☆雨宿り(三孫)
2013.11.23 Sat 18:33
『気まぐれフリリク企画』にて頂いたリクエスト『三孫』の消化作品です。
リクエストして下さった本人様のみ、お持ち帰り可能です。
(その際には、一言ご連絡をお願い致します。)
以下注意事項
・三成×孫市
・現代学生パロ
・二人とも学生です
・まだお付き合いしていません
・口調が難しく苦戦しました…
以上、ご理解頂けましたら、本文へとお進み下さい。
『雨宿り』
「雑賀孫市ィッ!」
下校時間。小雨の降る中、校舎を出てすぐに声をかけられた。
誰の声か、など考えるまでもない。
「どうした、石田?騒々しい。」
振り返ると、濡れた髪が目にかかり、頬にぴたりと張り付いた。わずらわしいその一房をかきあげると、想像した通りの顔が、ジッとこちらを見据えていた。
かつかつと足音を鳴らしながら大股で歩む彼は、あっという間に二人の距離を縮ませた。
鋭い視線が、頭のてっぺんから爪先までを無遠慮に行き来する。直後、刻まれた眉間のしわに、孫市はこれから訪れるであろう衝撃を想定した。
そして彼女が眉をしかめるが早いか否か、その予感は的中する。
「貴様、何をしているッ!?二週間後に控えた体育祭を忘れたか!?」
食って掛かる勢い、とはこのことだろうか。
他人事のように考えながら、孫市は涼しい顔で「覚えているに決まっている」と平然と返した。至近距離で男が声を張り上げていようとも、その表情にはひるみも脅えも見えはしない。
雑賀孫市という女性は、そこらの男よりもよっぽど肝が座っているのである。
見ている方がハラハラしてしまう、そんな二人のやり取りは更に続けられる。
「ならば何故傘を差していない!?秀吉様と同じチームである以上、体調管理を怠るなッ!」
どうやら彼の怒りの原因は、孫市が雨具を使っていないことにあるらしい。
孫市は一度空を見上げ、先程よりほんのわずか、雨足が強くなっているのを確認した。確かに、この調子で雨が激しさを増したのなら、家に帰る頃にはずぶ濡れだろう。
だからこそ、今こうしている時間も移動に費やしたいのだが。
孫市は肩をすくめ、やれやれと息をついた。
「どこぞのカラスが、私の傘を持っていったらしい。」
傘は、今朝確かに持ってきた。けれど、使おうと思った時には傘立てから消えていたのだ。
盗まれたのか、取り違えられたのか。そこまでは解らないが、傘がないという事実だけは確かである。
学校の傘を借りていこうか、とも考えたが、雨はまだ小雨程度。学校から駅まではそう遠くもないし、途中にはコンビニだってある。
必要だったらそこで買えば良いと考えて、雨の中を歩き出した。…ところを、石田に見つかり、捕まったのだ。
「そういうことだ。…じゃあな。」
これ以上時間をとられるのは得策ではない。そう判断した孫市は、話を終えるとさっさと踵を返した。濡れネズミになるのは御免である。
しかし、石田に背を向けたその瞬間、「ふざけるなッ!」と本日一番の怒号が飛ばされた。
同時に、腕を強くつかまれる。驚く暇もなく引っ張られれば、もはや、二人の間に距離などなかった。
先ほどまで体を打っていた雨の冷たさも、今は、つかまれた腕の熱さに変わっている。
見上げた顔はとても近く、外気にさらされて冷えた耳に、相手の息がかかるのが解った。
「風邪をひいたらどうする!」
文句も拒否も許可しない、と一方的に告げられて、孫市は思わず笑みをこぼした。
文句などないし、拒否などする訳がない。
フフ、と小さく漏れた声に、石田が不思議そうに首を傾げる。何を笑っている、と咎められたが、別段答えは求めていないようだ。
疑問はあれど、不平がないのならばそれでいい、ということらしい。
「行くぞ。駅まで送ってやる。」
「…あぁ。すまないが、よろしく頼む。」
歩きやすいように、と体を離せば、傘がわずかにこちらへ傾く。うかがった表情は相変わらず無愛想で、更に奥へと視線を向ければ、雨に打たれる肩が映った。
「…濡れているぞ。」
「貴様ほどではない。」
それは確かにそうなのだが。傘に入れてもらっている手前、相手の肩を濡らすには抵抗がある。
そもそも既に雨に降られた孫市は、もはや全身が濡れている訳で。それこそ、今更肩が少しはみ出したところで、気に留めるようなことでもない。
傘に入れてもらっているだけで、十分ありがたく、嬉しいことなのだ。
「私のことは気にするな。」
遠慮などではなく、本心からの言葉だった。傘を持つ石田の手を相手の方へ押しやると、己の肩で雨粒が跳ねる。
石田はそれを見るなり、あからさまにムッと表情を歪ませた。
傘はすぐさま元の位置に戻り、雨は再び石田の肩を打つ。
となれば、今度は孫市が顔をしかめさせる番だ。先程よりも強く傘を押し返した。
しばらくの間、傘は二人の頭上を忙しなく行き来し、無言の譲り合いは拮抗状態が続いた。
「…えぇい、鬱陶しいッ!」
静かな戦いに痺れを切らしたのは、石田の方が先だった。
彼は傘を左手に持ち直し、空いた右手で孫市の腰を引き寄せた。一気に近付いた距離に思わず体を引くも、添えられた手がそれを許してはくれない。
「来い!貴様がもっと私に寄ればすむ話だ!」
確かに、理屈は分かる。二人がもっとくっつけば、どちらも濡れずに傘に収まることが出来るだろう。
けれど、これはいくらなんでも近過ぎる。
早鐘を打つ胸を必死になだめるも、両頬はらしくもなく赤く染まっている。
意識しないようにと努めれば努めるほど、触れた手を、熱い頬を、よりいっそう強く自覚してしまう。
(私ばかりが何故こんな思いを…!)
悔しさを滲ませて隣を見れば、そこには、頬と目元をわずかに赤くした石田がいた。
「…何をみている。」
「…いや…」
なんでもない、と呟き、視線を前に戻す。
抵抗がないとわかると、右手はそろりと腰から外された。
「行くぞ。」
「…あぁ。」
本日二度目となるやり取りを交わし、二人は揃って歩み始めた。
恋愛ごとなんて、自分には無縁で無関係なものだと思っていたのに。
まさか、こんなに胸を高鳴らせることがあるなんて。
こんなに、楽しくって嬉しいだなんて。
初めて知った感情にゆるむ口を、どうにかぐっと引き結ぶ。
そんな二人の表情を、頭上の傘が隠していた。
END
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