図書館とあの子
2013.06.01 Sat 17:44
うちの学校には他と比べてもかなり大きい図書館がある。だが利用者はあまりいないのが現状だ。がらんとした図書館は酷く静かで暖かな気候も加わって眠気を誘ってくる。どうでもいいけど、僕はこの図書館が好きだった。ここにくると穏やかになれる気がした。お気に入りの場所は窓際、小さな椅子が二つ並ぶ一角だ。
テスト期間真っ最中のその日、僕はいつもの通りその一角で教材を拡げていた。大量の課題、終わらないノート整理。…飽きた。それに眠いし。勉強する時だけ掛ける眼鏡を外し伸びをする。あああ肩凝ったなあ。そのまま目を閉じたら今すぐ寝てしまいそうだった。なんせ暖かいしな。外は晴天、風は無し。開けた窓から春の香りがする。ほら、寝ろって言っているようなもんでしょう。ちょっとだけ、ちょっとだけなら…
「おい、寝るなよ?」
頭をばちんと叩かれた。司書の華山さんだ。
「せんせーが生徒殴るのいけないと思いまーす」
「先生じゃないもん司書だもん」
「"もん"とかつけても可愛くないですよ」
「よしお前外出ろ。そんでしばらく図書館出入り禁止な」
「……すいませんでした」
図書館出禁は嫌なので素直に謝ると華山さんは満足そうな顔でにっこり笑った。ちくしょう。
司書の華山さんは美人の癖に口が悪い。だからモテないんだって言ってやりたいけどそんな事したらどうなるかは目に見えているのでやめておく。勉強は出来ないけど頭は良いんだよ僕。
「んで何、お前眠いの?」
「いや、別に」
「あ?」
華山さん眉間に皺寄ってます。怖いです。
「…正直眠いですけど」
「素直で結構。」
またにこりと笑ってそれから凄く意地悪そうな顔をした。
「じゃあ家に帰りたまえ、瀬口くん。」
「何故ですか。家だと勉強出来ないんです僕は」
お前今寝ようとしてたじゃねーか、という呟きは無視した。構ってられるか!
「今日はもう図書館はおしまい。閉館するからお前は家に帰れ。」
「図書館は平日5時まで開いているはずです。」
「私用があって帰るからもう閉めるっていってんの。」
ほら、早く、と華山さんは散らばった教科書をまとめ始めた。問答無用で鞄に突っ込むと無理やり僕を立たせる。
「ほれ、歩く!」
だらだら出入口に向かってふと図書館内を見たその時、あれ?
長い髪を下ろした女の子が蔵書棚の隙間を通り過ぎた。
「華山さん、まだ中に人がいますよ?」
「いるわけないだろさっき全館内を確認したんだから。お前以外誰もいなかったよ」
「でも、」
「出たくないからって嘘ついてんじゃないよ。さっさと帰れ!」
「はーい」
まあ見間違いだろうと思おうとしたが、どうしてかその時の事が忘れられなかった。
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