幸村×佐助♀
 2015.06.04 Thu 02:37

・幸村×♀佐助
・名前は変わらず「さすけ」
・現代学生パロ
・卒業式ネタ
・年齢は♀佐助高1、幸村中3
・少々古い王道?定番?ネタ

以上のことにご理解いただけましたら、本文へとお進み下さい。













『前途洋々』





卒業式の朝。そわそわと落ち着かない旦那を、今からもう緊張してるの?と笑った。
旦那は顔を赤くさせて否定していたけれど、どーだかなぁ。
この学校は中高一貫だから、正直、中学の卒業式だなんて言われてもピンと来ない。春にはまたほとんど同じ顔ぶれが揃っているし、先生にだってすぐ会える。
実際去年卒業式に出た俺様は、春休みがちょっと長くなってラッキー、程度に思っていた。
(ま、旦那は真面目だから。)
それにやっぱり、男の子だし。なにか思うところがあるのかもしれない。
真っ黒い学生服も、袖を通すのは今日で最後。三年前は大きかったそれも、今では少々窮屈そうだ。
「じゃ、式が終わった頃に遊びに行くから。」
「う、うむ。」
ひらひらと手を振れば、旦那は硬い表情のまま一つ頷いた。
たかだか中学の卒業式。もっと気楽に構えればいーのにさ。

会う約束をしたのは、部室棟。ホームルームを終えて真っ直ぐに向かえば、まだそこに人の気配はなかった。
ちょっと早すぎた?それとも、在校生やクラスメイトに捕まっているのかな?旦那、人気者だし。
幸いにも今日は晴天で、日なたにいればそんなに寒さは気にならない。気長に待とうと、日差しで温まったベンチに腰を下ろした。
(卒業式、か。)
中等部と高等部は校舎が別れているから、この一年間は校内で旦那と顔を会わせることは滅多になかった。部活の時に部室棟で、というのがほとんどだ。
それが来月からは、また一緒に同じ校舎に通って、同じ校舎で学ぶことになる。会う機会もぐっと増えるだろう。
それと、制服。学ランもかっこよかったけど、旦那なら高等部のブレザーもきっと似合うはずだ。成長を見越して少し大きめのを頼んだって言っていたから、袖とかちょっと余っているのかもしれない。…うん、それはそれで可愛い気がする。
自然とほころぶ頬に、胸の内も暖かくなる。旦那、早く来ないかなぁ。

「さ、さすけっ!」
「旦那。」
待ちわびた声に振り返ると、そこには肩で大きく息をした旦那の姿があった。どこからかは定かじゃないが、全力で走ってきてくれたらしい。
「そんなに急がなくても良かったのに。」
なんて言ってはみたけれど、実は結構嬉しかったりして。
三月なのに玉のような汗を浮かべる旦那に、風邪でもひいたら大変だとカバンを探る。目的のハンドタオルを見つけて差し出したが、残念ながら意図は通じなかったらしい。旦那はキョトンとしてタオルを見つめている。
「汗拭かないと、風邪引いちゃうでしょー。」
やれやれと表情だけは呆れてみせて、額に向かって手を伸ばす。ポンポンと抑えるように汗をふき取ってやれば、「ぬおぁッ!?」と奇声が上がった。
期待を裏切らない、可愛い反応だ。
「も、もう大丈夫だ!」
距離をとった旦那を密かに笑って、大人しく手を引っ込めた。卒業生は今日の主役。あんまりイジメてしまっては可哀想だ。
旦那はボタンの留まっていない学生服をバタバタと仰いで、体に風を送っている。ほんと、どれだけの距離を走って来たんだか。

落ち着くのを待っていると、視界にキラリと光るものが映った。はためく学ランの黒の中に、一つだけくっついた金のボタン。
(あの位置って…。)
第二ボタン。
気が付いてちらりと旦那の様子をうかがえば、ぶつかった視線を即座にそらされた。

息が整っても、なお赤い頬。
卒業式は終わったっていうのに、硬い表情。
朝見た時となんら変わらない、緊張した顔。
ふ、と。考えてしまった都合の良い想像に、一気に頬に熱が集まった。

ないない。そんな訳がない。あるはずがない。
だから、期待しちゃ駄目だってば!

「さすけ!」
「は、はいっ!?」
突然声をかけられて、思わず声が裏返る。同時に両手を包むようにつかまれて、いよいよ心臓も跳ね上がった。
旦那の手はすっぽりと俺様の手を隠していて、いつの間にこんなに大きくなっていたのかと驚く。昔は俺様の方が大きかったなんて、まるで冗談みたいだ。
強く握られた手は、そのまま胸の高さ…第二ボタンの真ん前まで上げられた。
「も、貰ってくれぬか?」
何を、なんて、聞かなくてもわかる。
「俺様でいーの?」
だって、それってつまりそーゆーことでしょ?
心臓に一番近い位置にあるボタン。それを異性に渡すってことが、何を示しているのか。いくら旦那でも、知っているはずだ。
「某は、このボタンは好きなおなごに受け取って貰いたい。…さすけの他に、渡したい者などおらぬ。」
決定的な言葉に、息を飲んだ。
好きな子に渡したいと思っていたボタンを、俺様に渡したいって。そんなの、夢みたいだ。嬉しくってたまらない。
甘い痛みに胸をぎゅーっと締めつけられて、言葉がノドから出てこなかった。
「好きだ。さすけ。」
その沈黙をどう思ったのか、旦那からは更なる追撃。
もう、ほんと、なにこれ。
「…俺様も。ずっと好きだった。」
素直に笑って答えれば、ようやく、旦那の顔から緊張の色が抜け落ちた。
朝から緊張してたのは、卒業式じゃなくってこれが原因だったってわけだ。

お疲れ様、なんて労ってあげたくっても、残念ながら今の俺様にそんな余裕はない。
旦那の歩幅一歩分距離が近付いて、捕まれていた手が第二ボタンへと導かれた。
(お、俺様が外すの!?)
照れ臭いなぁ、もう!
旦那の手が離れて行けば、いよいよ観念するしかない。おずおずとボタンに伸ばした指は、笑えるくらいに震えていた。
寒いし、柄にもなく緊張するしで、指はまるで言うことをきかない。
間近に感じる旦那の視線が、痛いようなくすぐったいような。恥ずかしくって顔も上げられず、作業に集中しているフリをした。
そして、時間をかけてどうにかこうにかボタンを外すことに成功すると、知らずに詰めていた息が、ほうっと逃げ出した。
自分で外した旦那の第二ボタン。小さなそれをぎゅっと大事に握りしめると、なんだか胸の内から温かくなるような気分だった。
「…ありがと。」
本当に、嬉しい。
呟けば、目の前のたくましい腕の中に閉じ込められた。
早鐘を打っている心臓は、もうどちらのものか分からない。
ただ分かるのは、体の外側も、内側も、旦那の熱であったかいってこと。
「これからもよろしく頼むぞ。さすけ。」
「うん。こっちこそ、よろしくね。」

あと一ヶ月と待たずに、新学期はやってくる。
春は始まりの季節だというけれど、今年はまさにそうなりそうだ。

新たな生活の始まりに、早くも胸は期待に満ちていた。





END



[*前へ]  [#次へ]



戻る
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
あきゅろす。
リゼ