」
だが、それを神楽が知る前に後ろに周り、簪を抜いて、サッサと髪を解いた。
「ちょっ……総悟!?」
「結構、俺上手いんだぜィ」
サラッと指を梳き抜ける感触は、ずっと触れていたくなるものだった。それを堪えて髪を結いあげていく。

「……ほい、出来上がり」
「変な髪型にしてねーダロナ?」
「確かめてみろよ……そっちのが似合う」神楽にしたのはサイドの髪を後ろで、あの簪を使って纏めた髪型だった。そうしたのは、いつもお団子に結っている神楽の髪を下ろしている(に近い)姿が見たかったのと、彼女には少女らしさが出るもののほうが似合うと思ったからだ。
「なんで、こんなこと出来るアルカ?」
なぜ男の自分が髪結いなどできるのか問われ、思い出すのは在りし日のこと。
まだ田舎にいた頃、髪の長かった土方をからかう為にと亡き姉から学んだのだ。
「……昔、あるヤローをいじめるために、な」
そういえば……待ち合わせの時の神楽の後ろ姿。あれは姉にどこか似ていた気がした。
気付いてみると笑いが自然ともれる。
(よく親に似た人を選ぶって言うが、俺もご多分にもれなかったのかねィ……)

シャランと音が響く。
どうやら神楽が簪に気付いたようだ。

「これっ!?」
こちらを見た神楽に先程まで着けていた簪を差し示す。
「退院祝いでィ……退院、おめでとう」
「あ、ありがとうアル!!」
満開の花のような笑みを浮かべる神楽に手を差し出す。
「さて、と。まだまだ回るんだろィ? 行こうぜ」
「うんっ!」


何があろうとこの笑顔を、守り抜く。


END



うちの沖田は神楽ちゃんの笑顔のためなら、なんだってやりそうです。
Side.Kに載せた神楽ちゃん絵がミツバさんに似ていると言われたので、そのことを加えてみました! 近藤さんを書いてみたのですが、あまり似てないのでまた頑張りますっっっ!

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