第10回
2017/03/02 Thu
私の父は腕のいい植木職人だったが、私が中学三年生になった頃から、酒乱のDV亭主となった。
母を執拗に殴り、蹴り、鼻血ぐらい出ないとやめないようになり、物も壊れた。
母は、私に家事ひと通りを教え終わると、年末の慌ただしさに紛れて、失踪した。
実家にも一切連絡しない、覚悟の蒸発だった。
母は、父の暴力を憎悪と捉え、自分がいなくなり、親子水いらずとなれば、平和が戻ると考えたのか。
本当のところはわからない。
ただ、暴力の向かう先が私になった。
傷をつけて学校でバレないよう、手加減してるつもりらしいが、アザはできた。2月の終わりには、ガラス戸に倒れこんで、5針縫うことになった。
飲む。殴る。パチンコ。
毎日がその繰り返し。
地獄だった。
◆
その夜──
虫の居どころが悪かったのか、その日は、かなりひどく殴られた。
暴虐のあと、鼻血で汚れた畳に伏せて、荒い息をしている私。
何事もなかったかのように、パチンコ屋行きの支度をする父。
私は、見送った。止めなかった。
父は飲酒運転の常習者で、パチンコ屋へは必ず商売道具の軽トラックで行っていた。
負けて帰ると黙って寝てくれたし、たまに勝つと千円ぐらい分け前をくれたりした。
下手に止めると、また殴られるだけだ。何の得にもならない。
私は、止めなかった。
その夜──
父が出掛けて一時間ぐらいで、警察から電話があった。
父の軽トラックが電柱に激突し、シートベルトをしていなかった父は、放り出され、叩きつけられ、即死した、と。
そして──
父はその直前に、自転車に乗った女子高生を跳ねていた、と。
彼女の死亡は、たった今、確認された、と。
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