元親×佐助♀
 2013.02.28 Thu 19:22

・現代学生パロ
・元親×♀佐助
・既にお付き合いしています
・スカート苦手なさすけちゃん
・可愛いものが好きなチカちゃん
・さすけ視点

以上のことにご理解頂けましたら、本文へとお進み下さい。














『シコウの相違 (嗜好・思考)』





ひらひらと風に舞うスカートが苦手だ。制服ばかりはどうしようもないから着用しているけど、普段着でスカートをはこうとは思わない。
スカートの中を見られるのが嫌とかじゃなくて(そりゃ故意に覗かれれば嫌悪感も抱くけど)、不意にひらりと捲くれ上がる、そのこと自体が恥ずかしいのだ。風に舞ったスカートの裾を押さえるのも、似たような羞恥心がある。
とにかく俺は、スカートが嫌いだ。

…だというのに。
隣を歩くこの男は、俺様とは違ってスカートが好き。…いや、正確には可愛いものが好きだ。
その可愛いものの中には、ひらひらふわふわと、女の子らしいスカートは当然含まれている。
今だってそうだ。
ショーウィンドウに飾られた、春の新作だというワンピースをじっと見つめて、視線は動かない。
何も知らない人からすれば、きっととてつもなく怪しい人に見えるに違いない。
「チカちゃん。あんまりスカートばっか見てると、変態さんだと思われるよ?」
見かねて注意をすれば、隻眼が慌ててこちらを向いた。自分でも無意識なようだから、ほんと重症だ。
「べ、別に見てねぇよっ!」
「嘘つき。」
あからさまに逸らされた視点は、一点に定まることが無い。あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。解りやすいリアクションに、呆れ果てて溜息も出ない。
見え透いた嘘なんて言わずに、認めちゃえばいいのに。『春らしいデザインの、可愛らしいワンピースに見とれてました』って。
「…姫。」
ぽつりと呟いたのは、彼の幼少期のあだ名。途端に、チカちゃんの顔が真っ赤になる。
「ひ、姫って言うんじゃねぇ!いーじゃねぇか、さすけに似合いそうだなって思ったんだよ!」
あら可愛い。耳まで真っ赤。
重ねてからかえば、ぷいっと顔を背けられてしまった。…だから、そういうとこが可愛いんだってば。
(なーんて思うのは、惚れた弱みかなぁ。)
下を向けば、歩く度に制服のプリーツスカートがひらひらと揺れている。
確かにスカートは女の子らしくって可愛いし、さっき元親が見てたワンピースは、季節感もあって色も綺麗だなって思う。
けど、自分が履くとなればそれはまた別の問題。
なんだけど。
「ね、チカちゃん。」
声をかけても、いまだ拗ねている元親からは返事が無い。けど、そんなのは想定内だ。構わずに、彼の腕に自分の腕を絡めた。
「あれ、着てあげよっか?」
指差す方向には、件のワンピース。驚くべき速さで振り返った元親は、口をあんぐりと開けて、信じられない、といった眼差しでこっちを見ている。
その間抜け面があまりに面白くって、俺は思わず噴き出した。

「思った通りだぜ!よく似合ってるぜ、さすけ!」
試着したワンピースは、制服のスカートとは比べ物にならないくらい軽くて柔らかい。裾がふわふわと揺れるのがなんとも心許なくて落ち着かないが、チカちゃんは大絶賛。
キラキラと輝く瞳の背後では、目に見えない尻尾がぶんぶんと大きく左右に揺れている。そんな感じだ。
「ありがと。」
まぁ俺様としても、好きな人に褒められて悪い気はしない。
こんなに喜んでくれるんなら、たまにはスカートをはいてあげてもいいかもね。…なんて、単純な自分に呆れさえする。
しばらくはしゃいでいたチカちゃんは、おもむろにワンピースの値札を手にとると、少しだけ真面目な顔をした。
間近で見る真剣な眼差しに、うっかり心臓が高鳴ってしまう。顔が熱くなるのが解って、なんだか落ち着かない。必要もないのに、髪の毛を整えたり、服のシワを伸ばしたり、と、キョトキョトしてしまう。
一人で勝手にときめいて、照れて、挙動不審になって。俺様、バカみたい。
「先日バイト代入ったし、いけるな…。」
一人で百面相をしていた俺は、その台詞に反応するのがわずかに遅れてしまった。なにが?と問いかける暇もなく、ハンガーにかけてあった制服がチカちゃんの腕に回収される。
「ちょっと!?返してよ、着替えられないじゃん!」
わめく俺をあっさり無視して、彼は近くにいた店員さんとなにやら話し始めた。…もう、嫌な予感しかしない!
「かしこまりました。」
にっこり笑った店員さんは、俺様が着ているワンピースの値札を切り取ると、それをレジに持っていった。チカちゃんは「待ってろよ。」とこちらに一言投げかけて、その後に続く。
待ってる訳ないでしょ、このお馬鹿さん!
ワンピースのまま慌てて試着室から飛び出したけど、もう遅い。値札は切られちゃったし、制服は元親の腕の中。
ならばせめてと開いた財布は、これまたお金を出す前に元親によって閉じられた。
いくらか負担させてくれ、と頼んだところで、ダメだイヤだの一点張り。
「かっこつけさせろよ。」
そう言ってキザに笑った表情に一瞬見とれて。あっという間に、チカちゃんのお金がレジに吸い込まれた。
「俺が気に入って、さすけに似合うと思ったから買ったんだ。受け取ってくれるだろ?」
「受け取るも何も…俺様に選択肢ないじゃん。」
唇を尖らせれば、チカちゃんは声を上げて笑った。俺様の制服は既に、紙袋の中へと綺麗にしまわれている。
「ただで受け取るのが忍びねぇってんなら、今日、そのカッコでデートしてくれよ。」
(…ハメられたなぁ。)
チカちゃんの思惑通りに、コトが進んでいる。面白くない展開だけど、俺は素直に頷いた。
だって、こいつ、本当に嬉しそうなんだもん。
「俺様、スカート嫌いだって言ったのに。」
諦めを交えて溜息をつけば、頭を引き寄せるようにして抱きこまれた。
「俺は、可愛いものが好きなんだよ。」


デートを終えた帰り道。
チカちゃんはいつも家まで送ってくれる。今日のこと、明日のこと。尽きない話題を交わしながら、家へ続く道をゆっくり歩く。
(今日一日で、だいぶこのスカートにも慣れたなぁ。)
なんて感慨深げに思った、まさにその瞬間。
風もないのに、突然スカートがバサリと宙に舞い上がった。予想外の出来事に、二人して目が点になる。
一瞬早く正気に戻った俺様は、慌ててスカートを押さえ込んだ。チカちゃんへ視線を向けると、彼はブンブンと勢い良く首を横に振った。
「み、見てねぇからな!」
焦ってはいるが、確かに嘘は言っていないって顔だ。幸い、下着を衆目にさらすことは免れたらしい。
自分の瞬発力の速さに大感謝。ほっと、安堵の溜息が漏れた。
…その時、視界の端を何かが駆け抜けた。
「なんだよ、さすけのクセにスカートなんて穿いちゃってさー!」
そこにいたのは、「小鬼」と称される、近所の悪ガキ。あっかんべーをしてみせる小鬼に、こいつにスカートをめくられたのだとすぐに分かった。
「へへーっ!パンツまで可愛いでやんの!」
それどころか、スカートをめくった本人はしっかりと中も確認済みらしい。走り去る小鬼を見ながら、握った拳が怒りと羞恥でわなわなと震える。
本音を言えば、今すぐ追いかけて思いっきり殴りつけたかった。…が、相手は子供。こらえろ、俺!
「お、おい!そこのガキ、待ちやがれっ!」
でも残念ながら、チカちゃんはこらえることが出来なかったようだ。事態をようやく把握したらしい彼は、小鬼目差して一目散に駆け出した。
…もう結構な距離があるし、あの子足速いから、多分、追い付けないと思う。
はぁ、と、先ほどとは違う意味で溜息をついた時、不意に後ろから視線を感じた。
なにかと振り向けば、ほんの数メートル後ろに顔を真っ赤にさせた真田の旦那が立っていた。その目は真ん丸に見開かれて、口は一文字に引き結ばれている。
これって、もしかして…。
「…見た?」
静かな問い掛けに、旦那は真っ赤にさせた顔をうつむかせた。
「は、破廉恥でござる…。」
たった一言の小さな呟きだったが、なによりも雄弁に事実を語っている。
「真田ァ!テメェもかッ!」
「あ。チカちゃんお帰りー。」
意外と早くに引き返してチカちゃんは(結局小鬼には追い付けなかったらしい。手ぶらだ。)、今度は素早く事態を把握したようだった。
別に旦那にだったら見られてもいいかな、なんて思ったんだけど、チカちゃんが俺のために怒ってくれているのは素直に嬉しい。
旦那には悪いけど、もうちょっとだけ傍観させてもらおうと思う。
「も、申し訳ございませぬっ!されど某、ここにいたのは偶然で…!」
「うるっせぇ!四の五の言わず、今すぐその記憶を俺に寄越しやがれッ!」
いや、そんな無茶苦茶な。…っていうか、なに、アンタ、もしかしてパンツ見られたことに怒ってた訳じゃないの?
単に、自分がパンチラを見損ねて悔しいだけ?
小鬼を追いかけたのも、俺様のスカートをめくったから、じゃなくて、俺様のパンツを見たから、が理由?
(…バッカみたい!)
変な幻想を抱いた俺も、チカちゃんも、どっちもバカだ!
もうスカートめくりをされた羞恥心なんかはどっかに吹っ飛んで、あるのはただただ脱力感のみ。
「くっそ、こうなったら…。おいさすけ!今すぐ俺の部屋に行くぞ!」
「へっ!?や、やだよバカ!」
なに考えてんだこの変態!

あぁ、もう!やっぱり、スカートなんて大嫌い!




END




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