明智×佐助♀
2012.05.24 Thu 03:18
・学園パロ
・保険医明智
・生徒さすけ
・妖艶な明智を目差した結果、変態な明智になりました
・何度か書き直したのですが、それでも読みにくいです
以上のことにご理解がいただけましたら、続きへとお進み下さい。
『複雑で単純な感情』
「苦手の反対ってなに?」
放課後の保健室。突然投げられた質問に、明智は口を閉ざして無言を返した。
苦手の反対など、『得意』に決まっている。小学生にだって解る問題だ。そんなことが解らないほど、この生徒…猿飛さすけはバカではなかったはずだ。
「答えてよ。」
無視を決め込んでいたが、声音に苛立ちを滲まされては流石に答えない訳にもいかない。以前彼女の機嫌を損ねたときには、自分の不名誉な噂をスピーカーよろしく撒き散らされて、大変苦労した覚えがある。
『不名誉な噂』が作り話ではなく、真実を脚色したものだということに、猿飛さすけという女生徒のタチの悪さを嫌というほど思い知ったものだ。
口から重たい溜息を漏らし、明智は椅子ごと体の向きを変えた。
猿飛は長い脚をゆったりと組んで看護用のベッドに腰掛けている。規則よりも短いスカートからは、艶かしい太ももが際どいラインをさらしていた。
「誘っているんですか?」
「…なんでそうなンの?」
訝しげに首を傾げる彼女は、自分の魅力に気付いていないのか…はたまた、気付いていてわざとやっているのか。
まぁ、別にどちらでも構いやしない。
明智は本棚の中にあった類語・対義語辞典(保健室で自習をする生徒のために用意されたものだ)を手に取り、ベッドへと近付いた。
猿飛は少し嫌そうな顔をしたが、逃げたり、身構えたりするような様子は見られない。
くく、と、明智はノドの奥で低く笑った。
怖がる顔や脅えた顔は、とても美しい。
そして、嫌がる顔はとても官能的だ。
「やっぱり誘っているんでしょう?」
「…ほんっと、意味わかんない。」
言いながら、猿飛はわずかに横へとずれた。座るスペースをくれたのか、単に距離を置かれただけなのか。なんとも判断しにくいところだったが、明智は迷うことなく立っていることを選択した。
隣に座って寄り添うよりも、立って真正面から少女を見下ろす方が彼の性にあっていたからだ。
「はい。どうぞ。」
そして一見穏やかにも見える笑みを浮かべながら、明智は辞書を差し出した。それを無言で受け取った猿飛は、しばし辞書と明智との間で視線を泳がせた。
「…なにこれ?」
「おや、見て解りませんか?保健室ではなく病院へ行く必要がありそうですね。」
『うわ、むかつく。』
と。声こそ出てはいなかったが、こちらを睨み上げる猿飛の目は、雄弁にそう語っていた。
明らかな不満と敵意を含んだその視線に、明智は屈折した己の欲が刺激されるのを感じる。ぞくりと震えた背筋を彼女に悟られぬよう、指先で辞書のページを悪戯にめくった。
「コレに答えは載っているでしょう?…さぁ、ご自分で調べなさい。」
猿飛は不満気に唇を尖らせたが、それでも素直に、パラパラと辞書をめくり始めた。
「俺様、アンタ嫌い。」
知っていますよ。そう言って笑おうとした明智を、真っ直ぐな、真剣な眼差しが射抜く。
「けど、嫌いじゃない。」
次いで告げられた言葉は、意外で、なにやら意味深な言葉だった。その言葉の持つ意味と、まるで見えない彼女の真意に、強い好奇心が湧き起こる。
動きを止めた猿飛の手元を覗き込み、明智は辞書の導いた答えを読み上げた。
「『苦手 ⇔ 得意、得手』。…これで貴方の問いの答えにはなりますか?」
ふるふると、頭は小さく左右に揺れる。
「そうですか。」
役目を終えた辞書は静かに閉じられ、ベッドの上へと無造作に放られた。
「ウザイし、アンタのこと嫌いだけど…側にいたり話したりするのは、別にイヤじゃないんだよね。」
「だから『苦手じゃない』と?」
「よく解んないけど、多分。」
ぐ、と背伸びをした猿飛は、そのまま背中から倒れ込むようにベッドへ体を投げ出した。視線は天井へと注がれ、それでいて天井を見てはいないように見える。
どこかぼんやりと空中を見つめる彼女は、深い思考の渦に身を委ねているようだった。
「…。」
明智は猿飛の隣へと静かに腰を下ろす。
二人分の体重を受け止めたベッドはギシリと悲鳴を上げ、わずかに沈んだ。保健室の安いベッドだ、けして座り心地はよくはない。
けれど、今はそんなことも気にならないくらい、目の前の少女へと興味が向けられていた。
ベッドの上に散らばる、赤みを帯びた髪。真実かどうかは知らないが、本人が地毛だと言い張るその色は、真っ白なシーツによく映えていた。
その一束を手に取り、細く長い指を悪戯に絡ませて、優しく梳いていく。手はゆったりとした動作で髪から頭、頭から顔、と自然な流れで移動して行き、やがてなだらかな頬へと指を滑らせた。
その間、猿飛に抵抗するような様子は一切見られない。
明智は無言のまま猿飛の顎へと手をかけると、視線が合わさるように顔を上向かせた。正面から二人の視線が交わり、色素の薄い瞳の中に己の姿が映っているのを見つける。
身を屈めてゆっくりと距離を近づけると、再びベッドのスプリングが軋んだ音を立てた。銀糸の髪が重力に従って垂れ下がり、猿飛の頬を柔らかくくすぐる。
真っ直ぐ向けられる視線を受け止めたまま、明智は更に二人の距離を縮めた。ゆっくり。ゆっくりと、体を寄せていく。
それでも、猿飛は一切の抵抗を見せなかった。
「よろしいんですか?逃げなくて。…私のことがお嫌いなんでしょう?」
囁けば、組み敷いた体が強張るのがわかった。瞳が揺らぎ、動揺と困惑の色が色濃く浮かぶ。
怯えにも似たその反応に、明智の嗜虐心は激しく揺さぶられた。背筋を駆け上がり、腰を疼かせたものは、間違いなく愉悦と快楽だ。
体を緊張させてなお逃げようとはしない少女の気丈さに、あぁ、と、恍惚とした溜息が漏れた。
「貴方はとても面白い人だ。」
ノド元にゆっくりと指を這わせ、薄い肌の感触を堪能する。更に顔を寄せて、まさに唇と唇が触れ合う寸前でぴたりと動きを止めた。
うっとりと相手の顔を見つめるも、もはや距離が近すぎてピントが合いはしない。
「『苦手じゃない』の反対は、『好き』かもしれませんよ。」
鼻先を軽く食むと、少女の身体はびくりと跳ねた。
明智は心が満たされるのを感じながら(彼は人より幾らか特殊な欲望を抱えていた。)、ゆっくりと身体を起こす。
そうしてようやくピントの合わさった視界で、猿飛の目が潤んでいることに気が付いた。一体いつからかそんな状態だったのかは解らないが、少しばかりいじめ過ぎてしまったのかもしれない。
大人びている生徒だと思っていたが、所詮は年端の行かない少女。愛らしいものだ。
『これ以上虐めてしまっては自分の理性が危ない。』
そう判断した明智は、身体を離そうと、ベッドについた手に力を込めた。
…瞬間、猿飛の手が伸びてきて、明智の腕を捕らえた。
突然動きを抑止されて体のバランスを崩したところへ、もう片方の腕が髪の中へと差し入れられる。
「そーかもしんない。」
小さく囁いた彼女は、手の中の銀糸を少々手荒に握り込み、グイと強く引き寄せた。
そして、二人の唇が重ねられる。
完全に虚を突かれた明智は、髪の痛みに顔をしかめる間もなく、突然の口付けをただただ甘受していた。
ほんの数秒間の触れるだけの口付けを終えると、猿飛は明智の横をするりとすり抜けて、保健室のドアの前まで駆けて行く。
「じゃあね、明智センセ。明日また来るよ。」
スカートをひるがえしてどこか照れ臭そうに笑うその顔は、憑き物が落ちたかのような明るい笑顔。
…どうやら、彼女は納得のいく答えを得ることが出来たようだ。
遠ざかる足音を聞きながら、明智はベッドに深く身体を沈めた。
シーツに残された少女のぬくもりを手のひらで撫で上げ、いまだ柔らかな感触の残る唇をゆっくりと舌でなぞる。押し当てるだけのキスだなんて、随分と可愛らしいことをしてくれたものだ。
感情の高ぶりを抑えることが出来ずに、明智は高い笑い声をあげた。
「あぁー…明日が待ち遠しいなど、一体いつ以来の感情でしょうか…!」
賢く奇抜な彼女からのアプローチなど、考えただけで胸が躍る。明日から一体どんな行動を起こしてくるのか、楽しみで仕方が無い。
今まで一方通行だった想いが、ようやく報われるときが来たのだ。
精々焦らしに焦らして、彼女の反応を心行くまで楽しませてもらうとしよう。
そうして、負けず嫌いな彼女がすっかり自分に夢中になった頃。
彼女の欲しがる言葉を、その耳に聞かせてやろうではないか。
今日に負けない、不意打ちのキスと一緒に。
END
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