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※コンビニ店員×コンビニ店員
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「お、お疲れ様です!」

「……」



無視だ。通算15回目の無視だ。

沢田綱吉(19)、ごく平凡な大学に入り、ごく平凡な一人暮らしを始め、ごく平凡なこのコンビニで働きはじめてから3ヶ月。このごく平凡ではなさそうな雲雀恭弥さん(年齢不詳)とは結構な割合でシフトが重なるのだが、挨拶を返してもらえたことは一度たりとも無いわけで。



(う…うぅ、さすがに悲しい…)


雲雀さんはなにぶんとてもかっこいい。さらさらと美しい絹のような黒髪、吸い込まれてしまいそうな深い闇を彷彿とさせる切れ長な瞳、人を魅了するが決して寄せ付けはしないオーラ。美形とはまさにこのこと!
資産家の一人息子らしく実家は大金持ち、現役某国立生(ということは俺と大分年が近い)、文武両道、将来有望というなんとも俺とはかけ離れた素晴らしいお方でして。…なんでコンビニなんかでバイトしてんだ?あ、ちなみに後半は全て店長情報である。(会話なんてしたことないですからね!)



「沢田くん、休憩入っていいよー」

「あ、はーい!」


店長から声がかかり、俺は店の裏に入る。


雲雀さんは俺には無いものを沢山持っている。そして俺はそんな雲雀さんにひそかに憧れを抱いている。しかもそれは恋的な意味で。
最初は男なのに!とか、ホモだったのか俺は!とか悩んだりしたけれど、彼を見るたびに高鳴る鼓動はどうこうしようとしてもできないものなのだ。というわけで俺としてはもちろん彼と御近づきになりたいわけで。
でもなぁ、これは、もう、


「俺のことよっぽど嫌いなんだろうなぁ…」

「つーな!どーしたー」

「わっ山本!」



山本は俺と同い年で同じ大学の友人。明るく人懐っこく、人見知りの俺でも気兼ねなく話せる唯一の友人だ。俺が雲雀さんをその、好…好……好きだってことも、知っている。



「いや、俺雲雀さんに超嫌われてるなぁと…」

「えっ?」

「最初は人見知りなのかなとも思ったけど、3ヶ月もたったのに全然話してくれないんだ…目も合わせてくれないし…」

「嘘だろ、雲雀が?」



山本は心底驚いたという顔をする。やっぱりあの態度は俺に対してだけか。人見知り説、今ここにて壊滅。
それにしても山本、呼び捨てにするくらい仲良いんだなあ…なんで俺だけ!うぅ、さらに落ち込む…


「わかってるよわかってるよ、雲雀さんほど完璧な人からしたら俺なんか鈍くてダメダメで失敗ばっかで視界に入るだけでムカつくだろうし!でもさすがに好きな人に無視されっぱなしは泣きたくなるなあ…!」

「待て待てツナ、それほんとに無視されてんのか?」

「…うん……あぁー、」

ずびっ。おっといけない、涙出てきた。


「ほら泣くなってツナ、本人に聞かなきゃわかんないだろ?な?」

「そんなの絶対聞けないってばぁあ!」



とうとう俺は本格的に泣きだしてしまった。山本の困り顔が涙の膜で歪んで見える。山本は関係ないのに困らせちゃって、俺はこんなときもダメツナだよ…でも意思と反して涙は止まってくれない。

すると山本は、あとで殺されるなーとぽつりと呟くと、がっと俺の肩を掴み溢れ出る涙と鼻水を袖で拭った。(ごめんなさい。)



「あー…ツナ?聞いても大声出すなよ?たぶんそれはな、」

「っ山本武!」


「ひっ雲雀さん!?」



何事かと山本の話に耳を傾け出した瞬間、ドアが勢いよく開き雲雀さんが珍しく焦った様子で飛び出してきた。まさにご本人登場。
うおっやべ、じゃあなーつなー!と、山本はなぜかそれはそれは楽しそうにスルリと雲雀さんの横を抜け、仕事場に戻っていった。


「山本武…咬み殺す…!」

「ああああのひばりさん…?」

「、…なに」

「い、いえ!なんでも!」



雲雀さんは荒々しく自身のロッカーを開け、黒い革財布を取り出した。どうやら忘れ物を取りに戻ってきたようだ。

……今の、聞かれた?いや絶対聞かれたよな…ど、どうしよう。いつから聞いてたんだろう…
憧れの彼がこんなに近くにいるという事実と初めて喋ったという興奮と今の話を聞かれたかもという不安で正直俺はパニック。俺はそこを離れることもできずだからといって話しかける事もできず、無様にも涙の跡を残したまま突っ立っているしかなかった。

すると雲雀さんはくるりと振りかえると俺の方へずかずかと歩み寄ってくる。



「へ、あ、あのっ……わっ!?」


ぐいっと。雲雀さんはさっき山本がしたように、袖で俺の頬を拭った。少し大きめのカーディガンから雲雀さんと洗剤の匂いがふわりと香る。
雲雀さんはそのままごしごしと俺の頬を擦りながらぽつりと呟いた。


「嫌いじゃ、ない」

「え…?」

「嫌い、じゃない。好き」


――瞬間。俺はさっき感じたばかりの匂いと少し低めの体温を全身で受け止めていた。つまりはなんだ、その、抱き締められていた。
しかしそれは本当に一瞬。次の瞬間にはその温もりはとっくに離れていて、雲雀さんは物凄い速さで出口に向かって飛び出していた。



「う、そ……」


今、何て言った?聞き間違い?何が起こった?


「うそだあ……」


へなり、と。あまりの急展開に腰を抜かしてしまった俺はその場に座り込むしかできなかった。
初めて間近で感じた彼の声と彼の匂いと彼の温もりに俺は成す術無く赤面するのだった。



















   
     

(期待して、いいのかな…?)






…………………………………



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