妄想のカタマリ
2015.01.16 Fri 19:47
【赤司姉夢4】
けどその安息の時間が奪われるときが来た。
両親の離婚だ。
オレや僕から見ても、夫婦間は冷めきっていて世間体だけを気にしていたのに離婚に踏み切るようになったのだ。
姉やオレもそこまで驚いてはいなかった。
そもそも両親に『夫婦の時間』というものが存在していたのかさえ不思議に思えたほどだ。
しかし僕は両親の離婚すること以前に、姉と離れ離れにならないかが問題だった。
この安心出来る時間がなくなることは我慢できない。
この感情は、オレ自身も抱いていた。
オレ自身気付いていないようだが、僕はそれに気付きオレに話しかける。
『嗚呼、遂に両親は別れるのか。』
僕はオレに話しかける。
僕の問いかけにオレはとてもビックリしている。
無理もない。
この問いかけはオレにとっては悪魔の問いかけみたいなものだからな。
2015.01.16 Fri 19:46
【赤司姉夢3・赤司視点】
僕はなんの前触れもなく生まれた。
いや、前触れはいくつかあった。
親が理想とする『赤司征十郎』を作りあげる為に、オレ自身が作りあげた人格。
僕に逆らう者は力によってねじ伏せる。
誰にも負けない存在。
誰にも劣らない存在。
誰にも屈しない存在。
それが『赤司家』に産まれた人間に必要なモノだから。
それを備えれない人間は『赤司家』には必要ない。
そう幼い頃からオレは教えられてきた。
だが、限界だったんだろうな。
オレ自身がそのプレッシャーに堪えきれなくなり僕は生まれた。
オレ自身が無意識に生んだ僕は、ふよふよとオレの目から世界を見ていた。
同じ体に、2つの人格が宿る。
確か世間では『二重人格障害者』と言うらしい。
自分で調べたわけではない。
オレ自身が博識で、脳には色々な引き出しがありそれを少し漁って見つけだした。
オレ自身はまだ僕には気付いてなく、引き出しを開ける度に頭痛はしていたみたいだが疲れからくるものだと思っている。
そして僕は、オレと同じくらい知識を身に付けた。
だがそんなある日、僕にオレは気付いたんだ。
きっかけはなんだったかは覚えてない。
だが気付かれ事によって困る事はなかった。
だってオレが僕を『消そう』なんて考えるはずないからだ。
案の定、オレが僕を消そうなんてしなかった。
オレがする事を邪魔しない限り、僕の存在は許されていたから。
僕もオレに対して危害を加えるつもりは毛頭ない。
そのはず、だったんだが予想外の事が一つ起きた。
それはオレの姉の存在。
彼女は僕の存在に気付いたのだ。
これには流石の僕も驚いた。
『赤司家』の中でオレとの存在を比較される為にいる彼女が、僕の存在に気付いたのだ。
勿論、オレ自身も驚いている。
だが彼女はあまり興味がなかったのか。…はたまた触ってはいけなかった事なのかと思ったのか、彼女は深く追求はしなかった。
僕自身、当時は人格があやふやであまり表に出ることはなかっただけあって、やはりその出来事は強く印象に残っている。
僕はそれから彼女に興味を示した。
オレとの比較対象として生きている彼女はとても興味深かった。
オレへの隙を見ては、僕は出て彼女に甘えた。
最初の頃はオレが近付く度に顔を歪ませていたのが段々それが無くなっていき、頭を撫でるようにまでなっていった。
それを重ねていく内に、僕もそうだがオレも彼女に『母親の愛情』を求めるようになった。
母みたいな愛情を姉である彼女に求め、そして安心出来る時間を作るため、夜に彼女の部屋に訪れては一緒に寝て欲しい。と彼女に頼んだ。
最初、頼まれた彼女は何とも言えない顔をしたが最終的には同じベッドで寝てくれるようになった。
それを知ったオレはビックリしたが、オレが断ろうとする度に僕が出て来て阻止をした。
それを何度かしていく内に、オレが折れて彼女と一緒に寝るようになったのだ。
狭いベッドで二人で寝るのは些かキツイものがあったが、それでも僕は彼女に引っ付き体温を感じていた。
2015.01.16 Fri 19:42
【赤司姉夢2・赤司視点】
そんな事が何度もあり、姉はオレに『これから一緒に寝たらいい』と提案してきた。
オレは首を横に振ろうとしたがその瞬間、もう一つの人格が首を縦に振ったのだ。
勿論訂正したかったが、しようとする度にもう一つの人格が邪魔をして来るので出来なかった。
最終的にオレが折れて姉と一緒に寝るようにはなったが、多分この事がきっかけだったのだろう。
オレが姉に母の愛情を求めるようになったのは。
普段の生活で、唯一気が休まる場所が姉の側になりつつあったのに、それが奪われる時が来た。
それは両親の離婚だ。
元々、子供の目から見ても夫婦間は冷めていたが離婚するとは思わなかった。
お互いが『世間体』を気にしていた筈だが、それも耐えきれなくなったのだろう。
それを知ったのが、オレが姉の部屋で寝ていたとき、姉が独り言を言いながら「あと、何回こうしていられるかな」と、オレの頭を優しく撫でていたからだ。
例え半分寝に入っていたとしても、この意味が分からないほどオレは馬鹿じゃない。
『嗚呼、遂に両親は別れるのか』
もう1つの人格がオレに話しかけてきた。
『彼女は母親に付いていくんだな』
『お前はそれでいいのか?』
『お前の休まる場所はなくなるんだぞ』
まるで悪魔が囁きかけてくるようだった。
『知っているか?父親は彼女が母親に引き取られるのを、反対しているらしい』
『まぁ、簡単な話。“僕ら”の手綱の為に側に置いておきたいらしいよ』
『なにせ僕らの“お気に入り”だからね。』
『でも、彼女はズルいよね?だってそうだろ。僕らから母親の愛情を奪っておきながら、父親の愛情すら奪っているんだよ。』
『まぁ、そもそも。父親も彼女の事が大切だから、僕らが近付くことも快く思ってないからね。ホント、勘違いも甚だしよね。自分は二人から大切にされる癖にさ。』
これは、オレの感情なのだろうか?
無意識の内に姉さんを恨んでいたのだろうか。
語りかけてくる言葉に、オレは吐き気を感じた。
違う。
オレは姉さんを憎悪の対象として見ていない。
オレは姉さんを『可哀想』と哀れんでいたバスだ。
なのに出てくる言葉は、姉さんに対して嫉妬しているものばかりだ。
違う。
オレは姉さんにそんな感情を抱いてない。
いや、他の人間に対しても『興味』なんか示さない。
だって、そうだろう。
誰にも興味を持たれてない人間が、誰かに興味を示すなんておかしな話だろ。
2015.01.16 Fri 19:41
【赤司姉夢・赤司視点】
オレには姉がいる。
一つ上の姉がいる。
正直な話、彼女を姉だと思ったことは一度もない。
『赤司家』の人間ではあるが、彼女はオレとの差を周りから対象評価される為に産まれて来てしまった可哀想な人だ。
建前上、彼女の事を『姉さん』と呼んではいるが彼女自身もオレに呼ばれるのは好きではないらしい。
だって、そうだろう。
呼ぶ度に眉を潜め、オレに憎悪を向けてくるのだから。
でも仕方ない。
それが彼女に抱かせてしまったのはオレ自身なのだから。
だがオレはそれに気付かない振りをして彼女に近付き甘える。
彼女はオレが甘えてくるとは思ってもいなかったのだろう。
酷くビックリしては、どうしていいのか分からないでいた。
最終的には恐る恐るであるが、オレの頭を撫でて事行きを終える。
その行為は、まるで母のような愛情を感じた。
いや母以上なのかもしれない。
実際、オレは母の愛情を感じた事がなかった。
英才教育を受けていたオレに母は近付こうとはしなかったから。
例え側に居たとしても、建前があったからだ。
建前がなかったらきっとオレには近付いてこない。
そう普段の生活からも、オレにはあまり接することなく姉ばかり構っていた。
別にオレはその事に対して姉を恨んだ事はない。
だって仕方ないじゃないか。
自分より出来る子供なんて、気持ち悪いだけだ。
そうした環境がオレへの影響がどのような変化をもたらしたかは分からないが、オレ自身の中にもう1人の人格を作り上げた。
自分でも驚いている。
身体は一つなのに、意思が2つある事に。
それに一番最初に気付いたのは、姉だった。
あまり出て来ることのなかった人格に、ファーストコンタクトをとったのだ。
あまりの出来事にオレは驚きを隠せなかったが、姉はそれでも自分の弟だ。と言ってくれた。
そしてその秘密は両親には知られなかった。
オレ自身、そうボロを出す人間ではないしまだあの頃は人格自体もあやふやだったから表に出る事はなかった。
だが、オレが知らない内に出てきては姉に引っ付いていたらしいが。
ある朝、気付いたら姉の部屋で…しかも同じ布団で寝ていたのだ。
流石のオレもそれには動揺を隠せずにいたら、姉はオレが部屋に来てそのまま寝てしまった。と説明してくれた。
2015.01.16 Fri 19:36
憧れが恋になることだってある。
私は恋をした。
初めて、身内以外を好きになった。
いつも側にいてくれる元親や元就やお兄ちゃん以外に初めて『好き』になった人がいる。
それは初恋で、今でもその人に対して想いが募っている。
初めて逢ったのは私が中学時代に入部した部活動だ。
最初顔合わせしたときはなんとも思わなかった。
寧ろそんな大きな図体をしているのに関わらず、何故運動部でなくこの文化部になる園芸部にいるのだろうと思ったくらいだ。
先に入部した先輩に対してそのようなことを思ってしまったのは今思うと大変失礼な話である。
少ししたあとに聞いた話ではあるが、運動部より文化部の方が勉学に身が入るらしい。
確かに運動で激しく体力を消耗したあとの勉強に対する熱の入れようは違う気がする。
体育の授業のあとの他の教科はあまり身に入らない感じがする。
先輩と難しい話はしたことはないが、先輩の後輩で親友になる竹中くんはよく先輩と小難しい話をしているのを耳にしたことがある。
お互い中学生なのに、日本経済や政治について真剣に話し合いときには白熱して討論までし合う始末。
それに何故か巻き込まれるのが私と、もう1人ーねね先輩だ。
同じ部活の先輩で、豊臣先輩の幼馴染み。
そして、豊臣先輩の彼女さんでもある。
ねね先輩も頭が良くて、生徒会の役員をしていた。
勿論豊臣先輩も竹中くんも当時から生徒会のだった。
その中で私1人だけ役員ではなく、ただ部活が一緒なだけだった。
その頃から少しだけ、彼らの側に居ていいのかと疑問を抱くようになった。
部活が一緒なだけで彼らより勉強が出来るわけでもなく、ただの凡人。
そんな凡人が天才の彼らの側に居ていいわけがなく、私はただ彼らから距離をとることにした。
最初は豊臣先輩や竹中くんは事情を察してか、私にあまり近付いてこようとはしなかった。
けどねね先輩は、私の近付くに居てくれた。
用がないのにも関わらず私の教室まで来てくれたり、一緒に下校までしてくれた。
最初はすっごく自分が惨めで嫌だった。
ねね先輩に『なんで私なんかにかまうんですか?』って聞いたときもある。
けど、ねね先輩は悪態を付く私になんのこともなく笑顔で『だって私は稗螺ちゃんが大好きなんだもん』と決まって言ってくれた。
その言葉を聞く度に何度も泣きそうになった。
けどそのときはまだ私自身、豊臣先輩のことを好きという自覚がなかった為、ねね先輩に憧れと信頼を抱いていた。
2013.12.04 Wed 20:21
【籠球・赤司姉夢】
私には弟がいる。
その弟は、赤司征十郎という名前だ。
弟とは年はそう離れていない。
だってそのはず。
私と弟は年子だから。
だからなのか、それとも彼が長男なのか分からないが私と弟は教育方法が違った。
私は一般家庭より少し上を行く感じの教育。
弟は一般家庭の教育をはるかに上回った教育―帝王学―を幼い頃から受けていた。
子供ながら弟と違う教育を受けていた私は、弟に対して多少なりとも劣等感を感じていた。
だってそうだろう。
彼は父に必要とされていたからだ。
私もお父さんに必要とされたい一心で頑張ってはみたものの、やはり父の関心は弟に向けられていた。
母は口癖のように『征十郎と同じことしなくていいのよ。あなたはあなたのままでいれば私は嬉しいわ』と、抱き締めながら言っていた。
今思えば、母は父の教育方針に納得していなかったのだろう。
子供に優劣を付けるのは、子供の自尊心を傷付けかねない。
でも、『赤司家』がそれを許さないのなら致し方ないのだろう。
父の愛情の代わりに、母の愛情を私は受けていた。
弟は、両親からの愛情…というべきなのだろうか。
『愛情』と言う名の『期待』を受けていた。
弟の背には常にプレッシャーがあり、それに押し潰されかけてはいた。
私は少なくとも、それを見てきっと笑っていたのかもしれない。
『私から父の愛情を奪ったのだから、それぐらいは当然だ。』
なんて酷く醜い嫉妬の塊なんだろう。
今思うと、身勝手だったと思う。
弟の苦悩さえ分からない姉だ。
こんな愚姉がいることすら、弟の汚点になりかねない。
少し成長して、客観的に見れるようになった今だからこそ思うようになった。
それと同時に、弟に対しての罪悪感は計り知れなかった。
何故今さらそんな事を思うようになった経緯は、弟に軟禁されてるからだ。
うん。
実の弟に軟禁されてるんだ、これが。
母の愛情が足りなかった所為なのか、はたまた余興の一種なのか弟に監禁された姉はこちらです。
2012.08.07 Tue 00:43
・庭球 トリップ夢
私の世界には『絶望』しかなかった。
私は生涯愛し続ける事を誓った相手がいた。
勿論、今だって彼以外に他の人を愛するなんてない。
幸せだった。
彼が居てくれれば、それで良かった。
そう、それだけで良かったのに。
彼は死んでしまった。
二人の特別な記念日で、私の大切な日でもあった。
私は彼の子を身籠り、それを彼に報告するつもりだった。
ううん。
彼にはもう、告げていた。
『赤ちゃんが、出来ました。』
彼の携帯にメールを送った際、本当は怖かった。
拒絶されたらどうしよう。
『まだ、早くない?』とか、『ほんとに俺の子』と言われたらどうしようかと思った。
けどメールを送ってから数分後、彼から電話が来た。
仕事中にも関わらず電話をしてきてくれた彼に、私は泣きながら出たのを覚えてる。
泣きながら出た私に彼はビックリしながらも、メールの内容を真偽を確かめに。
けど産婦人科に言ったから本当だし、母子手帳だってもらってきた。
そしたら彼から出た言葉に私はさらに泣きそうになった。
『おめでとう。――そしてありがとう。』
その言葉に私は、さらに泣き崩れた。
----
幸村に告げる過去の一部
2012.06.26 Tue 11:00
「私、あの子のこと嫌いだよ。」
にっこり言う私に元親は少しだけ眉を寄せる。
「だって、私の世界を壊そうとするんだもの。」
ニコニコしながら言う元親は理解が出来ないような顔をしながら。
「だったら、なんで仲良くするんだ?」
もっともな事を言うので、私は元親に近づきながら。
「だから、だよ。仲良くなって、私の世界を知ってもらって、あなたはいらないんだよ。って教えてあげるの。」
私の言葉を静かに聞く元親に言う。
「私の世界の住人に手を出して、あまつさえその人を奪おうなんて……ヒドイと思わない?」
「人はモノじゃねーぞ。」
「知ってるよ。けど、その人と私の関係知ってるチカなら……私の気持ち、分かってくれるでしょ?」
あと少しで触れられそうな距離まで行き、元親に言う。
元親はため息をつきながら、私を抱きしめる。
「知ってるよ。」
「なら、分かってくれるでしょ?私の家族はおにいちゃんしかいないんだよ。それなのに、おにいちゃんを好きになるなんて……ヒドイでしょ?」
縋るように言う私の言葉を肯定するように、元親はさらに強く抱きしめ。
「ねぇ、チカ。私、いけない子?」
「……んなこと、ねぇーよ。」
「良かった。元親に否定されたら、私生きていけない。」
そう言いながら、自分の愚かさを呪うのだ。
2012.03.14 Wed 22:13
きらい、嫌い、キライ
どんなに言葉を重ねても、どんなに言葉で縛っても、いつもあなたはすり抜けていく。
「好きです。」
些細な言葉。
日常会話のなかに滑り込ませて、あなたに伝える。
「わたし、このウサギ好きなんですよ。」
満面な笑みにのせて、あなたに伝える言葉。
ピンクの毛並みをしたぬいぐるみのウサギ。
可愛いのが好きな子なら賛同してくれそうな、わたしの言葉。
少しだけ、わたしの言葉に普段と変わらずあなたは。
「そうですね。そのウサギさん、愛らしいですね。」
そう言って、優しく頭を撫でてくれる。
違うのに。
ほんとは、あなたが『好き』なのに……。
気付いてください、わたしの気持ち。
察してください、わたしの想い。
臆病なわたしがあなたに伝える、素直な想い。
風のようなあなたを、どうしたらわたしは捕まえられますか?
2012.03.14 Wed 20:46
人をこんなに愛しく思うなんて、僕が君を大切に想っているからだろうか。
『ティカ!!』
満面な笑みで笑いかけてくれる、僕の大切な子。
僕は君以外いらなくて、僕の世界。
『ティカ。お願いがあります。どうか、あの子を護ってください。』
泣きなら僕に言う、母親。
この世界のすべてを背負った、悲しい人。
『大丈夫だよ。シティルは、僕が護るよ。』
己の姿が半透明になり、なくなりかけている母に僕は言う。
大丈夫。
シティルは、何があっても僕が護るから。
その言葉を訊いて、母はさらに泣きじゃくる。
『ごめんなさい。ごめんなさい。あなた一人に重荷を背負わせてしまって、ごめんなさい。』
ポロポロと涙が次々に溢れ出している母に、僕は首をかしげる。
『どうして、泣くの?かあさまは、なにも悪いことしてないよ。どうして謝るの?』
泣きじゃくってしまった母をどうすれば泣き止むのか、僕はわからずにただ立ち尽くしてしまう。
『ごめんなさい。なんでもないの……。』
涙を拭き優しく笑いかけてくれる母に安心する僕。
そして、僕の頭を優しく撫で。
『ティカ、ずっと愛してますよ。』
最後の最後に愛しい言葉をかけて、消えてしまった。
2011.12.19 Mon 19:04
「君を渡したくない。」
その言葉はまるで、置いてかれた子供のような言葉だった。
「日向くん。」
廊下を歩いていたらふいに呼び止められた。
この声は、私があの三人以外に心を許している人物の声で、とても大切な親友の声。
「何、竹中くん。」
後ろを振り向けば、紫色をした唇が開く。
「少し話がしたいんだが、いいかい?」
私はその言葉に頷く。
だって、私はその言葉の意味を知ってるから。
「珍しいね。」
静かな生徒会室に響く、私の声。
私に凭れ掛かるようにして、体を預ける竹中くん。
私は抱きしめるようにして、竹中くんを支える。
竹中くんが私を呼び止める理由は、気分や体調がそぐわないとき。
私はその微かなサインを見失わないように、必死になってた時期があった。
どんなに体調が悪いときでも、平然を装う竹中くんに前は癇癪を起こしていたけど、それは違った。
私が、彼の微かなサインを見てなかったから。
だって、人は誰かに縋る者だから。
だから、竹中くんが私に頼ってくる=何かしら自分の不備を訴える。のが図式になってきているから。
「………そんなことはない、よ。僕は君の前ではいつもそうだろう?」
「そうじゃなくて。竹中くんが、人目につきそうな所で、寄りかかってくるのが、だよ。」
今日は活動日ではないが、竹中くんがこういった場所で私を求めてくるのが、本当に珍しい。
へんな意味ではなく、他人に弱い部分を見られるリスクを負ってまで私に縋ってきたのは、本当に珍しいのだ。
「……大丈夫だよ。ちゃんと部屋の鍵は閉めた。」
「うん。」
「けど、僕は見られてもいいと思ってる。」
「今、そうとう疲れてるんだね。」
竹中くんらしくない言葉を言うと、彼に急に抱きしめられた。
それに私は少しだけ抵抗するが、やはり男と女の力の差は歴然だ。
「僕と君がこういう仲だと周りに思わせておけば、君に言い寄る輩はいなくなるだろ。」
「はんべちゃん?」
彼の言っている意味がわからない。
私に言い寄ってくる相手は、特定の相手以外いないのだが。
特に、幼馴染のあいつしか思い浮かばない。
「………気にしなくていいよ。僕はどんなことがあっても、君から離れるつもりも、君を離すつもりもないから。」
その言葉を聞いたとき、あまりにもお互いが依存しすぎたことを思い知らされたのだ。
2011.12.14 Wed 20:15
笑う顔が好きだ。
そう、思うようになったのは何時からだったのか覚えてない。
「豊臣先輩。こんにちわ。」
廊下を歩いていると、にっこり笑いながら話しかけてる日向の姿があった。
「あぁ」
そんな我の言葉にも、にっこり笑う日向は優しいと思う。
言葉と態度に不器用な我だが、日向の前では少しだけ素直になれる気がしていた。
「先輩。今日の活動内容ですが……」
同じ部活で作業をしている、我と日向。
同じ部……園芸部の活動は、とても楽しく賑やかだ。
我が園芸部というのが、他の生徒や教師たちは意外過ぎていて、どう反応していいのか困っているのは我自身自覚している。
けど、それをなんの疑問も抱かず、その近くで同じ作業する日向は優しかった。
「先輩。聞いてますか?」
活動内容のことになんの反応も示さない我に、日向は首をかしげながら聞く。
「ああ、聞いている。」
「そうですか。先輩は、どう思いますか。まだ、花の苗の準備は早すぎますか?」
我に意見を求める日向に、我は首を振り。
「いいや。あと数日でコンクール用に花の準備をせねばならん。その下準備は早目がいいだろう。」
「良かった。もし、今日は草取りだけって言われたらどうしようかと思いました。」
クスクスと笑いながら言う日向に、我は日向の頭を撫でる。
突然のことでびっくりして我を見る日向に、我は。
「………ごみが、ついていた。」
「そうですか。ありがとうございます。」
少し照れたように笑う日向が、こんなにも愛くるしく思うようになったのは、いつからだろう。
2011.11.17 Thu 01:39
「俺、瑞希先輩のこと好きだよ。」
普段と変わらない帰り道。
普段と変わらない風景。
なんの前触れもなく言われた言葉に、わたしは何も言えずにただ彼を……越前を見ることしか出来なかった。
夕焼けが彼を染め上げていく。
「無反応って、結構ひどいんじゃないの?」
越前の言葉に、我に帰る自分がとても情けなく感じる。
最近、思考停止が多い。
「……わたしも、越前のこと好きよ?」
当たり障りのないように返答する。
いつものように気のいい先輩のフリをする。
「それは、後輩としてでしょ?俺は、異性として好きなの。」
「そう。」
気まずい雰囲気を出来るだけ作らないように、平然とした態度で話を続ける。
「瑞希先輩は、どうなの?」
越前はわたしが逃げ出さないように、右腕を掴み答えを聞き出す。
「そんなに掴んだら痛いよ。」
「だったら、ちゃんと答えてくだいよ。」
あっ、震えてる。
微かに震える声にわたしは気づいてしまった。
そう、だよね?
真剣に告白してるのに、はぐらかそうとしているわたしはダメな先輩だよね。
「『Like』じゃ、ダメなんだよね?」
「出来れば『Love』がいいです。」
まだ中学1年生なのに、はっきり言う越前にふと昔を思い出す。
昔、同じように告白された記憶。
真剣な眼差しで言ってくれたあの子の告白を、わたしは受け入れることが出来なかった。
恋をしたくなかったのと同時に、あの子の人生を応援したかったから。
あの子は、優しくて正義感が強くて真面目だからなんでも両立させようとする。
わたしは少しでもそれを軽減、したかった。
いつも無条件で側にいてくれるのに、それ以上に側にいてはお互いのためにはならないから。
だから、受け入れることが出来なかった。
出来れば、越前もそうであり方った。
『特別』な位置ではなく、『適度』な位置がいいから。
「えちぜ――」
「瑞希さんは、俺のこと嫌い?」
わたしの言葉を遮るかのように、越前は言葉を被せてきた。
しかも、名前だけを呼んで……。
「俺は寛大だから『Like』だけでもいいよ。」
少しだけ強がっていう越前を見て、とても不甲斐ない自分が情けなく思った。
2011.11.15 Tue 18:41
「瑞希さん、お久しぶりです。」
突然の大和の訪問に、有馬も他の部員たちもピタリと体を止めた。
「おやおや。わたしの登場は予想も付きませんでしたか?」
止まっている部員たちを見て、面白そうに笑う大和にいち早く反応したのが手塚だ。
「……お久しぶりです、大和先輩。」
「はい。お久しぶりです。手塚君」
ニコニコ笑っている大和に対して、手塚は眉間に皺を寄せている。
その二人を見ながら、今まで思考停止していた有馬はハッと我に返り、少し後退る。
その様子に大和は気づいたのか、有馬にニッコリ笑いながら近寄る。
「えーっと……、その……」
「瑞希さん。お久しぶりです。」
戸惑いながら目を泳がす有馬と、獲物を追い込むハンターのようににじり寄る大和。
「おっ、お久しぶりです。」
視線を大和に合わせないようにして挨拶する有馬に、大和は。
「少し痩せましたか?顔色が悪いようですが……」
心配そうに言う大和に、有馬は首を横に振りながら。
「そんなことないですよ?とっても元気に過ごさせてもらってます……!!」
普段慌てる有馬の姿を見ない部員たちは、有馬の慌てように驚いている。
「そうですか。それなら、いいんですが……。あまり無理をしないでくださいね。」
背けている有馬の顔を自分の方に向ける大和に、有馬は小さく悲鳴を上げる。
「あ……あの。大和……先輩……?」
怯えるようにして有馬は大和の名を呼ぶ。
大和は、少しだけ顔を近づけさせて。
「瑞希。会いたかったですよ。」
大和はそう言うと、有馬を自分の元に引き寄せ強く抱きしめた。
2011.11.15 Tue 18:12
「私は自己犠牲する子は嫌いだよ。」
静かに試合を見つめている有馬は、誰に言うのでもなくつぶやく。
その言葉を、有馬の隣で聞いていた越前は。
「それって、手塚部長のことスか?」
今、コートの中で試合しているのは氷帝の跡部と手塚だ。
有馬は、静かに首を横に振りながら。
「別に、手塚のことを言っているわけじゃないのよ。……昔ね、青学のために腕を酷使ししちゃった馬鹿な部長がいたの。」
昔話をしするかのように、有馬は静かに話し出す。
「そのとき、私もそばにいたんだけど、止めることも出来なかったのよ。それに、止めようとしても“大丈夫ですよ”って言って聞いてくれなかったし……」
有馬は少しだけ悔しさが含まれた言い方をする。
いや、自虐的な言い方なのかもしれない。
「酷使し過ぎたせいで、テニスを断念せざる状況に自分を追い込んで、けど、それでもそれを他人に悟られないようにして、普通に過ごしてた。」
「けど、瑞希先輩は気づいてたんでしょ?」
「そうだね。」
有馬の声が微かに震えているのが、越前に気づかれないように気丈に振舞う。
「けど、止めることも出来ずに……見ていることしか出来なかった。」
「駄目だよね。マネージャーであるのにも関わらず選手を、止めるころすら出来ないなんて……」
悔しそうに言う有馬に、越前は。
「―――今、その人は何してるんですか?」
少しだけ帽子を深め被り、有馬の顔を見ないようにして言う。
有馬は大きく行きを吸いながら。
「今は、リハビリを終えてテニスの高校日本代表候補の合宿で頑張ってるみたい……」
「へぇ〜、すごいじゃん。」
「けど、テニス馬鹿な人だから、心配でもあるんだけどね。」
苦笑いしながら言う有馬の声は、少しだけ慈愛が満ちていることを越前は少しだけ感じとっていた。