笑う星屑
2011.05.16 Mon
あたり一面に厭きれるほどの星が散りばめられていた。
空気は驚くほどに澄んでいて、それでいて肺を突くように冷たい。
風の音も虫の音も聴こえない、自分の心音だけが煩い夜の出来事であった。
「我儘で、嫉妬深くて、疑い深くて、どうしようもないくらいに派手で、起伏が激しくて、張りつめていて、辛らつな言葉を吐いて、攻撃的で、寂しがり屋で、危険ばかり冒して、荒っぽくて、野心が強くて、騒々しくて。そんな俺でも好きでいてくれるか?」
青年の言葉は甘くない金平糖のようであった。
夜空に輝く星に似ている。
星空のスクリーンのもとに、暗殺者というドーランをすっかり落としてしまった役者が一人立っていた。
彼は素のままで笑って、物語の起点にも満たない台詞もどきを吐いた。
結いが解けた金糸をわずかな夜風になびかせて、彼は一人ただ笑っていた。
「人を好きになるということは、自分を曝け出しているようで偽ってるようなものなんだな」
彼はただ笑った。
もしその言葉が真実であるのならば、彼のその言葉も微笑みすらも嘘になる。
ただ一つ言えるのは、彼の言葉はまるで甘くない金平糖。
いがいがと舌を刺激して、甘味に酔いしれる自分を邪魔するだけ。
邪魔になったらただ口の中から吐き出していくだけ。
そういえば、シチリアの夜に見上げる星空はまるで宝石のようであった。
いつ天上から降り注がれてもおかしくないくらいの満天の星であった。
それで、今はどうか。
まるで絵に描いた星空。
その前に立つ彼は、まるで絵に描いた天使のような不気味な微笑みを浮かべている。
「好きでいて、くれねえか?」
彼がもう一度笑った。
真っ暗闇の夜なのに、オレンジ色の警報ランプが頭の中で輝いていた。
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