※亡国のアキト二章のネタバレを含みます。
未試聴の方はご注意ください。









正直言って最初の印象は最悪だった。
私の護衛として選ばれた男がどれほど優秀で使える駒になれるか見極めようとしていたら、初対面でありながら奴は酷い形相で睨みつけてきたのだ。
それは一瞬の事ではあったが、この世の総てを憎むような、この世で最も醜いものを蔑むような表情だった。


(なんだ…こいつは)


皇帝陛下自らが選んだ男と聞いていたが無礼な態度に教育の一つでも施してやろうとした矢先、その瞳の奥を見てしまい言葉が出なくなってしまった。
殺意と憎悪――表裏一体の愛情――私の見間違いでなければ、何故その眼差しを私に向けたのか気になる。
俄然興味が沸いたぞ…枢木スザク。



ゼロという奴はそんなに私に似ているか?


片方のアメジストを大きな眼帯で覆い隠す男が、ふいにスザクに問う。


「…なんの事ですか」
「間違っているぞ、スザク。誤魔化したいのなら黙秘を通せ。答えてしまえばそれは肯定になる」


想定していた反応に軽く笑みを零した護衛対象者、ジュリアス・キングスレイは答えを聞けたことに満足したのかそれ以上の追求はせず、ただ何処か納得のいかないようで足を組み直しスザクを見上げる。


「しかし、この顔が他にいるようには思えないが」
「………」
「何故わかったのか、と言いたげな顔だな」


自分の顔に余程自信があるようで顎に手を添える彼の姿は確かに世界広しと言えど、そうそうお目にかかれないほど整っている。それこそ顔の半分近くを覆っている眼帯が邪魔に思えるほどジュリアスは綺麗だ。
その彼は簡単な推理だ、と沈黙を貫くスザクに説き伏せ始めた。


「普段仏頂面のお前が表情を変えるのは決まって奴の情報が入ってきた時だ。新聞、ニュースに流れるゼロの名を耳にするだけで一瞬だが殺気を漏らす。その殺気を貴様は私に向けた事がある」
「………」
「覚えていないか?…初めて会った時だ」


身に覚えがなくとも、鋭利な刃物で心臓を貫かれるような殺気を気の所為だとは思えない。意図的に、だが無意識にスザクが自分に向けたそれをジュリアスは脅えることなく、むしろその殺意に興味を抱いたのだ。


「…だが気に入らないな」


興味を抱けば欲したくなる。それは人の性なのか、彼がジュリアス・キングスレイだからなのか。あるいは……。


「もしも自分の言動で不快に思わせたのなら謝罪します。ですがこれ以上自分の事に首を突っ込むのはお止めください」
「それは忠告か?」
「いいえ。…最後の警告です」
「ふむ…。だが違うな、間違っているぞ。私の気分が害したのはそんなことではない」


静かに揺れる列車の音を聞きながら立ち上がったジュリアスは扉近くに待機しているスザクとの距離を詰める。真っ直ぐとこちらを見つめるスザクの顎に手をかけたが、彼は微動だにせずただ黙ってジュリアスの動向を眺めていた。


「私が気に喰わなかったのは、貴様が私を見ていないからだ」


誰かが言っていた。殺意と愛情は紙一重だと。
では彼が向けている殺意は自身ではなく、ジュリアスを通して――


「っ…!」


片目の紫玉に薄らと笑いかけられ、それに気を取られたスザクの首筋に顔を埋めたジュリアスの動作はとてもゆっくりとしたものだったが、スザクは金縛りにあったように動けなかった。


「覚えておけ、スザク。…これは私が、ジュリアス・キングスレイが付けた痕だ」


指先で触れられた首筋にはくっきりと紅い花弁の痕が一つ散らされていた。


「…警告は、した筈です」
「?スザ、…ぐっ!!」


だがその行為にスザクは照れる事もせず、呆れたように溜息を吐いた後、護るべき対象の腹部に一発だけ拳をめり込ませた。といっても、かなりの加減はしたがジュリアスは相当のダメージを負い、そのまま崩れ落ちようとしていた。


「どうやら列車に酔ったようですね。今、薬と水をお持ちしますので少々お待ちください」


それを支え、投げるようにしてジュリアスを椅子に座らせ滅多に見せることのない笑顔を浮かべたスザクは彼を残したまま部屋から退室した。その時、営業スマイルを貼りつけた笑顔とは裏腹に耳がほんのり赤く染まっていたのだが、蹲るジュリアスがそれを見なかったのは後々にとって幸運だったのかどうかは定かではない。
なぜなら列車が向かう先は血が飛び交い、数多の人が生死をかける戦場なのだから。








(所有者の証)
刻んだのは執着









25.11.30




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早速ジュリスザのリクエストありがとうございます!
すごく殺伐としたCPで書きながら胃が痛くなったので、スザクさんにジュリアスを殴らせました後悔はしてませんw




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