眠りが深く、低血圧であるのは自他共に認めるゼロの欠点の一つだ。その彼が先程まで満足にたっぷりと夢の世界を満喫していたのだが、それを抱きしめて眠っていた存在に妨害されてしまった。
冬の寒い時期、人肌で暖を取っていたのだが気付けば散らばる衣服をそのままに朱雀はシーツを頼りなさ気に腰に巻きつけた状態でベッドの縁に腰をかけていた。


「うん。わかったから、落ち着けって」


後ろ姿で正確に確認はできないが、どうやら誰かと通話しているようだった。ゼロに気を遣い小声で話している。口振りからして親しげな相手のようだ。電話なら仕方ない、ゼロがそう思った時だった。聞きたくもない名を耳にし、彼の不快度指数が頂点を振り切ってしまう。


「そうは言っても今すぐは無理だって、ジノ」
(あの駄犬か――!!)


職場の後輩にあたるが、ゼロは以前からジノに良い印象を持っていない。外人特有といわれれば仕方ないかもしれないが、彼の朱雀に対する過剰なスキンシップの多さを目の当たりにされて敵意を抱くのはもはや必然だった。


「時間見ろよ。それに今はちょっと抜け出せないんだ。……悪いな、今度埋め合わせするから…っ、」


ふいに朱雀の声が詰まる。それは寝ていたと思われた人物が背後から彼の腰に腕を絡ませた所為である。
格好悪い。あまりにも低俗で幼稚。そう、頭の中でもう一人の自分に罵られるがゼロは自身の行動を止められなかった。
誰のものでもない。あくまで躯だけの関係だと線を引きつつも、自分の気持ちに気付きながら見て見ぬふりをしている酷く面倒な相手を繋ぎ止めておけるのならば、どれだけ醜態を晒そうがゼロにデメリットは存在しない。


(どうしようもないのはお互い様か…)


それすら理解した上で、未だにこの関係にしがみつく己に自嘲の笑みをこぼすと、朱雀はからかわれていると勘違いしたのか腰を抱いているゼロの手の甲つねって抗議する――邪魔をするな、と。だがそれはゼロの神経を逆撫でする行為にしかならない。
腰に添えていた手で太股の内側を撫でると朱雀はびくりと身体を弾ませた。


(こいつ…!)


携帯を手放す事が出来ないままゼロの腕を振り切ろうとすると挑発的な視線を投げられ、朱雀は負けじと睨み返す。すると電話越しの相手にも何かしら空気を感じさせてしまったのか、心配そうな声をかけられた。


「あぁ、なんでもないって。ちょっと…猫に絡まれてるだけだから」
(猫、ねぇ…)


昨晩猫の様に鳴いていたのはどっちだったか。そんなぼやきが溜息に含まれていたのを気付かれたのか、軽く頭上に肘鉄を喰らわされたゼロは反撃とばかりに剥き出しの腰に唇を寄せ軽く舐める。


「ひゃっ!?…ぁ、ごめん!今のはただ猫に舐められてビックリして…」


思わず出てしまった声の言い訳をジノにするのが気に入らなかった。理由はそれだけで十分だった。
朱雀が無理やり引きはがそうとする前に、ゼロは舐めた箇所に歯を立て思いっきり噛みつくと薄らと血が流れ、当分消えない痕が残された。












(鎖より頑丈な)
縛りつける為に必要なモノ












25.12.23



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やることはやっていてもただれた関係を続ける二人にぴったりの「束縛」リクエストいただきありがとうございます!
キスと言うより【猫】に噛まれる朱雀が書きたくて、こういうお話になりましたw




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