ファンタスティック・インファンティサイド!
2011.05.13 Fri
「ぷ、プロシュート!……さん、」
「……」
「あ、あの、」
「……お前、また来たのか」
「その、俺、」
「ここは小学生がのこのこ来るところじゃねえぞ。見ろ、お前以外親父か淑女しかいねえ」
「いいじゃないか!お、俺はもう子供じゃない!」
「子供じゃねえか。だいたい、それ」
「え?……こ、これは、」
「スクールバッグから教科書はみでてんぞ。ほら、帰った帰った。安いカッフェも頼めねえガキに用はねえんだ」
「ま、待って!ちゃんと今日は、ほら、金持ってきた」
「ん?足りねえぞ」
「え!?」
「冗談だ、クソガキ。待ってな、今最高に美味えエスプレッソ淹れてやる」
「う、うん!……ありがとう、ございます」
「手前みてえなカウンターにすら届かねえ奴に出すなんて初めてだぜ」
「う、うるさい。俺はじきにプロシュートよりおっきくなるんだ」
「はいはい、期待してるぜ。ほら、飲め」
「うん。……ぅ、」
「どうだ?そりゃあこの俺が淹れたんだから、美味いよなあ?不味いはずがねえよなあ?」
「……す、すっごくおいしい!だって、プロシュートは世界一のバリスタだもん!」
「そりゃあどうも。いいこと言ってくれんじゃねえか」
「(本当は苦くて飲みづらいなんて、この人の前では絶対に言えない!)」
「……どうだリゾット、この街は慣れたか?」
「うん、だいぶ。学校も楽しいし、街の人はみんな優しいし、その……プロシュートにも会えたし」
「あ?俺?」
「え、いや、その!ぷ、プロシュートの、バールにも、出会えたし!エスプレッソ、すごくおいしい、です。『ふいんき』も、」
「『雰囲気』?」
「う、うん、雰囲気もいいし。引っ越してからそんなに経ってないけど、俺はこの街のことが好きだ」
「そうか。俺もよう、好きだぜ」
「え!?」
「この街がな。まあ、海が遠いっつうのも今じゃ悪くねえ」
「……(どうしよ、俺のことじゃないのに、すごくどきどきしてる)。」
「……お前、顔真っ赤だぜ。熱でもあんのか?」
「え、い、いや、元気、です!」
「ほら、デコ」
「え、(うわあ、顔、近い、綺麗、睫毛長い、真っ白、)」
「んー、ちょっと熱いな。ここんとこ天気悪いし、気をつけな」
「うん、そうする、よ(どうしよ、どうしよ)」
「しょうがねえ。折角来てもらったんだからよ、坊や。俺が今回だけはサービスしてやる」
「え、う、うん(どうしよ、どうしよ、どうしよ)」
「アッラ・ペスカ。飲めるな?」
「うん、(どうしよ、どうしよ、どうしよ)」
「今日は暑ィなあ。夏みてえだ。どうせなら薄着の姉ちゃんでも寄ってくんねえかなあ」
「そ、そうだな(プロシュート。プロシュートが、俺のおでこに、ごつんって、どうしよ、どうしよ、ね、神様、どうしたらいいんだ)」
「……リゾット?」
「……あ、あの」
「どうした?」
「その、俺、……好きだ!」
「……」
「……あ、あ、(どうしよ、言ってしまった、男なのに、大人なのに、子供なのに、俺おかしい、でも、すごく好き、プロシュートが、好き)」
「そうか。……ほら、飲めよ。そんなに楽しみだったのか、アッラ・ペスカ!」
「え、」
「お前、実はカッフェが苦くて飲みにくかったろ?ずっと眉間にしわ寄ってたぜ」
「あ、あの、」
「これだったら甘いからな。お子様にも飲みやすいくらいにな」
「子供じゃない!」
「子供だろ。少年、坊や、おぼっちゃま。とっととそれ飲んでゆっくり家で休むこった。明日も学校あんだろ?風邪ひいて休むようじゃあ俺の店に来るな。来るんだったら、また元気になってから来な」
「ああ……(そんなのじゃないのに。ただちょっと、胸が苦しいだけなのに)」
「明日」
「ん?」
「明日、暇だったらまた来いよ。サービスしてやる」
「……うん!」
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