「お願い! 神楽ちゃん!!」
「へ……?」
拝み倒さんばかりの妙の勢いに神楽は目を白黒させたのだった。


〜クールな彼の唯一の弱点〜


「いやぁ、沖田君。君の噂はかねがね聞いているよ、目覚ましい活躍だそうだな」
「恐れ入ります」
総悟は近藤と共に幕府のお偉いさんの接待をしていた。お偉方といっても、とても好感持てる人物で、珍しく接待という場に不快感などを覚えなかった。
実家は剣術道場をやっているらしく、話にも花が咲く。
「やはりきみ程にもなると、弱点などないのだろう?」
「いえいえ、まだ修行中の身でさァ」
謙遜してみせる総悟に、相手は面白そうに笑った。
「修行中の身……ねえ。面白いことを言う。君とは一度じっくりと話してみたいねぇ」
「でしたら、いい店を知っていますよ。そこで一杯どうですか?」
近藤がさり気なく提案した。彼が仕事にかこつけて、恋人に会いに行こうとしている魂胆など総悟には見え見えだった。
(……姐さんに会いに行く気だねィ)
総悟は苦笑したのであった。




「きゃー! かわいいわ、神楽ちゃん!!」
有無を言わせず神楽は妙が勤める『スナック すまいる』に引きずられてきたのだった。
「あの、姉御……これは」
神楽は妙の手によっていわゆる……ゴスロリ服に着替えさせられていた。
「お願い! 神楽ちゃん。今晩、お店の子がどうしても都合つかなくて……。それで神楽ちゃん来てもらえないかしら?」
「え、でも私、綺麗でもなんでもないから……」
神楽は、妙の頼みに申し訳なく思いつつも断ろうとする。
「大丈夫よ! 神楽ちゃんなら。今日のお客さん、かなりの上客らしくて、女の子足りないと色々不味いの。ね? だからお願い、神楽ちゃん!! 私の側で笑っているだけでいいから」
「……総悟には内緒にしてほしいアル」
妙の根気に負けた神楽は、小さな声で了承するのだった。




「お妙さぁぁぁぁぁんっ!!」
店に着いた途端、近藤がガバリと妙に飛び付いた。
「うるさいわッ!!」
それを妙はガツンと殴り沈める。(両思いになった今でも、このやりとりは健在だ)
近藤と妙のいつもの応酬を笑って見ていた総悟だったが、そのあとに通された席で表情を変えた。
「いらっしゃいませヨー」
(なんで、んなとこにいるんでィ)

そこには、ゴスロリ服に身をつつんだ愛らしい神楽の姿があったのだった。




神楽はカチンコチンに固まっていた。
(総悟には内緒だったのに……)

(なんでいるアルカァーー!?)

驚きのあまり、神楽は思いっきり叫んでいた。(心の中でだが)
恐る恐る総悟のほうを見た神楽だったが……

目が、恐いーー!!

総悟は口元のみの黒い笑顔を浮かべていた。
「……おじょーさん?」
「はいアル……」
(ヤバイ、怒った時の呼び方アル)
「お酌、してくれやすかィ?」
可哀相な子兎はその言葉に覚悟を決めて頷いたのだった。



「で、んなところにいた理由は?」
当然のごとく神楽を隣りにおいた総悟は、恋人に尋問した。さながら不良少女を諭す警官のように。(総悟は本当に警官なので、あながち間違ってない)



「あ、姉御に頼まれて……それで」
「それで、着飾って野郎の相手をしようとしていたってのかィ?」
誰しも恋人にはこのような場所にいてほしくないものである。総悟は少しばかり、辛辣な物言いとなっていた。
「……め…なさい……」
「あ?」
「ごめんなさいぃぃーー!!」
そう叫んだ神楽は、突然わあわあと泣き出したのだ。これには流石の総悟も驚いた。
「ど、どうしたんでィ!?」
「…こんな……ヒック…と、ふしだらな……ヒック。嫌いにならないでぇ〜〜」
実は、神楽は緊張により店に漂う酒の匂いだけで酔っ払ってしまい、すっかり泣き上戸となっていたのだ。
「ならねェ!! てか、お前を嫌うことなんか出来ねぇから!」
「……本当アルカ?」
涙で濡れた瞳に、レースたっぷりな服。
どこか小動物を彷彿させるその姿は、総悟のなにかを破壊するには充分だった。
(……うっ!!)
「うわぁぁん!!」
怯んだ隙に更に泣きじゃくってしまった神楽に、総悟は先ほどまでの怒りを綺麗に捨て去っていたのだった。

「頼むから、泣きやんでくれィ!!」




いつでも冷静沈着な沖田総悟。
彼の弱点は……恋人の涙なのかもしれない。


END




オマケ
一方、別の場所では……
「なんで沖田さん連れて来ているんですか、貴方は!?」
「そっちこそ、チャイナさんにこういうことさせるなんてどういうことです!?」
小声でぎゃーすかと、喧嘩をする近藤と妙がいたのであった。



〜あとがき〜
「自由に」という優理さまのお言葉に甘えさせてもらい、本当に自由に書かせていただきました☆ (優理さま、すみません;)
うちの沖田は、結局は神楽ちゃんの涙に弱いです。
ちなみに、お妙さんが神楽ちゃんにゴスロリを着せた理由は『可愛いのに露出がない』という配慮からだったりします。

Back
   


【アマギフ3万円】
BLコンテスト作品募集中!
あきゅろす。
リゼ