せぶすま!(7thD×大乱闘3)
 

「ルーちゃんは試合しないの?」


そんな問いかけだった。
私がスマッシュブラザーズという世界に飛ばされてから三日、少しはここの環境に慣れたとは思う。この世界はとても平和で、今まで死と隣り合わせで過ごして来た事に首を傾げたくなるくらいだった。
それはそうと、桃色の丸っこい体が愛らしいカービィにピカチュウ、ピチュー兄妹とで遅めの昼食を食べていた時の事。口をもぐもぐさせながらカービィはそう私に質問して来たのだ。


「試合……あのステージで闘うアレか」

「そうそう。怜姉とかは出ないって言ってたけど、ここのみんなはだいたい試合には出てるんだよー」


その試合というものなら昨日見せてもらった。私が飛ばされた後目を覚ました時にいた『戦場』というステージでこの全星館の者達が四人、縦横無尽に駆け回っていた。自分の武器や時折出現するアイテム等も使い闘うその様子は、確かにロイが言うように戦争ではなく競争と呼べるだろう。ただ試合が終わった後も控え室でそれぞれその試合の反省や感想を言い合う姿はお互いに高みを目指しているとも取れた。


「試合……か。私のようないきなりここに来た者でも参加出来るものなのか?」

「出来るよ。ちょっとしたルールとか基本的な技術とか覚えれば誰でも参加出来るようにしてるって、前にマスターが言ってたし」

「でもそれで参加したいって人達が無駄に出てこないように、マスターが選んだ人だけがここに参加出来る……みたいに表向きにはしてるのですよ」


ピカチュウとピチューが説明する。という事はこの館にはマスターが実力を認めた者ばかりが集まっているのか。今私の目の前にいる可愛らしい三人(いや人ではないから三匹か)も見た目に似合わない強さを持っているのだろう。私自身13班の一員として決して弱くはないと自負しているが、強さが未知数の彼らに私の力は果たして通用するのか。
しかし、考えてみれば怪我をしない安全な空間で殺生を気にせず戦える事、それに加えて自分の力を磨く事も出来るならばやらないとは言えなくなる。せっかくの機会だ。


「……そうだな、ここで何もせずに帰るのも確かに惜しい。良ければ私も試合に参加させてくれないか?」


そう訊けばカービィ達の表情が明るくなる。


「もちろん! じゃあさっそくマスターの所に行こ!」

「ちょっとカービィ、ぼくらまだご飯食べ終わってないんだから。もう少し待ってよ」


善は急げとばかりにカービィは席から立ち上がる。彼の前にある皿は全て空だったが、それを制止したピカチュウの昼食はまだ残っている。カービィは終始喋っていたがいつの間に完食したのだろうか。そして同じくまだ途中のピチューも頷きピカチュウに続く。


「そうです。カービィはもっとゆっくりご飯を食べた方がいいのです」

「えー、だって冷めないうちに食べた方が美味しいでしょ?」

「ぼくらはカービィみたいに一口でそんなに食べられないってば。ほらこれあげるからちょっとおとなしくしてて」

「わーいピカちゃんありがとー! ってこれレモンだよね、ピカちゃんの嫌いな」

「嫌いじゃないよ。食べる気がしないからあげただけ」

「お兄ちゃん、それを嫌いっていうです」


そんな微笑ましい会話を聞きながら過ごした昼過ぎの事。食器類を片付けた後に予定通りにマスターへ会いに管理室へ向かった。



+++



「うん、了解。じゃあルネットちゃんをファイターとして登録するね」


マスターに試合に参加出来るかと問えばそう返ってきた。予想以上にあっさりとした了承に少し拍子抜けしてしまう。喜びぽよぽよと跳ねるカービィの隣で私は首を傾げた。


「いいのか、そんな簡単に。ピカチュウからは誰でも参加出来るとは聞いたがこうもあっさりだと逆に心配になる」

「大丈夫だよ。基本的には来る者拒まず、って方針だからね。ただ闘いに不向きな人達が押し寄せる事のないように、僕がスカウトするって話で通ってるんだ」

人数が増えすぎても色々問題があるからね、とマスターは苦笑いする。確かにこの世界に加え館の管理となると神といえど大変なのだろう。


「よし、登録はOK。あとはファイターとして試合を行うにあたっての基本的な技術とルールを教えてあげるよ」

「あ、その事なんだけどさ」


続きを話そうとしていたマスターに声をかけたのはピカチュウだった。


「ルールとかそういうの、ぼくらが教えてあげてもいい?」


そうピカチュウが問うとマスターは若干意外そうな表情になる。しかし少し思案すると二つ返事で頷いた。


「うん、ピカチュウ君達は古参のベテランだしね。じゃあ試合の基本は任せたよ」

「やった! ありがとうマスター!」

「じゃあさっそく行こっか。トレーニングルーム空いてるかな?」

「今の時間なら誰も使ってないはずなのですよ」

「……おっと、ごめんみんな、ちょっと待ってくれるかい?」


と、今度はマスターから呼び止められた。彼に背を向けていた私達が振り向くと、マスターは右手を淡く輝かせこちらへ歩み寄ってきた。


「これをあげるのを忘れてたよ。試合の登録やトレーニングルームの使用に使う、所謂メンバーの証明書みたいな物なんだ」


そう言ってマスターが差し出した右手に金色に輝く、少し大きいコインのような物が現れた。それを受け取り確認してみると片手で軽く握り込められる大きさで表には薔薇を模した花模様、裏にはマスターのつけている髪飾りと同じ模様が刻印されていた。


「あと軽く念じれば僕や他のメンバーとも通信が出来るんだけど、今回キミはゲスト扱いだから今は使えないから気を付けて。僕からは以上かな」

「わかった、何から何まですまないな」

「気にしないで。これもせめてものフォローだからね、無事に帰れるまでなるべく不自由はさせないよ」

「…………」

「試合に出るのを楽しみにしてるよ、ルネットちゃん」

「……あぁ」


マスターのその不安や心配、僅かな期待が混じったような笑顔に何故だか私は都庁で待ってくれている"彼"を思い出してしまった。理由は私自身にもわからない。ただ、私は人を心配にさせてばかりだなと感じ、心の中でため息をついたのだった。



+++



全星館二階、メンバーの個室が並ぶフロアの丁度中央にピカチュウ達の言うトレーニングルームがあった。中に入れば試合の控え室と似たような作りになっているが、少し違うのは四つ並んだ転送台の横に同じ色合いの機械が設置されている所だった。近付いてよく見ると、先程渡されたコインのような形をした証明書(メンバーはシンボルと呼んでいるようだ)を置くらしい窪みや小さなモニター、更に何かのマークがついたボタンがたくさん並んでいた。
私が興味深く機械を眺めている隣ではピカチュウ達が会話を繰り広げている。


「ステージは戦場でいいよね?」

「さんせーいっ」

「アイテムはいらないですね」

「あ、食べ物は出せるようにしてー」

「カービィさっきご飯食べたでしょ」

「途中でお腹すくもん!」

「かもしれない、じゃなくてお腹空くの前提なんだね」

「えへへー」

「何で照れてるの、ぼく褒めてないんだけど……」

「お兄ちゃん、早く決めるです」

「はいはい」


ピチューに急かされピカチュウは機械の前に持って来た踏み台に乗り慣れた手つきで操作を始める。


「……これでオッケー。お待たせ、準備出来たからシンボルをこっちにはめて転送台に乗ってくれる?」

「あぁ、わかった」


ピカチュウの言われた通りにシンボルを窪みにはめ、それぞれ転送台へ。全員が乗った途端に足元に輝く魔法陣が現れ視界が光で覆われた。



+++



数日ぶりと言えばいいのか、私は改めて戦場というステージに降り立った。あの時は何が起こったかわからず柄にもなく狼狽えていた事を思い出す。

早速基本をレクチャーしようとピカチュウが私をステージの中央まで手招きする。


「さっそく始めようか。えっと……まずは基本の空中ジャンプかな。こうやって一回ジャンプした後にもっかいジャンプするの」


と、ピカチュウが手本として実際に二段のジャンプをする。その高さは宙に浮く足場よりも高かった。上にある足場に着地したピカチュウはそれをすり抜けるように降りる。


「カービィとかはもっと跳べるんだけど、真似はしない方がいいよ。じゃあちょっとやってみようか」

「あぁ、わかった」


最初はさすがに上手くはいかなかった。しかしコツを掴んだ後はそれほど時間をかけずに空中ジャンプを会得した。予想以上に早いそれにピカチュウ達は驚いた様子だった。


「ルーちゃんすごいね! こんなに早く覚える人久しぶりだよーっ」

「そ、そうか? 私は結構時間かかったと思ってたんだが……」

「そんな事ないよ。ルネット、もしかして戦い慣れしてる?」

「ん……あぁ、元の世界では毎日の様に戦いに駆り出されているよ」

「そっか、納得」

「お兄ちゃん、空中ジャンプの次は何にするです?」

「あ、そうだね。んー……じゃあ次はシールド展開かな。これもみんな覚える基本的な技術でシールドからの行動もあるから結構重要なんだ」

「じゃあ今度はボクがお手本見せるねー!」


その後も戦場で特訓が続く。私は物覚えは良いと思ってはいたが、試合に関する基本や応用を聞き終わった時はもう日は落ちている時間帯だった。しかし戦場はまだ夕暮れでまだ暗くはなっていない。話を聞けばステージの時間や天気は外とは関係なくランダムに変わったりするそうだ。

さすがに疲れたので地面に腰を下ろす。カービィやピカチュウも地面や足場に寝転がり、ピチューは私の膝に乗ってきた。しばらく思い思いに休む中でカービィがふと何か思いついたようで口を開いた。


「ねぇねぇ、ルーちゃんの事みんなに秘密にしない?」

「え、いきなりどうしたの」

「だってこの事ボクらとマス君、あと多分クーちゃんくらいしか知らないでしょ? こっそり特訓していきなり試合にルーちゃんを出してもらってみんなをびっくりさせたら面白いかなーって」

「面白いって……別に隠さなくてもいいんじゃない? ルネットもそういうのやらないでしょ。ねぇ」

「……面白そうだな、やってみるか」

「そうそう、だから……え、やるの!?」


ピカチュウは私がそんなサプライズをするとは思わずに話を振ってきたらしい。こちらの意外な返答に驚き転がっていた体を勢いよく起こした。その反応が少し面白く見えて含み笑いしながらピカチュウに訊き返す。


「なんだピカチュウ、ダメか?」

「や、ダメってわけじゃないよ。でもちょっと意外だなって……」

「そうか? カービィが言ってたように私が試合に出る事を知ってる者は少ないはずだ。マスターに口止めをしておけば簡単だろう」

「ルネットが乗り気なら別にいいけど……じゃあ早くマスターの所行こうよ。誰かに話す前に口止めしなきゃ」

「そうだな、休憩も充分取ったしそろそろ出るか……ピチュー?」


ふと視線を自分の膝に向ける。そこにはピチューが座っているのだが、彼女は静かに寝息を立てているようだった。


「あ、ピチュー寝ちゃった?」

「あぁ。ピチューにも手伝わせてしまったからな、疲れたんだろう」


言いながらふわふわしたピチューの頭を撫でる。それに反応したのか何やら寝言のような声を出すがはっきりとした言葉にはならず、むにゃむにゃと引き続き夢の世界へ意識を飛ばしている。


「じゃあぴぃちゃんをお部屋に連れてってからだね」

「……そうだな」


思わず小声になるカービィにつられて私も小声で返事をした。

ここももうすぐ日が落ちる。ピチューを起こさないように私達はゆっくりと戦場を後にした。





*──*──*──*──*──*

次回はとうとう試合に出るかと思います。さて、相手は誰にしようか……




コメント(0)

[*前へ]  [#次へ]



戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
第4回BLove小説漫画コンテスト開催中
リゼ