FE覚醒小話
まるで誰かから呪いをかけられたかのような気分だった。
勿論これは比喩であって軍の仲間にいる呪術師達の仕業ではない。だからといって第三者からの呪術というわけでもない事を彼女、イーリス聖王軍の軍師であるノエルは理解していた。自分の体調は自分が一番よく知っている。
「……私とした事が……」
目覚めた後寝ていた体を一旦起こし辺りを見渡す。軍の誰かが運んでくれたのか無意識でも自力で来たのか、戦術書を読んだり軽い軍議を開いたり自分がいつも利用する天幕の中だった。
時刻は昼を回ったくらいだろうか。随分と寝てしまった事もあるのだが夕べから今までの記憶がすっぽり抜けている。ぐらぐらとした頭痛と共に思い出せるのは記憶が飛ぶ直前にしていた事だ。
確か、
「よぉノエル、体調はどうだ!」
「…………貴方のおかげで最悪ですよ、バジーリオ様」
タイミング良く天幕の中へ入って来た男が原因だった。このフェリア西の王は昨日しでかした事などさして気にした様子もなさそうで、ノエルは頭痛が増した気がした。
「軍議の一息にお酒なんて貴方が提案したから……あの後はどうなったんです?」
「ははっ、良い物が手に入ったんでちっとは息抜き出来るかと思ったんだよ。お前さんが潰れた後はそのままお開きだ。策はクロムが出したやつを採用したがどうだ?」
「えぇと……はい、大丈夫だと、思います……すみません、まだ気分が優れなくて」
「いや、気にするな。勧め過ぎた俺も悪かった。後で二日酔いに効く薬を持って来てやるからもう少し寝てな」
「ありがとうございます……」
ノエルはぱたりと布団に倒れ込む。もぞもぞと横になる彼女を見た後にじゃあな、とバジーリオは天幕から出て行った。
+++
次にノエルが目を覚ました時、枕元には見慣れた人物が座っていた。
「あ……ロンクーさん……」
「大丈夫か、体調が悪いと聞いた」
「ただの二日酔いですよ。寝たら少しは良くなりましたが」
「そうか……バジーリオから薬を預かってきた。飲むか?」
「えぇ、ありがとうございます」
体を起こし、彼から手渡された薬を飲む。まだ頭は痛いが先程より弱くなっているしこの薬で治るだろう。しかし、まさか二日酔いごときにほぼ一日を潰すなど予想外で思わずため息が漏れた。
「すみません、軍師がこんな事ではいけませんよね」
「気にするな。そもそもお前は元から忙しなく動いているんだ、少しは休んでも罰は当たらんだろう。ただ……」
「ただ?」
「他の奴らもそうだったが、特にクロムやマークが心配していたぞ。回復したら顔を見せてやった方がいいんじゃないか」
「あぁ……ふふ、そうですね、わかりました」
名前が挙がった二人の心配する様子がありありと浮かび、心配をかけてしまった事を気にすると同時に二日酔いにすら心配するくらい大切に思われているんだという自覚から自然と笑みが零れた。
「……よし、じゃあ私は少し風に当たって来ますね」
「おい、大丈夫なのか? もう少し寝ていれば……」
「でも薬も飲みましたし、寝っぱなしも体に悪いでしょうから……あら、」
「! ノエル……!」
布団から立ち上がるもくらりとした立ち眩みから足元がふらつく。幸い隣にいたロンクーが支えたため倒れるには至らなかったが、彼によって再び布団に横にさせられてしまった。
「全く、無理はするなと前からも言っているだろう。今日はもう休め」
「うぅ……すみません。たかが二日酔いに情けないですね……」
「……本当に大丈夫か? 実は他にも病を併発したなんて事は……」
心配そうに眉ひそめたロンクーはそう言ってノエルに顔を近付け額に手を当てる。
「ひゃっ……!?」
「熱は無いな…………顔が赤いぞ」
「だ、誰のせいだと思ってるんですか! 慣れたからってそんな、いきなり……!」
女性が苦手で近付く事すら許さない彼が自然に自分へ触れてくる。これは相当な信頼と愛情の証でありノエル自身もそれは理解しているものの、こう突然来られると照れて反応に困るというもの。ただ真っ赤になって思わず手を退けてしまったが、そう言う割には悪い気は全くしていない事も事実だった。
「すまない、慣れたら慣れたでお前に触れたくて仕方ないらしい」
「な、なんですかそれ……今以上に私を口説き落とすつもりですか」
「構わんだろう」
「う……あー、もう敵いませんよこんなの」
ノエル再びため息をつき相手に背を向ける。しかし真っ赤になった顔を隠すにもそんな事はとっくにバレてしまっているのでこの行動に意味はほとんどなかったし、相手も気にする様子は全くなかった。むしろ余計に距離を詰めて来る始末だった。ノエルの葡萄色の髪の毛をさらさらと鋤く。
「っ、ロンクーさん……いつもこの時間に剣の訓練をしているでしょう。今日はやらないんですか」
「やるが、お前の事で集中出来んかもしれないな」
「重病じゃないんですから貴方の言う通りに寝ていれば治ります……って、顔近いです!」
「駄目か?」
「……駄目とは、言ってません」
そう言うと背中の向こうから微かに笑ったような声が聞こえた。
「ならもう少しこうしていていいだろう」
「……わかりましたよ、もう好きにしてください。ただ寝る邪魔はしないでくださいね」
「あぁ」
仕方ない、というように苦笑したノエルはまた仰向けになる。ふと思い立った彼女は手を伸ばし相手の頬に触れた。
「ノエル……?」
「何ですか、文句ありますか」
「……何だ、結局はお前も、」
「べ、別にいいじゃないですか」
拒まない事を知るとそのまま彼の首に腕を回し抱き寄せた。やや呆れたような相手の言葉が図星だったものの、自分の欲求には勝てない事もわかっていたためそれは流す。
ふと、突然誰かが入ろうとしたのか天幕が開いた。
「ノエルさーん、大丈夫? 朝から何も食べてないみたいからパンとスープ持って来…………」
「あ、リズさん……」
「え、っと……ごめんなさい、お邪魔しちゃったね。ここに置いとくからちゃんと食べてね、じゃあね!」
「え、別に邪魔とかじゃ、だからリズさんちょっと待っ……」
ノエルの静止も聞かずにリズは近くの机にお盆を置きそそくさと出て行ってしまった。ご丁寧に「お見舞いはいいってみんなにも言っとくからねー!」と、邪魔者を寄せ付けないようにとの配慮まで残して。
「あぁぁ……せっかくのお見舞いを無下にしてしまいました……」
「別に怪しまれるような事はしていないだろう、大袈裟だな」
「私達はもう夫婦ですからそりゃそうですけど……って、あ、その顔ちょっと面白いと思ってますよね!? もう! 私は知りません拗ねました!」
笑いをこらえているのを察したのだろう、今度こそ彼女はロンクーから顔を背け布団も頭から被ってしまった。それはもうここからはしばらく起きないぞと言外に言っているようだった。しかし拗ねられた彼というとノエルが自分で拗ねたと言うのもどうだろうかと、先程指摘されたように内心余計に面白がっていた。しかしそんな事を今言うつもりは全く無い。さすがに出ようと立ち上がり、代わりに別の言葉を口にする。
「……せっかくリズが持って来たんだ、少しは食べておけ」
と、そう言えばロンクーが天幕から出る直前に丸まった布団の中から「わかってます」と小さく返された。
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素直にありがちな風邪ネタでも良かったなこれ。
女性嫌いだけど嫁になった人には一応慣れるっていう話に乗っかっていちゃいちゃさせ過ぎたんじゃないかと。しかし慣れたら慣れたで積極的になるロンクーさんも……良いな←
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