メロウ・チーズ
2011.06.20 Mon
「これで、5年目」
「はあ?」
「もう5年もたったんだ」
「……何が」
「俺たちの関係が」
「……火」
「ああ」
「グラッツェ。……そんなもんか」
「そうか?」
「もっと長いと思ってたぜ」
「俺は短いと思ったぞ」
「どうして?」
「あの頃から俺たちは何も変わらない。そうは思わないか?」
「歳はとったぜ。お前はもう26歳。俺だってお前と同じように5年を過ごしてきたんだ」
「歳をとるのは当たり前だが、俺はお前も俺もあの頃から変わったと思わないぞ」
「そうか?」
「ああ」
「そんなもんか?」
「プロシュート、灰が」
「あ?ああ、」
「……いや、やっぱり変わったんだろうか。あの時のお前は血の気が多くて、」
「おい、昔話はやめようぜ。俺は今を生きてえんだ」
「すまない」
「別に。5年かあ、5年ねえ……」
「長いようで短いもんだな」
「確かにな。長くて2年ももたねえ俺が、まさか手前となんてな」
「何か不満か?」
「いいや、全然。ま、強いて言うなら『さっさとイけ』ってことぐらい」
「体力の差だろ」
「うっせ」
「お祝いでも?最高級のシチリアワインにパルミジャーノ・レッジャーノ」
「悪かあねえが、祝うほどのことでもねえな」
「たまには散在するのも悪くないだろ」
「お前の口から散在を肯定する言葉を聞く日が来るとは思わなかったぜ」
「お前と違って服にこだわりがないんだ。お前よりは金を持ってるつもりだが」
「やらしいな。じゃあなんだ、俺を女にしてお前はスマートに財布から金を出してくれるってか?」
「そうしてやろうか?」
「遠慮する」
「そうか」
「5年なあ。ここまで俺たちが生きてた方が不思議だぜ」
「生きてたから5年、だな」
「俺もお前も生きてたから5年続いたってか。お前、勝手に死ぬんじゃねえぞ」
「お前の記録更新がかかってるからな」
「それもあるけどよ、こんだけ一緒にいりゃあ下手な情がわいちまったんだよ。死ぬんだったら老いて死ね」
「やっぱり、変わったのか」
「あ?」
「最初のころは『死ぬなら勝手に死ね』って言ってたな」
「そんな昔のこと覚えてねえよ」
「あの時はお前も血の気が多くて、」
「昔話なんかいいって言ってんだろうが!」
「ああ、すまない。お前に『好きだ、さっさと死ね』って言われたのをつい思いだして、」
「うっせーな!」
「そう考えたら、あの頃とセオリーが変わったんだな」
「うっせ!今日で俺たちゃおしまいだ!じゃあな、そこの仕事とっとと片づけやがれ!俺は帰る!」
「おい、プロシュート!……そうやって毎日言われたが、一度も終わったことなんてないのにな」
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