RUNDOWN
2011.05.08 Sun
「えー、そのソファ捨てるの?」
「捨てるも何も、こんなスプリングも綿も飛び出してるような壊れたものはいらないだろ」
「まあ確かに汚いけどさ。でも、俺にとっては思い出の品だから、せめて次のアジトにも運んでくれないかなーって」
「あ?だったら手前で運びやがれ。俺は手伝わねえからな。おいリゾット、メローネ、俺は先に引っ越し先に行ってるから」
「ああ、頼む」
「酷えの。車の運転できないからって、ギアッチョと先に行っちゃうなんて」
「プロシュートには荷解きを頼んであるんだ。俺たちはこのソファを捨てに行く」
「やだよ、だってこれは俺の思い出のソファだもん」
「だもんじゃない。ほら、そっちを持って」
「えー」
「えー、じゃない」
「わかった。わかったからさ、少しだけ話していこ」
「そんな暇はないぞ」
「いいから。ほら、そっち座って」
「わかった、少しだけだ」
「そうこなくちゃ」
「ただし、ソルベが運搬から帰ってくるまでだな」
「わかったわかった。このソファさ、ついにつぶれちゃったね」
「俺がこのチームに来た時にはすでにあったからな。その時点で見た限りでは随分と古そうではあった」
「そうなんだ。こいつさ、座るたびにギシギシ音立つし、こっち側のスプリングが壊れてバランス悪いし、そもそも革が剥げてボロボロだし。いいとこ全然なかったよね。でもさ、なんとなくだけど、こいつが結構好きだったんだ」
「そうか」
「あ、火。どーぞ」
「グラッツェ」
「煙草もほどほどにしときなよ」
「ソルベが返ってくるまでの時間つぶしだ」
「あー、酷い。俺の話なんて全く興味ないでしょ」
「半々ってところだな。興味がある一方で全く興味がない」
「ふーん。まあいいや、聞いて。でさ、俺が来た時には当然だけどこのソファがあって。そういえばここでいろんなことがあったなって。ふいに思ったって、そういう話」
「興味がさらに薄れた」
「酷ッ!……あんたがそんなに薄情な人だと思わなかったよ」
「疲れてるんだろ。誰かが古い資料を見つけては目を通しはじめて、結局作業がなかなか進まなかったんだからな」
「それって俺とプロシュートのこと?」
「誰とは言わない」「あはは、さすが俺たちのリーダー。でね、このソファって、俺がこのチームの一員となって初めてあんたたちと共有した場所なの。前のリーダーが俺の名前をくれたのもここだし、打ち合わせをしたのもここで、もう内容を覚えてすらいねえ会話をしたのもここ。思えば初めてホルマジオの飯食わせてもらったのもここだったな。そこの壁にかけてあった鏡からイルーゾォが出てきたのを見たのもここでだったし。いろいろあったなーって、思った」
「お前たちが酔っ払ってはしゃいでこのソファの上で踊りは寝たことがあっただろ。その時ついにスプリングがいかれたんだが」
「そんなこともあったねー」
「スルーするな。経費で落とせなくてしばらく悩んでいたのに」
「あ、マジごめんね。俺のせいだ、それ。でもリーダーだってソファの上に乗っかったことあるの、俺ちゃんと覚えてるからね」
「あ、あれはゴキブリが出たから退治しようとして、」
「あからさまに逃げてたくせに。あんときのジェラートは男前だったな。まさか丸めた雑誌でバチンとかね」
「あ、ああ、」
「まあそれはいいとして。一番覚えてることはさ、兄貴もといプロシュートとここで初めてディープキスしたこと。まあ、あの人めちゃくちゃ酔っ払ってたから、結局覚えてなかったみたいだけど。あの時すっごく興奮して、下らねえことだけど、このソファ見るたびにドキドキしちまうんだよね。童貞みたいにさ」
「お前にもそんな純真な心があったんだな」
「やだな、俺はいたって純情な心の持ち主なのに。あはは」
「お前が何を言いたいのかは分からないが、俺の話もしてやろうか」
「あ、聞きたい」
「俺はプロシュートとの初めてはここでしたんだ。スプリングが軋んでうるさいし、そもそもソファが狭いしで結構大変だった」
「うわ、生々しい」
「精液が飛び散った時は散々だったな。確か今お前が座ってる所に、」
「ありゃりゃ、それは酷い。まあ、これであんたと俺とが同じ生き物だってのがわかったよ。ちょっと嫉妬するけどね」
「お互いさまじゃないか。俺だって無防備なあいつを見てみたいさ」
「これってさ、実は挟殺ってやつ?俺とあんたとで、プロシュートのこと苦しめてる気がする。まあ、俺のことなんて気にもしてないだろうけどね、そんなことがあったなんて知りもしないだろうし」
「さあな」
「あ、ソルベの車だ」
「おしゃべりはおしまいだ。とりあえず荷物を運ぼう」
「このソファは?」
「後回しだ」
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