妄執、あるいは白痴の鼠
2011.06.11 Sat
※不謹慎
「プロシュート。お前はどう思う?」
「連中は生憎頭が悪い。だったらこっちのもんだ。とっ捕まえてやろうぜ」
「そうか。だが、俺はお前の意見に賛成しない。多少罪なき人を巻き添えにしても構わない」
「おい、正気か?らしくねえぜ、リゾット」
「正気だ。作戦を決行しよう」
「まあ待てよ。敵の城は難攻不落だって、さっきわかったじゃねえか。進入経路になりうるのは正面入り口と下水道、ただし正面入り口は人の通りが多く、しかも表にはいなくとも見張りがいるのはわかった。その辺りのずる賢さだけは認めていい。で、もう一つのルート、下水道は連日の大雨で水嵩が増してとても潜れそうにねえ」
「だが、やるなら今だ。連中を始末するなら今の他にない」
「落ち着けリゾット!気が高ぶってる。暗殺者は常に冷静であれっつってたじゃねえか」
「わかってる。わかってるが、衝動は抑えられない!」
「リゾット!おい、手前…!」
「怖じ気づいたのか?」
「…何?」
「標的は二人だが、調べた段階ではアジト内には恐らく数十人。それに対してこちらの枚数は二枚。多勢に無勢だから、怖くなったんだろう?」
「んな筈がねえだろ。そっくりそのまま言葉を返すぜ。怖えんだろ、手前が」
「どうしてだ?」
「確かに今日の日のために綿密な調査と準備を行ってきた。だが、いざ作戦実行となっても、実は作戦は非現実的、つまり実行不可だとわかった。だが、手前はそれでも勇み足だ。わかるか、チーズが鼠取りの中に入っているのを認識していながら、自らチーズを得に行く鼠なんだよ」
「だが、それではチーズは得られない」
「引き返そうぜ。作戦は中止だ」
「何を言っている?仕事だ。上司命令だ」
「手前はつくづく利口じゃねえなあ。チーズは鼠取りの餌にならないとわかれば、必ず別のものに変える。つーことはだ。チーズを鼠取りの中から出したその瞬間。その瞬間を狙い、チーズを奪ってやりゃあいい」
「プロシュート」
「わかったか?」
「…だったら俺一人で行こう。お前は黙って帰ればいい。作戦は俺が実行する」
「正気か!?」
「暗殺者に失敗は許されない。だが、それ以前にミッションから逃げることは大罪だ!」
「お、おい…!
…ちっ、今回も失敗だぜ。院長先生よう」
『患者は?』
「今病棟の連絡通路方向に向かってる。一応看護助手を数人待機させてあるから、あとは奴らに任せるぜ」
『ああ、ご苦労』
「厄介な患者を連れて来ちまったなあ、先生よう。だが、俺も一人の医者だ。これからも地道に続けるさ」
『任せよう、プロシュート先生』
「まずは暗殺者っつう妄想をどうにかするべきだったか?」
『いや、予想以上に患者の妄想は激しい。狂気を抑える我慢を身に付ける。貴方の治療は間違っちゃいないはずだ』
「ありがとよ、先生。…今回の件は少し多目に見てやってくれ」
『ああ、勿論だ。それより、かかりきりにさせてすまない』
「いいや、給料の内だぜ」
『頼んだぞ』
「ああ。じゃあ、また」
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