ファンタスティック・インファンティサイド!2
2011.05.14 Sat
「おう、リゾット!」
「大きい声で呼ばないでくれ、恥ずかしい」
「何っ言ってんだ、ここは俺の店だぜ」
「だ、だってあっちのおばさんが、笑ってる」
「気にすんなよ。で、今日はいくら持ってきた?」
「えっと、これだけある」
「ふーん。まあいい、今日はサービスだ」
「え、いいッ、払う!」
「いいんだよ、ここは俺の店だからな」
「……グラッツェ」
「今日は冷えんな。チョッコラータ・カルダなんてどうだ?」
「カッフェ!」
「馬鹿、お前いつも眉顰めて飲んでんじゃねえか。苦いの苦手なのばればれなんだよ。大人しくお子様は甘いの飲んどけ」
「……わかった」
「なんだあ?今日はやけに聞きわけがいいじゃねえか」
「そんなつもりはない」
「可愛くねえな。俺がガキの頃はもっといい子だったぜ?」
「別にいい子じゃなくていい。俺は俺だ」
「よくできました。お前はお前、それでいい」
「うん(うわあ、どうしよ、また顔が近い、頭なでてくれて、手おっきい、あったかい)」
「それにしても、お前はいつまでたってもチビだな。ちゃんと飯食ってんのか?」
「食べてるぞ。それにチビじゃない。今にプロシュートよりもおっきくなる」
「はいはい、寝言はマンマの胸の中でな」
「俺は子供じゃない!」
「なら小さな紳士ってとこか?紳士でもねえけどなあ」
「ば、馬鹿にするな!」
「馬鹿にしちゃあいねえよ。まあ、どうあがいたってお前が俺の歳を追い越すこたあねえんだ。俺からしちゃあ、お前がいくらでかくなろうが大人になろうが、いつまでたっても子供だぜ」
「……そんなこと、ない(悔しいけど、それは認めざるを得ないんだ)」
「それ」
「え、あ、……」
「新しいの淹れなおそうか?」
「いや、飲むよ。プロシュートの作ってくれる飲み物はなんだっておいしいから」
「冷めてるぜ」
「冷めててもいい」
「あっそう」
「……」
「美味えか?」
「うん、すごく(どうしよ、どうしよ)」
「ならいい」
「うん(どうしよ、どうしよ、どうしよ、)」
「……」
「……(言わなきゃ、いけない)」
「あ、あの、」
「あ?」
「俺、明日、引っ越すんだ(ああ、言ってしまった)」
「どこに?」
「海の見えるところに(ああ、言ってしまった、どうしよ、)」
「ふーん」
「だから、お別れしに、きたんだ(ああ、言ってしまった、どうしよ、お別れなんて、)」
「……お前、泣きそうな顔してやがる」
「え、」
「いつまでたってもガキだな」
「そんなことない(なんで笑顔なんだ、しかも、綺麗)」
「リゾット」
「ん(名前、呼んでくれるのは、最後かもしれない)」
「……この街は好きか?」
「え、……好きだ。たった一年と半年しかいなかったけど、好きだ」
「だったらよ、」
「ん?」
「だったら、またいつでも来な。淹れ立てのカッフェを出してやる」
「……ああ!」
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