「ふうすけ、くん。」
突然零れた言葉は、何故かあの人だった。
満開の桜が吹雪のように青空を春風に乗って舞っている暖かい正午過ぎ。私はお日さま園から徒歩10分程の公園に一人で来ていた。
どうしてだか、一人で桜を見たかった。
何故無性に桜が見たくなったのか分からない。けれど、胸のあたりがもやもやとしていたというのに満開の桜を見た瞬間に、もやもやが少し消えた。
それでも、少しなんだけど。
たった今呟いた名前は、もやもやが消えた途端に出てきた。
なんで風介くんなんだろう…。
そう思っても答えなど出ない。
溜め息を吐いた時だった。
「クララ。」
「ふうすけ、くん…。」
振り返ると、風介くんが立っていた。どうしてなの。またもやもやしてきた。なにかが溢れちゃいそうだよ、風介くん。
そもそも、このもやもやだって風介くんの所為なんだ。
今朝、風介くんと由紀が楽しそうに話してた。それを見た途端に胸がもやもやした。なんでなの。こんな気持ち、知らない。分かんないよ。
なんだか無性に腹がたって、風介くんを睨んでやった。
「クララ、帰ろう。」
妙に優しく話す彼に違和感を感じる。はて、彼はこんなにも優しかっただろうか。
「…帰りたくない。」
風介くんと一緒にいるとおかしくなりそうなの。
拒否を示すと、彼は私の右手首を無理矢理取った。
「風介くん…?」
「私はクララと帰りたいんだ。」
どくん。
心臓が激しく高鳴った。
なにこれ。顔が熱くなる。なにこれ。
そんな優しい顔で嬉しいこと言わないで。
どうしよう隠しきれない