『玉ねぎ 涙 止める方法』(幸佐)
 2023.07.07 Fri 20:53

・幸村×佐助
・幸村視点
・現代パロ
・一緒に暮らしています
・BLに置くべきか健全に置くべきか悩みに悩んでこっちに置いた、程度のBL要素
・説明不足な個所は、各々脳内補完をお願いします

以上のことにご理解いただけましたら、本文へとお進み下さい














『 玉ねぎ 涙 止める方法 』





佐助が、涙を流しながら玉ねぎをみじん切りにしている。精が出るな、と背に声をかければ、泣き笑いで振り返った。
今晩のおかずはハンバーグで、明日のお弁当にはオニオンソースたっぷりのチキンソテーを入れてくれるらしい。
「おお、それは楽しみだ!山ほど食べたいから、玉ねぎももっとたくさん頼むぞ!」
そんな軽口に佐助はわざとらしく手の動きを速め、りょうかーい!と冗談に乗っかった。
手伝えることがあったら呼んでくれと言い添えて、キッチンを後にする。少し悩んでから、共用スペースではなく自室へと足を向けた。
なんともわかりづらい奴だが、俺には分かる。アレは、玉ねぎを刻んだから涙が出たのではない。泣きたいから玉ねぎを刻んだのだ。玉ねぎは今、涙をカモフラージュするための道具に過ぎない。
悔やむべくは、側にいてやるべきか、一人にしておくべきか、姿を見ただけでは判断が付かなかったこと。
弱さを隠そうとする気持ちは、俺にもわかる。わかるが、俺自身は、佐助のそんな弱さに寄り添いたいと思っている。佐助と俺、それぞれの希望を同時に叶えるのは難しいので、その時の状況で判断するようにしているが、果たしてそれが正しい選択だったのかどうかは悩みどころだ。
頼って欲しい。
そう口にするのは簡単だが、その言葉が奴の重荷になってしまっては本末転倒。適切な言葉とタイミングでもっていつかは伝えるのだと決めてはいるが、まだその時は訪れない。

声をかけられたらすぐに分かるように、ドアは開いたまま。微かな声も聞き逃すまいと、音楽も動画も流さずに机に向かう。
勉強をしようか、はたまた本でも読もうか…どちらも試みてみたものの、結局身が入らないのでやめにした。
そのままぼんやりと物思いに耽れば、頭の中を巡るのはただ一つ。玉ねぎを刻む佐助の姿だけ。
泣きたい理由は何だろう。
俺の知ることであれ、知らないことであれ、佐助を泣かせているナニかに腹が立つことに変わりはない。あれこれ考えたところで答えは出ないが、少しでも理解したいと、思考は止まらない。
今の自分にできること。泣きたい佐助のために、玉ねぎをたくさん刻む理由を作ってやること。刻んだ玉ねぎを美味しく頂戴すること。
生憎と、他に名案は浮かばない。
貧相な思考を嘆いて頭を抱えていると、「旦那」と己を呼ぶ声が聞こえた。
勢いよく立ち上がってキッチンへ駆けつければ、想像よりも幾分か柔らかな瞳に迎えられた。…もっとも、その口からはドタバタと走ったことをキッチリと咎められてしまったが。
少なくとも「いつも通りに見える」ことに、少しだけほっとする。

佐助が指し示したテーブルの上には牛乳パックが乗っており、その横にはちょこんと家計用の財布が並んでいた。
「明日の朝の分足りなくなっちゃってさ。牛乳、買ってきてもらえないかな。」
「合点承知!任されよ!」
もしかしたら、家に一人になりたいと思っているのかもしれない…なんて、答えの出ない疑問はさっさと捨て置いて、ただ、佐助の望みを叶えるために動くのみ。
小腹を空かせるにも、丁度いい食前の運動となるだろう。財布を握りしめ、任せろと胸を叩く。せっかくだから、以前佐助が安いと言っていた少し遠くのスーパーまで行ってみようか。
鍛錬と理由付ければ、…あるいは委細は伏せて、夕食のために腹ごなしをしたかったとでも言えば、佐助が怪しむことはないだろう。アレは時折、俺を単純だと侮る節がある。
単純であることを否定はしないが、佐助が思うより、俺はずっとお前のことを考え、心を砕いているのだと、いつになったら気付くのか。
猿飛佐助という男にそれだけの価値があるのだと、早く自覚して欲しいものだ。
「では、行ってくる!」
俺が駆けだしたのも、お前は明日の朝食のためだと思っているのかもしれない。
何もかも、全てはお前のためだと言ったら、刻まれる玉ねぎの量も少しは減るのだろうか。
いつか、試してみるのも悪くない。
たとえ、夕食にハンバーグが並ぶ回数が減ろうとも。

比べるまでもなく、お前が笑ってくれることの方が嬉しいのだから。


END






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