第12回……通夜
2017/03/19 Sun
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制服を着ていなかったとしても、私の正体はすぐわかったと思う。
斎場の受付係は親類の人だった。
たちまち怒号と罵声を浴びた。
暴力沙汰の寸前だった。
斎場の人が仲裁に入り、このまま帰るように勧告された。
頭を下げて退出しようとしたとき、
「待ちなさい」
と声がかかった。
喪主である父親だった。
「このお嬢さんに罪はありますか?」
静かな声だった。
◆
線香を手向け、合掌する。
「四弘誓願」を唱える。
「衆生無辺誓願度。
煩悩無数誓願断。
法門無盡……」
この時、ふと、気づいた。
遺影がない。
恐らくは、喪主が一時的に隠しているのだろう。
なぜ?
答えは一つしかない。
私が、記憶に刻むことをしないように。
私が、早く忘れてしまうように。
こらえていた涙が溢れた。
「四弘誓願」が唱えられない。
そっと、肩に手を置かれた。
「衆生無辺誓願度。」
優しい声だった。
父親が唱える「四弘誓願」は心にしみた。
「煩悩無数誓願断。
法門無盡誓願知。
仏道無上誓願成。」
なんとか唱和できた。
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