五月の森林公園は暑くもなく寒くもなく、四月に綺麗に咲いていた桜の桃色はすっかり緑色に変わり気持ちのいい風が吹く度にサワサワと綺麗な音をたてる。こうやって風を感じるだけで優しい気持ちになれるのは、きっと隣に美奈子がいるからだろう。
森林公園に行かない?と誘ってきたのは美奈子の方からだった。卒業前と変わらず元気な可愛い声で。あんな風に誘われて断れる訳がない。それに最後に会ったのは四月の、まだ桜が散る前だ。俺はそろそろ美奈子不足だと感じていた。
勿論行く、と即答して久々に会った美奈子の顔は、前と比べると少し大人びたかもしれない。大学生活にも少し慣れてきたんだろうか。



「私、おにぎり作ってきたよ!」
昼時、元気よく言った美奈子は嬉しそうな顔をしていて、俺まで嬉しくなった。
俺、オマエが作ったおにぎり好きだよ。そう言うと「本当?嬉しい」と照れたように笑う。
「うん、ほんと。タラコのある?」
「勿論!琉夏くん、好きだもんね」
それじゃどっか座ろう。言いながら美奈子の手を握ると、ぎゅっと握り返してきた。こうやって美奈子の手の温もりややわらかさを感じられると俺の胸はあたたかい気持ちでいっぱいになる。幸せなんだ。凄く。


「ここ、あったかそうだね」
美奈子が指したのはぽかぽかした陽気に包まれているベンチだった。まわりにもいくつか同じようなベンチがあって、俺達の他にもカップルや家族連れが座って喋ったり昼食をとったりしている。
「よし…じゃ、ここ座ろう。ほら」
先に座って、隣のスペースを手でぽんぽんと軽く叩いておいでおいでをした。美奈子はそんな俺を見てはにかんだ。
「膝の上でもいいよ?」
「…もうっ」
照れてるところも可愛い。ぼんやりとそう思っていたら美奈子は隣にちょこんと座った。女の子らしい可愛いバッグからアルパカのプリントがしてあるランチボックスを出して、膝の上に乗せてこちらを見る。
「お口に合うかどうか、分からないけど……」
照れたような困ったような笑顔。俺はオマエのそんな顔が好きなんだ。勿論全部好きだけど。
「大丈夫、前に作ってくれたおにぎりおいしかったよ。今回もおいしい」
「ふふっ、ありがとう」
今度は嬉しそうな笑顔になった。ああ、この顔も好きだなあ。
美奈子のおにぎりを食べるのは二回目だ。一緒に遊園地に行った時、今日みたいにおにぎりを作ってきてくれた。そのおにぎりは本当においしかったんだ。だから今日のおにぎりもおいしいに決まってる。心配する必要なんて無いよ。
あの時の事を思い出しながら、美奈子が開いたランチボックスの中身を見ると前よりも見た目が華やかだった。アルミホイルで包んだおにぎりの他にも、卵焼きやウィンナーといった定番のおかずが入っている。ウィンナーはタコさんだ。
「スゲー……。美奈子、絶対いいお嫁さんになれる」
思わずそんな言葉が出てしまうくらい俺は感動した。美奈子はやっぱり照れていたけど、ほんとにそう思ったんだ。
「もうっ、琉夏くんはまたそんな事言って……。リンゴも剥いてきたから、後で食べようね?」
はい、と手渡されたおにぎりを受け取って、こんな日が過ごせるなんて俺は本当に幸せだなと思った。これからも幸せでいたい。美奈子と二人で、ずっと一緒に。
ふと美奈子の顔を見ると、頬を赤く染めてにっこり笑った。まるで俺の考えている事が分かっているように。
「……美奈子、ありがとう」
俺、幸せだよ。小さく言うと、美奈子は「私もだよ」と俺の口元にそっと触れた。
オマエ、昔からそこ好きだよな。……俺も好きだけど。




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