ポルターガイストと朝食を
 2011.05.07 Sat
ああ、聞いてやってください。ただ聞くだけで結構なのです。ええ、はい、まあそれほど長い話にならないように努めはしますが、話せば長いのです。わざわざお手を煩わせてしまってすみません。ああ、いえ、私がただお話を勝手にしていくだけなので、どうぞお手をお止にならないで。本当は手紙にでも書くつもりだったんですけど、文字を連ねていくうちに自分でも何が起こったのか分からなくなってしまったんです。ええ、はい、まあせいぜい小言だと思っていただければ結構です。
私がリンゴを好きなのをご存知でしょう。ああ、ええ、ご存じないでしょうね、一言も申したことはございませんから。朝には自分で剥いてカットして食べるのが好きなんです。昼には茎をつまんで皮ごと丸かじりするのが好きなんです。はあ?……はあ、ああ、そうですよね、あなたがご覧になられたことがないのも当然ですよ、なんせ人目のないところで食べていたもので。でも、アジトにときどきかごの中のリンゴなんていう絵画的なモチーフがあるでしょう、あれね、実は私が自分で食べるために用意したんですよ。みんなは共用財産みたいに何も言わずに勝手に食べますが、ええ、まあ私もさして気にしているわけではないのですが。
まあ、そんなわけで、私はある日自分で食べるためにリンゴを剥いていたんです。そうですね、ちょうどみんなが出払ってて……確かあなたは執務室で仮眠をとっていた時の話です。この日はめずらしく皮が一枚につながって蛇みたいにトグロを巻いて、ひどく機嫌が良かったものです。しゃりしゃりとナイフが赤い服をひん剥いて行くたびに、自慰で得られるような恍惚感に似た悦に入ったものです。ああ、それで、まあ私はその裸のリンゴにナイフを突き立てたんですよ。うまく八等分にして、フォークにそれをさして食べたんです。季節外れなのでたいして期待してもいなかったのですが、蜜たまっていてなかなかおいしかったと思います。そんな日の出来事だったんですから、もう私はあの時ひどく混乱してしまいまして。ええ、はいそれで、なにが起こったかといいますと、あの青白い顔の男が私の手に持つものを見た途端血相を変えて、私に飛びかかってきたのです、そりゃあもう恐ろしいくらいに真っ赤になりまして、まるで皮を剥く前のリンゴのように真っ赤でございまして、私はどうしたらよいのか分からなくなったのです。曰く、彼は「リンゴは嫌いだ」と喚きながら私の首元を掴みました。彼が大声を出すのも無茶な動きをするのも見慣れてはおりましたが、まさかたかがリンゴでこれほど大暴れするとは夢にも思わなかったのです。厭味なくらいにきちっと結われた髪もばらばらとほどけて乱れて、スーツの襟なんてだらしなくよれていたのです。私が思うに、もしも彼が子供を産めるとして、彼はきっと癇癪を起してこうやって子供の首を絞めてしまうのかなんて思っても見たり、ええ、話がそれてしまいました。それでなのですが、私も私でどうしてかかっとなってしまいまして、手に持ったナイフを思わず振り上げてしまったのです。迂闊でした。とてもではないが、暗殺者として冷静さを欠いたことを恥じておりますとも。それで、そのナイフで私は彼の首筋を切ってしまいました。ええ、それほど大した怪我でないのが、自分でいうのもお門違いなのですが、よかったです。おそらくいつも小奇麗にまかれたあのスカーフのおかげだと思います。はい、ええ、そう、その、そのスカーフを剥がして傷口を見てやりますと、なんとまあ白い皮膚から赤い鮮血が流れていたものですから、何とも興奮したものです。なんせ、リンゴと反対の配色だったものですから。リンゴは赤い服を剥ぐと、白い裸体が出てくるでしょう、そう、それで、彼はといいますと、白い皮膚を切ってやると中から赤が剥き出しになったのです。これって、ひどく興奮しやしませんか。ええ、まあ、あなたに同意を求めるのもおかしな話で……。
あはは。
そう、それで、そんなことはどうでもいい話なのです。ええ、だから言ったでしょう、話せば長い話なんだって。ここまでの話が無駄な与太話だとは思わないでください。先ほど話したことが重要なのです。
ええ、それで本題に入りますと、私は彼と懇ろな関係になってしまいました。ああ、お許しください。勿論彼の心はあなたのもとに、そして私の心は何処か遠くに置き去りにしてきたつもりではございます。ですが、彼が子供のように泣きますので、つい私も今まで抱いていた下心が剥き出しになってしまったのです。いわば彼は果物ナイフのような存在で、私の装っていた何にでもない心を剥いで内に秘めた熱情を剥き出しにしてしまったのです。私はリンゴを食べるのが好きだといったでしょう、それで、いうなれば私は食べごろのリンゴがおいしそうな状態であったのです。そりゃあ勿論そうであるならば私は迷わずリンゴを口に運びます。ええ、そういうことです。私は彼を、まるでリンゴを食べるように暴いてしまったのです。あなただって好きなものが目の前でおいしそうに用意されていれば迷わず手を伸ばすでしょう。そういうことなのです。
ええ、それで、その、リーダー……ごめんなさい!
あ、ほんと、あ、マジすみません謝るから!
痛、ギャッ、メタリカとかまじもう……、あ、ほんとすみません、ほらその、出来心で……。
え、ああ、あの、プロシュートもなんでだかノリノリで、いや、はいごめんなさい、プロシュート兄貴には何の罪もございません、え、あ、あ、あの、すみません、ほんとうにごめんなさい!

[*前へ]  [#次へ]



戻る
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
あきゅろす。
リゼ