あの星海坊主の襲撃事件の時に発覚した総悟と神楽の仲。マスコミは連日、二人のことについて書き立てていた。
神楽は一般人で未成年ということもあり、報道陣は取材を自粛したのだが、その分とでもいうように総悟のほうに注目が集まっていた。
だが総悟はお得意の飄々とした表情で、のらりくらりとかわしていたのだった。


〜Dear my steady〜


「パーティー……ですかィ?」

仕事中、近藤に呼び出された総悟が彼の部屋に行くと、何故かそこには妙と神楽もいた。首をひねりつつも神楽の隣りへと腰を降ろした総悟は、近藤の話に目を丸くした。
「そうなんだよ。幕府のお偉方のパーティーにな。俺とお妙さん。総悟とチャイナさんだな」
「……なんで俺と神楽?」
こういったパーティーは夫婦で出席するものだ。局長で出席しなければならない近藤が恋人の妙と出席するのは分かるが、同伴する部下は既婚者の隊長格になるのが普通なのだが……
「あら、だって今、二人は江戸をもっとも騒がさせているカップルですもの」
「主催者からの指名でなぁ。ぜひ、二人に会いたいそうだ」
(好きで騒がしてる訳じゃねェし、俺たちは見せモンなんかじゃねぇ)
だが、総悟の気持ちを余所にとんとん拍子に話は進んでいってしまう。近藤も妙も総悟の戸惑いの声なんか聞いちゃいなかった。
「神楽ちゃんのことは任せて下さいね。目一杯可愛くしますから」
「えと、姐さん?」
「そうと決まったら、早速出掛けるか!! はははははっ!」
「いや、近藤さん……」
総悟が頷かないうちに近藤たちによって神楽は連れて行かれ、部屋には総悟一人がぽつんと残された。

「……なんで………なんで、誰も俺の話を聞いてくれないんでさァッ!!」

デジャヴ感たっぷりのその叫びは、一人の部屋に寂しく響くのであった。




「どうしたの? 神楽ちゃん」
現在、三人はドレス専門店にいた。というのも、幕府関係者が集まるパーティーのため、近藤と総悟は隊服の正装での出席となり、それに合わせて女性二人もドレスとなったのだ。
しかし、きらびやかなドレスを目の前にしているというのに、神楽の表情は晴れない。心配した近藤と妙はその顔を覗きこんだ。
「ねぇ、姉御……アイツは私と恋人、嫌なのかな?」
「「ええっ!?」」
その言葉に二人はかなり驚いた。
どこをどう取ったらそうなるのだ、この少女は。(むしろ総悟は溺愛していると言っても過言でもないというのに)
「どうしてそう思うんだ?」
「だって……」

思い出す総悟の姿は取材を避けたり、パーティー出席の承諾を渋っていた。
それはつまり……
(私が一緒にいるの、もうイヤになっちゃったアルカ?)

すっかり、うつむいてしまった神楽の姿に、近藤たちは目配せすると明るく話かけた。
「ねえ、神楽ちゃん。神楽ちゃんのドレス、私に選ばせて貰えないかしら?」
「え? いいアルヨ」
「お、それはいいな! お妙さんはセンスも確かだしな」
「ふふ、じゃあドレスはこの店にするとして。ヒールとか小物は……貴方と前に行ったお店にしましょう」
最後の言葉は近藤に向けたもので、向けられた彼は容易く返事を返した。
「あの店か? ああ、では先に店に電話をかけておこう」
「は? え、ええ〜〜!?」
急にせわしく動き出した二人の勢いに、神楽は引きずられるように巻き込まれていった。



そして、パーティー当日。

(なんで、こうなってんでィ……)
総悟は今、黒塗りの公用車の中にいた。総悟の隣りには神楽がチョコンと人形のように座っていて、車内は二人きりだった。(近藤と妙は"何故か"一足先に会場へと向かっていた)
神楽は光の加減によってはピンクにも見える白いドレスに、薄手のコートを羽織っている。髪はクルクルとカールがかけられ、花飾りで飾られていた。
(さすが姐さん……じゃなくて、こんなに可愛くしてどうするんでィ)
総悟はあまりの可愛さに神楽のほうを見れずにいた。……神楽の表情に気付かずに。
「……。やっぱり、帰るアル」
「は? 突然、どうしたんでィ?」
驚いた総悟がようやく振り返ると、神楽はひどく沈んだ様子でいた。総悟はふと、神楽がキュッと手袋をした手を握り絞めているのに気付いた。
「神楽?」
「…………」
それ以上喋ろうとはせず、頼りなげな雰囲気の彼女に総悟は優しく問い掛けた。
「……どうした、神楽? 言いたいこと、全部言いなせェ。ちゃんと聞きまさァ」
「あの…ネ」
「ん?」

「私と恋人なの……そーごはイヤ?」

一瞬、思考が停止したかと思った。だが「全て聞く」と言った手前、気を取り直して次の言葉を待った。
その声は小さな囁き声だったが、それでも総悟の耳にはきちんと届いた。
「……私は総悟よりも子どもだし、キレイでもなんでもないアル。だから……私が恋人だってみんな(マスコミ)に言うの嫌なんだよね」
神楽の不安を払うように総悟は強く言った。
「そんな訳ねェだろ」
「え?」
神楽の頬に手を伸ばし、総悟は言葉を続ける。
「正直なところ……自分でもどうしたらいいのか分かんないんでィ。俺の恋人はこんなに可愛いんだって自慢したいような気もするし、どこかに連れ去って隠しちまいたい気もする」

でも、それで彼女を不安にさせているというなら……

「……ちゃんと、するから」
「! それって……」
神楽が聞き返そうとしたその時、車外が騒がしくなった。パーティー会場についたらしく窓から覗いて見ると外にはたくさんの記者たちがいた。


(おいおい……早速かィ)
総悟は内心呻いた。車から降り立つとすぐに報道陣に囲まれ、矢継ぎ早に質問責めにされたのだ。
「沖田さん! 星海坊主氏のお嬢さんとの交際は順調ですか!?」
「彼女のどんなところが好きですか?」
それには一切答えないで総悟は、丁寧な仕草で、車の中に手を差し伸ばした。

カツンとヒールの音が響く。

総悟の手に軽く手を添えて現われた可愛らしい少女に周りは一気に騒ぎたてた。
「もしかして、そちらの方があの?」
「ええ、俺の恋人の神楽ですぜィ」
総悟の言葉に驚いたのは記者たちだけではない。思わず神楽が総悟の顔を見上げると、穏やかな表情をした総悟と視線がぶつかった。
神楽は数回瞬くと、そこでようやく微笑んだ。

どS王子と言われた総悟が優しく恋人と見つめあう姿に、激しくフラッシュが浴びせられた。



記者から総悟にある質問が投げ掛けられた。

「沖田さんにとって、彼女はどんな存在ですか?」
「人生でたった一人の女性ですねィ」




「近藤さんっ! 姐さんっ! 最初から二人で仕組んでやしたねッ!?」
ボーイにコートを預け、神楽とともに会場入りした総悟がまずしたことは上司たちに詰めいることだった。
「あら、神楽ちゃんを不安にさせた人に言われたくないわ」
「ぐ」
実は、総悟と神楽の予定などはマスコミに漏れぬよう機密扱いとなっていたのだ。だが、神楽の不安を知った二人が荒療治と総悟にお灸を据えるということで、今日ここに総悟たちが来ることをリークしたのだった。
「総悟。男は態度で示せというが、時には言葉も必要だぞ」
「……へい」
近藤の言葉に総悟は頷くことしかできなかったのであった。



後日、このパーティーの時に総悟がはっきりと発言したことで神楽の不安は治まり、加熱していた報道も落ち着いたのであった。


END



〜あとがき〜
今回は絵のほうに力を入れてみましたっ!
銀魂ワールドの流行がイマイチ分からないので、古いアメリカ映画をイメージしてます。神楽ちゃんのドレスコートがトレンチなのがその印ですかね。
真選組に正装あるのかな? 常装で既に派手なんですけど(汗) こちらも昔の将校風にしてみました。
実は秋冬設定なので、15歳はこれで終わりです。次はどうしよう? 18歳に飛ぶか、構想したら長編になった16歳か……皆さまの意見、良かったら聞きたいです!!

2013年10月 イラスト変更しました。
前回のデザインを踏襲しつつ、神楽ちゃんはドレス姿にしてみました。
沖神の密着度と幸福度が上がって満足です☆

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