☆真心を尽くすことを(長市)
2016.11.27 Sun 07:22
『気まぐれフリリク』にて頂いたリクエスト『長市の現代新婚生活』の消化作品です。
リクエストして下さった本人様のみ、お持ち帰り可能です。
(その際には、一言ご連絡をお願い致します。)
以下、注意事項
・現代パロ
・うっすら漂う転生パロ臭
・長政×市
・新婚さん
・が、私のイメージする「新婚長市」のため、あまりイチャイチャラブラブはしていません
以上のことにご理解いただけましたら、本文へとお進みください。
『真心を尽くすことを』
バレンタイン。チョコレートを渡し、付き合って下さい、と告白をした。
その年のクリスマス。指輪を渡され、結婚して下さい、とプロポーズをされた。
一年も交際をしないまま籍を入れるなど、我がことながら驚きだった。
大丈夫なのか、と不安や疑問を口にしたのは友人たちで、不思議と私自身は抵抗や不安を抱かなかった。それは相手も同じだったようで、実に自然に、まるでそうすることが当然であるかのように、私たちは婚姻届を提出した。
同棲もしていなければ、体を交えたこともない。そんな完全なる清い関係から一転。
一つ屋根の下で、夫婦としての生活が始まった。
料理があまり得意ではないことは、付き合っていた頃から伝えていた。
調味料の匙加減、火力の調節、器具の扱い方。そういった基礎的な知識が足りていなかったのだと思う。そのくせアレンジを加えたりしていたのだから、当時を思い返すと顔から火が出る思いだ。
美味しいご飯が作れなくてごめんなさい、と謝り倒す市を前に、長政さまは出された料理を全て平らげてみせた。
「初めから上手くなどいくものか。誰かに習えばいい。」
料理上手な人、といって、まず思い浮かんだのは前田の奥様。まつさまの顔だった。聞けば長政さまも同じことを考えていたようで、そんな些細なことを、少し嬉しく思う。
「では、二人で習いに行くか。」
「うん…。」
長政さまと一緒。それも、嬉しい。
でも、まつさまの得意料理は旦那さん好みのお肉料理や和食が中心。どうせなら、洋食やお菓子なんかも一通り出来るようになりたい。
そして、長政さまに、たくさん『美味しい』って言って貰いたい。
「ねぇ、長政さま。市、お料理教室でも習ってみたいわ…。いい?」
「勿論だ。よし、早速二人分予約を入れよう!」
二人分。また、長政さまと一緒。
嬉しいけれど、市だけじゃ駄目なのかしら?
一番最初に作った市の料理は、とってもまずかった。下処理とか、火加減とか、計量とか、何もわかっていなかった。お料理の基本も常識も、何も知らなかった。
だから、きっと、長政さまは市一人にお料理をさせるのが不安なんだと思う。信用されていないんだと思う。
それは仕方がないこと。
だけど、やっぱり、悲しくなってしまう。
「どうした、市。何をふさぎ込んでいる?」
はっと顔を上げれば、長政さまが首を傾げていた。付き合った日からまだ一年も経っていないのに、長政さまは市のことによく気が付いてくれる。
いつもは嬉しいはずなのに、今日はちょっと疎ましい。こんな感情、気が付かれたくなかったのに。
目を伏せれば、何かを悟ったのか、「夫婦間の隠し事は悪だ」と先手を打たれてしまった。そうなれば、もう、口を開かない訳にはいかない。
だって、これ以上嫌われたくはないもの。
勇気を出し、覚悟を決めて心の内を吐露すれば、ため息交じりに「なんだ、そんなことを考えていたのか」と返された。
やっぱり、呆れられてしまった…?
今更いじけてもどうしようもないけれど、だから言いたくなかったのだと後悔せずにはいられない。
けれど、それは間違いだった。
「市を信用していないなど、そんな馬鹿な話があるか。」
「え…。」
驚きに見開いた瞳には、いつも通りの長政さまの顔が映り込んだ。呆れても、怒ってもいない。…むしろ、どこか申し訳なさそうに歪んで見えた。
実際、その見立てはそう遠くなかったらしく、「また言葉が足りていなかったか」と、悔し気に吐き出す声が聞こえた。
長政さまは謝罪を口にして、少し、照れ臭そうに視線を外した。
「一緒に習おうと言ったのは、私も、市に料理を作ってやりたかったからだ。」
ぶっきらぼうな口調は、照れ隠しだと知っている。
想像もしていなかった言葉に、胸の内がゆっくりと温かくなっていく。私はただ目をまぁるくさせて、次第に赤くなってゆく長政さまの顔を見つめていた。
照れ臭そうに。恥ずかしそうに。それでも、市のためにはっきりと言葉を紡いでくれている。
「ゆくゆくは、こ、子供も欲しいからな。その時に料理が出来た方が、なにかと便利だろう?夫婦となったんだ。この浅井長政、市にばかり負担をかける気は毛頭ない!」
「長政さま…。」
「そ、それに…やはり、二人一緒にいたいではないか。」
付け足すように小さく漏れた一言に、あぁ、また同じことを考えていたんだと嬉しくなる。
それなのに、市は勝手に疑って、我が儘を言って…。一人で、塞ぎこもうとしていた。
「ごめんなさい。」
言葉が足りていなかった、と長政さまは言った。けれど、それは市も同じ。嫌われたくないからと、口をつぐんでいた。
そんなの、ダメよね。もう、夫婦なんだもの。
「市…一人でお料理を習って、長政さまを驚かせたかったの…。」
美味しいって笑って貰って、こんなものも作れるようになったのか、って、褒めて貰いたかった。
「でも、市も、長政さまと一緒にいたい。…その方が、ずっと素敵だもの。」
覚悟を決めて前を向くと、顔を真っ赤にした長政さまが立っていた。
こんな長政さま、見たの初めて。前を向くと、いろんなものを見ることが出来るのね。
それを教えてくれたのは、他でもない長政さま。
私の、すてきな旦那さま。
付き合って数ヶ月。結婚して数週間。
二人で過ごした時間はけして長くはないけれど、これだけは胸を張って言うことができる。
「市、長政さまの奥さんになれて、幸せだわ…。」
心も、体も。あたたかくって、愛おしい。
末永く、よろしくお願い致します。
END
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