☆武田軍SS(佐助メイン)夏休み
 2015.07.09 Thu 03:40

武田お父さんと、佐助お兄さんと、幸村くん(弁丸さま)のお話です。
特に必要性が無かったので、細かな設定は決めていません。
さらりと読み流すなり、脳内補完するなり、よろしくお願い致します。

・現代パロ
・佐助視点
・上記三人一緒に暮らしている
・年齢差は上記参照
・武田軍で夏休みのお話
・家族っぽい武田軍大好き

以上のことにご理解が頂けましたら、本文へとお進み下さい。














『夏の決心』





『夏休みは絶対短い。』
そんな歌い出しで始まる幼児向け番組のテーマソングを思い出しながら、日差しの眩しさに目を細めた。
およそ四十日の夏休み。バイトに遊びに部活に補習。夏祭り、花火大会、海、プール、更にはお盆なんてものもある。
…ま、最後のそれは親も親戚もない俺様には縁遠いけど。大将のところに身を寄せてからは、ちょっとばかし詳しくなった。
そんな訳で、イベント満載の夏休みが、いよいよ今日から始まった。

朝六時。夏休みといえど、起床時間は変わらない。
首からスタンプカードをぶら下げた旦那が、俺様を文字通り叩き起こす。
小学校が夏休みに入ると、近くの公園では平日の六時半からラジオ体操が行われる。旦那は毎年それに参加して、最終日に皆勤賞を貰うのを楽しみにしているのだ。
それに保護者として同伴する俺様も、自然と皆勤賞を受け取ることになる。ほんの数十分の体操をするために公園へ集うのは、正直少々億劫だと思う。せめてあともう三十分遅い時間だったら、もっと楽なのに。
盛大な溜息が漏れ出たけれど、やっぱり旦那の笑顔には勝てやしない。

家へ帰って、ご飯を食べて、職場に行く大将を見送って。俺様が家事をしている間、真田の旦那はお手伝いをしたり、学校から持ち帰った朝顔の鉢植えに熱心に水やりをしたり、観察記録を描いたりして過ごす。
お友達と遊ぶこともあるけれど、午前中は家で過ごすことの方が多いかもしれない。
俺様のバイトが午後からが多いから、旦那なりに気を使っているのだろうか。…なんて考えると、申し訳なさよりも嬉しさの方が勝るんだから、俺様ってば駄目な大人だわ。
「だーんな。今日の昼飯、なにが食べたい?」
「む?…にく!ハンバーグが食べたいぞ、佐助!」
食欲があってなによりです。
今年も夏バテの心配はなさそうだと、思わず笑みがこぼれ落ちた。

バイトを終えて帰宅すると、先に戻っていた旦那がお出迎えをしてくれた。
今日も思いっきり遊んで来たのだろう、心なしか朝見た時よりも日に焼けている。
痛くないのかと問いかけたら、早く皮をめくりたいと、少々明後日な答えが返って来た。開始早々、羨ましいくらい夏休みを満喫しているようだ。
「して、佐助!今日の夕食はなんだ!?」
「ん〜…」
しまった、何も考えていなかった。旦那は目をキラキラと輝かせていて、あ、これはお手伝いをしたいんだなとすぐに悟る。
となると、自然とメニューは限られてしまうのだが。
「…オムライス、にしよっか?」
途端、旦那の顔には喜びの色が広がって行く。あー可愛い。
「卵、某が割るぞ!」
「え、本当?いいの?ありがとー!」
ちょっとわざとらしかったかもしれない。まぁ旦那に気付かれなかったからよしとしよう。
うんうんと一生懸命首を縦に振る旦那は、とにかく可愛くてたまらない。
じゃあお願いね、とボウルと卵を渡せば、お手伝いに喜んだ勢いはどこへやら。真剣な眼差し、固くへの字に結んだ口。面白いほど慎重に、小さな手が卵を持ち上げた。
「そんなに緊張してちゃ、グシャッてやっちゃうよ?」
込み上げる笑いをこらえて助言すれば、はた目にも明らかに肩が跳ね上がった。
「きゅ、急に話しかけるな!落としたらどうする!」
「ごめんごめん。」
幸い、今日のメニューは目玉焼きではなくオムライス。多少割るのに失敗しても、後でどうにでもなるはずだ。
慎重に、慎重に、机の角に卵をぶつける旦那に、今日は好きにさせてあげようと決めた。
その矢先に聞こえた「がしゃり」という音も、向こうが話しかけてくるまでは聞こえぬフリ、だ。

ボウルに飛び込んだ幾つかの白い欠片を取り出して、フライパンに卵を流す。程よい頃合いを見計らって火から下ろし、盛り付けてあったチキンライスの上にそっと乗せた。
旦那のリクエスト通り、ふわっふわのとろけるオムライスの完成だ。
「旦那、もう一つお手伝いお願―い。」
声をかければ、待ってましたとばかりに旦那が駆け寄ってくる。その手には、既にケチャップが握られていた。
デミグラスソースも捨てがたいけど、旦那が喜ぶのでうちではもっぱらこれが主流になっている。
「こっちが旦那ので、こっちが大将。で、そっちは俺様ね。」
「うむ!」
大きく頷くと、早速フタを開けてケチャップ・アートに取り掛かる。何を書くかは旦那にお任せ。極細口のケチャップ容器は、購入以来大活躍だ。
同時に見計らったかのようにチャイムが鳴り響き、大将の声が聞こえてくる。
家主のお帰りをお出迎えすれば、見慣れた笑顔。互いに挨拶を交わして、大きな手からカバンを受け取った。
「良い匂いがしておるわ。」
「うん。ちょうど出来たところ。」
早く着替えちゃって、と言えば、まるで新妻のようだと笑われた。
そうだろうか?どちらかというと、お母さん、の方が気分的には近い気がする。
どっちもめちゃくちゃ不本意だけどね。

大将、旦那、俺様。それぞれの席に、それぞれの似顔絵が描かれたオムライスが並ぶ。勿体なくって、思わずカメラに収めてしまった。
「ほほう。力作じゃのう!」
絵もオムライスも立派だと褒められて、俺様も旦那も笑顔になる。
三人揃って食卓を囲みながら、明日の予定の話題になった。大将のお仕事はお休み。俺様のバイトもなし。それが分かると、旦那が身を乗り出した。
「ならば、明日、三人で出かけましょうぞ!」
でっかい笑顔と期待に輝く瞳に、俺様と大将は二つ返事。
「お弁当持って海でも行く?」
おお、と旦那が歓声をあげる。大将は自慢のヒゲを撫でさすって、しばらく、何か考える素振りを見せた。
そうして、「弁当はいらぬ」と旦那に大打撃を与える一言を放った。
俺様もそれはちょっと意外で、パチクリと一つ瞬きをする。
「なんで?」
「折角の休みじゃ。お主も休め。」
満面の笑みを浮かべた大将は、わっしわっしと俺様の頭を乱暴に撫でる。あ、これ、完全に子供扱いされてる。
悔しいけれど、手を叩き落とす気分にはなれない。だって、大将の手は心地よい。赤くなっているだろう顔を伏せて隠すのが、せめてもの抵抗だ。
「明日は出先で食うとしよう。よいな、幸村?」
「はい!流石お館様!」
良かったな、佐助!なんて言葉と共に、頭を撫でる手に小さな手が加わった。ますますもって、顔が熱くなる。
「じゃ、じゃあ、明日は家事全部お休みするから!」
冗談半分。本気半分。むず痒くってたまらないこの状況をどうにか打破しようと思ったら、無駄に声が大きくなった。
旦那はキョトンとして、大将は一瞬だけ動きを止めた。しかし、次の瞬間には二人とも笑っていて。
「ならば、わしは久々に洗濯でもするか!」
「でしたら朝食は某が作りまする!ハンバーガー!」
昼間の残りのハンバーグをパンに挟む、お手軽ハンバーガーね。それなら火も使わないし、安心かな。
洗濯物も、…洗濯機で回せないものは、今晩お風呂の時にでも手洗いしておけばいいか。
…なんて考えた俺様は、やっぱりお母さんみたいだ。

『夏休みは絶対短い。』

毎日こんな調子で過ごしたら、そりゃ短くも感じるだろう。
まだ始まったばかりの夏休み。楽しみはまだまだこれからだ。





END




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