※死ネタ























 
「ギル、俺の家に遊びに来ないか?」

そうギルベルトがアーサーに声を掛けられたのが3日前の話。

エイプリルフールのリベンジでもしてくれるのか?と、笑って2つ返事で頷いてやれば、彼はそれもあるが、と視線を泳がせた。

「ば、薔薇が、いつになく綺麗に咲いたから、お前にも見せてやりたくて…」

勘違いするなよ、俺の為なんだからな、と顔を真っ赤にして言う彼に、じゃあしあさっての土曜にな、と何時ものように勝手に日時を決めたギルベルトは、ケセセセと笑ってその場を後にしたのだった。





そして、今日が約束の日。

二人はアーサーが丹精こめて育て上げた薔薇園の中で、少々早いティータイムを楽しんでいた。

真っ白なテーブルクロスの掛かった真っ白なテーブル、その上に置かれたティーカップも白い。

真っ白な花瓶に挿された一輪の赤い薔薇は毒々しいまでに存在感を醸し出していた。

初めに思い切り舌を火傷したギルベルトは、ちびちびと甘い紅茶を口に含みながら、そういやさ、と唐突に切り出した。

「3日前、お前に今日のお誘い受けた後によ、フランシスから薔薇貰ったんだよ。」

「……は?あいつが、お前に?」

「そうなんだよな、流石の俺様も一瞬びびったぜ。でもそれがよ、綺麗な緋色だったんだけど、3本は蕾で、咲いてたのは1つだけだったんだよなー…」

どうせなら全部満開のを寄越せばいいのによ、と文句をつけるその顔は強ち万更でもないようで、アーサーは眉をしかめた。

「なぁ、ギル。お前、あいつと…」

「なんだ?」

「…いや、何でもない。」

強いて言うなら、花言葉がな、と言う彼の視線は険しくて、しかしギルベルトがそれに気付くことはなかった。

「花言葉ぁ?んなもん俺様が知ってるわけねえだろ」

ケセセセ、と笑えば、呆れたように溜め息を吐かれた。

(蕾が3つと花が1つ、それが表すのは「あのことは永遠に秘密」。緋色の薔薇は、「灼熱の恋」。それから、「情事」。)

自分でも深く考えすぎであるとは思う、前者の意味で一方的に送り付けただけかもしれないし、単に奴の気紛れだったのかもしれない、

けれど。

なぜ、わざわざギルベルトに渡したのか。

そもそも、まだ幼かったアーサーに花の美しさだの花言葉のロマンだのを教えたのはフランシスであり、それに込められる意味を知らないはずが無いのだ。

もし、この考えが外れていなければ。

アーサーは自分の中にドロリとした感情が湧き上がるのを感じた。

「どうかしたか?さっきから変な顔して」

訝しげに首を傾げたギルベルトを横目に、アーサーはガタン、と椅子を蹴倒すように立ち上がった。

そんな彼にビクリと反応したギルベルトに「ちょっと待ってろ」とだけ残してアーサーは立ち上がり、庭園の奥へと入っていく。

「…何なんだ、アイツ?」

訳のわからぬままに一人取り残された彼は、アーサーの作ったものではない、ギルベルト自身が持ってきたクッキーをつまんだ。

改めて周りを見渡せば、どれ程の手間暇かけて育てたのであろうか、何種類もの薔薇。

「…薔薇、か…」

苦笑しながら溢した言葉、と同時にカサリと葉をかき分ける音。

戻ってきたアーサーの手は後ろに何かを隠し持っている様であり、厭に上機嫌な様であった。

「ったく、さっきから変だぞ、お前」

呆れたように言えば理不尽にもギロリと睨まれる。

「…ギル、」

「………ぁ?」

「やるよ、お前に。」

アーサーから手渡されたのは一輪の白い薔薇。

つい先程手折られたばかりのその花弁は、瑞々しさを保ったまま。

受け取ると同時に指に走る小さな痛み、見れば刺が刺さったのかプクリと小さく滲み出るアカ。

ぼんやりと瞳にギルベルトの姿を映す彼は、この状況下ではあまりに似つかわしくない、酷く歪んだ笑みを浮かべる。

「ああ、やっぱり似合うな…」

「…アーサー?」

「なあ、ギル。お前によく似合うと思わねえか…?」

うっとりと言葉を紡ぐ彼は、何が、とも、誰が、とも言わなかった。

「ギル、ギルベルト。フランシスの野郎に渡して堪るか。」

ぞくりと肌が、…全身が粟立つのを感じて、ギルベルトは無意識に一歩後退る。

そして、それは正しかったのだ。

直後にギルベルトの左肩に走った熱、突き付けられた黒く光る鉄で作られたそれは硝煙を上げ、何が起こったのかを如実に示していた。

「何避けてんだ、阿呆」

手に持った薔薇は地に落ちて、ポタリとその白い姿にアカを散らした。

「…っお前、さっきからどうした、よ?」

俺、何かしたっけ、と震える喉から声を絞りだす。

「どうした、て言われてもな…。」

段々とその姿をアカに染めてゆく薔薇をちらりと見て、満足そうに目を細める。

「俺だけのモノになってくれないから。ずっと、ずっとこうしたかったんだよ。…なぁギル。お前こそ俺に相応しい。だから俺こそお前に相応しい。」

その感情はもはや恋というには重すぎて、愛というには歪みすぎた。

むしろ、その感情は――。

フラリとギルベルトは地面に崩れ落ちた。

致命傷にこそならなかったものの、心臓に近い箇所を撃たれたのだ、出血量が多すぎたのだ。

「はっ、馬っ鹿みてぇ。」

次こそは、とばかりに自らの心臓に向けられた銃を見て、まるで獲物を捉えた肉食獣の如く悦びに満ちた彼を見て、ギルベルトは笑った。

「俺も、お前が―――」


乾いた音が1つ、空に響いた。





白色の薔薇は
「私はあなたにふさわしい」

赤色の薔薇は
「あなたを愛しています」

紅色の薔薇は
「死ぬ程恋い焦がれています」

赤黒い薔薇は
「あなたを憎んでいます」





血色に染まったその薔薇は、一体どの色をしていたのだろう?


君に花を、君に死を






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